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Cashmere Catがアルバムを出すこと Vol.1(歌姫編)

2 Chains, DrakeWiz khalifa, Charli XCX, Tinashe, Ariana Grande...今年に限って言えばKanye West, Frank Ocean, A$AP Ferg, Britney Spears, The Weekend, Francis and the Lights, Travis Scott....

さて、以上のビッグネームと肩を並べる人物、間違いなくタダモノではない。さては巨額のカネを叩いたか、果ては悪魔に魂を売ったか。スターダムに登り詰めるための正攻法を順序通り進んでいては、これだけのアーティストから声が掛かることはまずない。

しかし、現状としてたった1人のトラックメイカー/プロデューサー/DJが、たった4年という短いスパンで彼らと仕事をしている。しかも請け負った、または手掛けたトラックのほぼ全てがその瞬間の、ひいてはその年を象徴する作品として高く評価されている。

継続して質の高いトラックを作っていくことも重要だが、彼の場合はその腕でチャンスを掴むため、その場限りの単発で終わるような仕事は選ばないという明確な線引きがある。そんなセルフコントロールを完璧にこなすクリエイターがこのスタンスを貫いていけば、自ずと2016年以降も名作に携わり、自身の作品でも傑作を生み出すこととなるだろう。

ここまで名前を言わずにいたが、もうそろそろ記しておこう。Magnus August Høiberg、改めCashmere Catが上記に言及してきた人物である。28歳の若き才能は今では珍しくない「未だフルアルバムを1枚も出していない」アーティストの1人だ。3枚のEP、6曲のシングル、20以上に及ぶプロデュース作品を世に放っていながら、彼自身、自分名義でのアルバムリリースにまだ至っていない。

そんなCashmere Catが、2016年、ついにアルバムを出す。人によってはこの一節だけで歓喜するものだが、改めてそれがいかにエポックメイキングなことか。近年の活動から今日に至るまで、”あるカテゴリごと”に絞って振り返ってみることにする。

 ノルウェー出身のCashmere Catは2003年(この時若干16歳)で DJの活動を開始。経歴全てを振り返ると長文になるので、彼の出自であるベルギーのレーベル:Pelican Flyについての記事(Cashmere CatやLidoを見出したレーベルPelican Flyとは?!:FNMML), 彼のSoundCloud、その他大まかなプロフィールなどが述べられたブログなどを参照してほしい。

冒頭に”スターダムに登り詰めるための正攻法〜”と述べたが、実は彼がメディアに大きくフィーチャーされる際の共通項として「ディーヴァ(歌姫)」の存在が欠かせない点において、プロデューサー業の王道を歩んでいると言える。

まずは彼を一躍ポップシーンのど真ん中まで知らしめたAriana GrandeBe My Baby (featuring Cashmere Cat)」(2015)を挙げよう。

彼女の最新アルバム『My Everything』の中でもZeddと等しく、トラックメイカーとしてフィーチャリングネームにクレジットされた同曲を聴くと、チル要素をふんだんに盛り込みながらトラップやフューチャーベースといったジャンルを通し、伝統的なR&Bのベタさを再構築していることに驚く。逆に彼自身がAriana Grandeを客演に迎えた同年のヒット曲「Adore」 (2015)では、そんなR&Bの再構築を構造から巻き戻し、彼女のヴォーカルをエディットとして解釈するトラックメイカーとして気質が垣間見える。トラックメイカーとして構築・分解、再構成を双方向で可能できるテクニック、それを28歳で会得しているのはまさに才能と言っていいだろう。

Arianaとの相性の良さを証明する前年にも彼の類稀なるトラックセンスを感じる曲がある。それがCharlie XCXのデビューアルバム『Sucker』(2014)からシングルカットされたニューウェーブパンク「Break The Rules」だ。

ネットを中心にバズっていた彼女をティーンエイジャーのアンセムガールとしてアップデートさせたこの曲は、Charli自身とCashmere Cat、そしてBeyonceNe-Yoも手がけ、90年代後期〜00年代を代表する音楽プロデューサー集団:Stargateが参加している点でも見落とせない(StargateにはTor Erik Hermansen, Mikkel S. Eriksenというノルウェーを代表するプロデューサーがメインでおり、90'sのバウンシーなエフェクトとグルーヴを影響とするCashmereとは出会うべくして出会った、というべき)

Stargateとは同年にもTinasheAll Hands on Deck」を共作しており、北欧出身のトラックメイカー達がほぼ同じタイミングで未来を担う英米のディーヴァを仕事相手に選んだのは、非常に興味深いトピックである。

そして今年、Cashmere Catは満を持すようにしてBritney Spearsとクレジットを共にする。彼女が今年リリースした『Glory』に収録された「Just Luv Me」は音数の抑えた浮遊感あるR&Bトラックであり、エフェクティブな効果で足し引きをするCashmereにとって、まさに"Britney仕様"にデザインした特注作である。

北欧、歌姫、電子音というと近年ではBjorkが連想されるだろうが、彼女と共振したArcaはメロディレス/ビートレスなアティテュードを持ってBjorkの歌、ビジュアル、テクノロジーを巻き込むプロジェクトに自身の音を融解させていった。

Cashmere CatはそんなArcaとは逆行している。まさにそのArcaと反転したメロディアスで多様なビートこそ、彼が数多の歌姫と共振できる根拠となっている。が、彼が今後Bjorkと仕事をすることはない、とは言えない。なぜならArcaもCashmere CatもKanye Westの作品に参加し、ヒットチャートの作品をその経歴にクレジットしているからである。いつかそれぞれの名前がクロスオーバーする日も近いかもしれない。

Arcaが関わった1曲:Kanye West「Blood on the Leaves

Cashmere自身はArcaの2nd『Mutant』を気に入っているよう

Vol.2 へ続く

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