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サイレン

 夕刻になると灰色の霧が太平洋から湾内に流れ込んでくる。
 ゴールデンゲイト ブリッジが忽然と姿を消して、かろうじて一つ目の橋桁とその上の方に橋の黒い陰が見えるばかり。こうなると船を導く灯台の警笛サイレンがモノクロの世界に鳴り渡り始める。低く、穏やかに、大きな客船の汽笛のような音が、3秒間。それから14秒の沈黙。その沈黙の後に3秒の警笛、そしてまた沈黙。
 14秒の長さが不眠の夜にこたえる。ベッドで横になり、沈黙の長さを計っている自分がいる。目をつぶれば脳裏に広がる霧の中で、私は1艘の舟となり、艫綱ともづなを解く。海は荒れているか、荒れているに違いない。私は荒海に漕ぎ出でようとするのか。 
 そうだ、漕ぎ出でてみよう。私は小さな舟である。大海の哄笑の前に怯えながら高く低く、波間に力なく漂う舟である。
 海神の恐怖に耐え切れず、私は時おり警笛を放つ。3秒の警笛。それから14秒の沈黙。いや、それは14秒の希望である。応答はあるか?私は警笛を鳴らし続ける。


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