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Francis snd the Lights - Farewell, Starlite!

日本時間で9/25の深夜、突如としてFrancis and the Lights(以下:FatL)のニューアルバム『Farewell. Starlite!』 がリリース。今現在ではApple Musicなどのストリーミング配信もなく、特設サイトにて全曲が視聴できるのみになっている(※現在は各配信サイトでダウンロードリリースされている)。

Tracklist:
01. See Her Out (That’s Just Life) (co-prod. Justin Vernon)
02. Comeback
03. Can’t Stay Party
04. I Want You to Shake
05. May I Have This Dance
06. My City’s Gone (feat. Kanye West)
07. Running Man / Gospel OP1
08. It’s Alright to Cry
09. Friends (feat. Bon Iver and Kanye West)
10. Thank You

自身のミドルネーム含めた名前("Franxis Farewell Starlite")を冠した新作は、期待通り、2016年を締め括る前に世に放たれた。

すでに公開されていた「Friends」「See Her Out (That’s Just Life)」といったシングルに見られる現行のインディーR&Bのトレンドをベースにしているものの、Francis and the Lightsはその領域では止まらず、よりメジャーシーンに近いところで新時代のスタンダードを鳴らそうとしているように聴こえる。

Bon Iver, Kanye Westのゲスト以外にも、Cashmere Cat, Benny Blanco, BJ BurtonAriel Rechtshaid, などが参加している。

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2007年に『Striking』をセルフリリース。FatL名義では4枚のEPを発表しており、実はデビューから9年経過した『Farewell〜』が初のフルアルバムになる。

シングル, EPのリリースはあったが、デビュー当時はは現在ほどの知名度はなく、いわゆる日陰を歩いていた時期である。大きくフックアップされたのはKanye West自身のブログでFrancisがカバーした「Can't Tell Me Nothing」が取り上げられた事だ。

2008年に発売された注目のインディーアーティストによるR&Bアンセムのカバーコンピ『Guilt by Association Vol. 2』にも収録されたこの曲により、KanyeからDrakeへと彼の名前は伝わっていく。

その後、2010年にDrakeのデビューツアー"Away from Home Tour"にサポートアクトとして帯同。その経緯もありDrakeのデビューアルバム『Thank Me Later』に収録された「Karaoke」のプロデュースを手掛けることとなる。Kanye, Drakeという2016年にも多大な影響を残したアーティストに認められたFrancisは、この後、さらにその才能を持ってトレンドセッターとなる人物たちと出会うことになる。

話を一気に2015年に移そう。2016年に地続きで繋がるFrancisの仕事の一つとして挙げておくべき作品がある。それがChance The RapperDonnie Trampetを中心としたバンド:Donnie Trampet & The Social Experiment (以下:SoX)によるフリーミックステープ『Surf』の存在だ。

※このアルバムは今もフリーDL可能⇨Link

 新進気鋭の若手プレイヤーからJ Cole, Erykah Baduのようなビッグネームまでもが名を連ねるこの作品はフリーダウンロードでシェアされるも、2015年における音楽メディアが選ぶ年間ベストTOP10に当然のようにランクインするほど、その革新性が評価される問題作となった(『Surf』については国分純平氏ブログが最も深く分析されているので、そちらを是非)

Francisはこのアルバムにソングライティング、コーラス、キーボードなど4曲に参加し、シーンの中心に近い場所へとさらに歩みを進めることになる。

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ここまでは彼の歩みを大きなタームで振り返ったが、ここからは『Farewell〜』に直接影響する作品群・アーティストを切り取っていく。

Chance The Rapperが今年3月に発表した『Coloring Book』はおそらく来年行われるグラミー賞にもノミネートされるであろう2016年を語る上で重要な作品だ。アルバム制作においてFrtancisの存在が大きなインスピレーションを与えてくれたことを、のちにChance自身がインタビューで口にしている。

前述したThe Social Experimentの面々が大半の楽曲をプロデュースしているが、シカゴのラッパー:Jeremihと共にヴォーカルとして参加した「Summer Friends」では『Farewell〜』と共鳴するオートチューンをかけたゴスペルを見事に歌い上げている。8月にはアメリカの情報番組にて同曲のテレビパフォーマンスを行っており、SoXのPeter Cottontale (Key)と共に出演していたのも記憶に新しい。

『Coloring Book』が『Farewell〜』を聴く上で重要な点は、「Summer Friends」の兄弟曲がBon Iver, Kanye Westを迎えた「Friends」だということ。

今年行われたBon IverことJustin VernonとThe NationalのAaron DessnerがVernonの地元ウィスコンシンで主催したEaux Claires FestivalでJustin Vernon, Chance The Rapperがゲスト出演したのも、先述したテレビパフォーマンスへと繋がっていくのである(8/13のステージ共演から3日後にTVパフォーマンスを行っている)

そしてKanye West, Drake, Chance The Rapperと引いた線は当然のようにFranc Oceanを通過し『Farewell. Starlite!』にたどり着くのだが、その線はまたBon Iver『22, A Dream』、Cashmere CatThe WeekendSTARBOY』へと続いていくことになるだろう。

全編においてオートチューンが多用され、時にはFrancis自身の声すら判断できないレベルまでエフェクトが効いている。R&B然としたリズムはデジタルな処理によってグルーヴが抑制され、ブラックミュージックよりはアメリカン・カントリーやトリップホップのような骨組みをしているのも面白い。これはBon Iverにも顕著で、間違いなくこのアルバムの質感はKanye Westが定義した生音にデジタル処理も加え、擬似的に生音の質感を持ったステムを作り、デジタル上でさらにコラージュするという過程から派生したものではないだろうか。そこにCashmere Catに見るハネモノのエレクトロサウンドが乗っかることでサウンドがグッとフロア志向に接近しているのも注目しておきたい。

おそらくこの『Farewell〜』に見るサウンドがトレンドとして浸透している2016年という年が、この先どんな参照点となって振り返られるかわからない。ただ、いまこの時はFrancis and the Lightsの音楽に酔うことが何よりの贅沢だということを、未来に向けて自慢しようと思う。

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