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最適解

先日、梅田のヘップをうろついて服を眺めていた。白いオフショルのニットを着たマネキンを見て、ふと中高時代の友人のことを思い出した。
つらつら書いていこうと思う。

オフショルってこういう感じ

ゆりあの日々

友人の名前はゆりあ。3人兄弟の真ん中で、兄と弟がいる。
ゆりあの両親はバリバリの医者夫婦で兄は勉強が抜群にできて(確かどこかの医学部に行った)弟は体操がバリバリにできてオリンピック選手を目指せるレベルだ。
ゆりあの両親は北斗の拳が好きだ。
だから、兄の名前はケンシロウだし、ゆりあはゆりあだし、弟はトキ…にしたかったけどキラキラネームになっちゃうからトキヤ、らしい。いわゆるキラキラネーム的感性だけどよほど北斗の拳が好きな家族だなと当時の私は思っていた。

また、ゆりあの両親はそこそこ子供への教育の熱量が強く、兄弟全員を私立進学校に入れて家庭教師をつけて習い事はみんな体操をさせていた。
ゆりあも親の期待にこたえるために日々体操と勉強に励んでいた。なんやかんや言って中1から高2までずっと同じクラスだったし弁当も一緒に食べるぐらいの仲だったからその頑張る様子をなんとなく知っている。

ゆりあはとても芯が強くて頭が良く、自分の意見をハッキリ言うタイプだった。言葉は毒舌だけど友達には優しくて、ヤンキーみたいな子に絡まれても何かしら言い返して庇ってくれる、姉御肌みたいな子だった。

だけど私服はかなり可愛い系で、みんなで遊びに行く時も真冬なのに肩が出るような白いニットを着てたりミニスカートを履いてたりしてかなりオシャレが好きそうだった。肩が出る服は体操で鍛えたゆりあのゴツい体にはちょっとアンバランスだったけど、自分の体型を気にしながらもその服を着たいという熱意がそんな印象よりも勝っていたので「似合わないとわかっていても着たい服を着れるっていいなぁ」と感じていた。

ゆりあは部活もせず学校から帰ったらいつも体操か勉強に熱心に取り組んでいて、とくに数学がよくできた。私たちが中3のときにゆりあは先取りして家庭教師に高校2レベルの数学を教わっていた。当時、家の方針で塾を一切禁止されていた私からすると、とても羨ましかったのを覚えている。

「そんなにはやく勉強できてすごいね」「数学得意なの?」って聞いたら「そんなことない。むしろ私の頭じゃこれぐらい先取りしないと医学部なんて受からないから」と返されて「医学部行くってそんなに大変なんだ…」と私は素朴に感心していた。

ゆりあの挫折

そんなゆりあの様子が変わったのが高2のころ。
ゆりあはいつもすきま時間を見つけては頑張って解いていた家庭教師からの宿題をあまりしなくなった。そして話す内容からも将来の話や前向きな話がいつのまにか減っていった。

不思議に思った私は「最近は宿題の量減ったの?」と聞いた。ゆりあは「そういうわけじゃない。私は早めに先取りで勉強して対策してきたけど、それでも地頭が悪くて私のペースじゃ医学部に行けないことがわかった。だから、もう、看護学科を目指すことになったの」と答えた。
医療系で医学部からレベルを落とすのなら、他にも薬学部とかあるしそっちを目指してもいいんじゃないか、今まであんなに頑張ってきたのに急に看護に変えるのはいくらなんでも極端すぎないか、そもそも今の時点でみんなより早く先取りして勉強できてるんだし十分頭いいじゃないか、そんなのはおかしい、と私は反論したが、
ゆりあは「いいの。もう勉強疲れたし、私は兄貴ほど賢くないし。弟ほど体操もできない。薬剤師は仕事なくなるかもしれないけど、看護は需要あるから、私はそれでいい。それが最適解だから」と言った。私はそれでも何か気の効いた言葉を友人としてかけたかったけど、自分には想像のつかない体験すぎてどう共感していいかわからず、ただただ困って「そっかぁ…」と言うことしかできなかった。

進路を変えて体操もやめたゆりあには、なりたいとも思えない将来と可愛い服が似合わない逆三角形のたくましい体と無気力な日々が残った。

ゆりあの最適解

「最適解」って、なんなんだろう。自分に合ったものを客観的に見れる人に選んでもらってそれに毎回従い続けることなんだろうか。
そして、きちんと従い続けてもゆりあみたいに上手くいかなくなったら、選んできた選択の結果は何になるんだろう。それまでにした選択の中に自分の意思が何割か含まれていたならある程度諦めがついて納得できるんだろうか。

ゆりあの選んだ「最適解」はゆりあの親にとっては最適解だったかもしれないが、ゆりあにとっての最適解だったんだろうか。答えは本人にしかわからない。

高3になってクラスは離れたけど、それ以来そんな問いがしばしば、人生の岐路に立つ度に私の中に浮かびあがってくるようになった気がする。

何かに特化して努力する時、「誰かがこう言ってたから」という安易な方針ではなく、自分なりに納得した上でそれなりの覚悟を持って挑む必要があるのではないか。ゆりあの挫折を目にして以来、自分はそんな風に思うようになっていたことにマネキンを見て気づいた。知らず知らずのうちに人から影響されてるものなのだな、と感じた時間だった。

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