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夜の客人


夭折の俳人、田中裕明氏(以下、裕明氏)は、存命であれば私と同い年。
波多野爽波氏の「青」という結社で俳句を学び、22歳で史上最年少で角川俳句賞を受賞し、早くから俳壇での地位を確立された。
そして「青」解散後に自ら「ゆう」という結社を立ち上げた。
現在、私が所属している結社のメンバーの中にも裕明氏から直接学ばれてその雰囲気などを聞かされたこともある。
裕明氏は俳句における余情(ポエジー)をとても大切にされて、伝統的なものを大切にしつつ瑞々しい情緒あふれる新しい作風で、今でも若い俳人の間ではファンが多い。

私も裕明氏の伝統的なものを重んじつつその中で新しい発想で韻を踏んだ美しい調べの世界に魅了される。

裕明氏のホロスコープを調べてみた。
観た瞬間に前回調べた星野道夫氏とも重なるものを感じた。

太陽は星野氏と同じ天秤座でMCとほぼ合。
今年、ホロスコープを調べた著名な方が5人ほどいるが全ての方が太陽がほぼMCと合であるとこともまた象徴的に受け止めた。
ASCは山羊座で、土星が合で困難を克服し、真面目で責任感が強い。
カルミネートは天秤座火星で詩情(ポエジー)をとても大切にした俳句の世界に向かって全エネルギーを注力された人生であったように思う。

そして注目すべきアスペクトは10室蠍座海王星と水星がオーブ3度の合を頂点としたASCと合の土星と8室乙女座で合である金星と冥王星で形成されるミニトライン(小三角形)というアスペクトである。
10室の蠍座海王星を通して感じた目に見えない世界を乙女座冥王星の伝統的な美しさや乙女座金星を活かした詩情溢れる俳句の世界を確立されたことが見事に示されている。
同時に9室天秤座太陽、8室獅子座天王星、2室水瓶座月による調停により俳壇という古い結社という体質を打破した新しい俳句の世界を目指された。
まさに今の風の時代を先取りし水瓶座的にひとりひとりの持ち味を重んじつつ自分の内的世界を俳句を通して追求された。


田中裕明


 裕明氏が編んだ最後の句集「夜の客人」が入院先の彼の手元に届いた後、彼は亡くなった。「夜の客人」の最後の章に「法師蝉見知らぬ夜の客人と」という句が揚げられているが、見知らぬ夜の客にまた季語の法師蝉に何が象徴されているのがが読み手に委ねられている。

裕明氏の全句集から好きな俳句を20句ほど。
茫洋としてとらえどころのないものもある反面、どことなく懐かしく、立ち止まってしまうような句の数々。
入院生活においても最後まで俳句とともにあり、ひとりになることへの恐れと寂しさ等の感情を俯瞰した眼で内観し続けられた。


雛の間を覗けば人の寝てをりぬ
くらければ空ふかきより落花かな
ふらんすはあまりにとほしかたつむり
みづうみのみなとのなつのみじかけれ
みづうみの東に苗を余しけりりぬ
をさなくて昼寝の国の人となる
水遊びする子に先生からの手紙
渚にて金澤のこと菊のこと
小鳥来るここに静かな場所がある
空へゆく階段のなし稲の花
教会のつめたき椅子を拭く仕事
爽やかに俳句の神に愛されて
病室にもどればひとり灯火親し
水洟や短かき手紙数書きて
仰臥して冬木のごとくひとりなり
まだ読まぬ詩おほし霜にめざめけり
本読まぬ指さびしかり龍の玉
はつしぐれいくたびも手をあらひけり
冬空やもとよりうすき佛の目
糸瓜棚この世のことのよく見えぬ


裕明と親友であった俳人の四ッ谷龍氏の「田中裕明の思い出」は四ッ谷氏と裕明氏との交流の深さを伺わせる二人だけの吟行やエピソードを通して裕明氏の真面目さ、誠実さを感じた。四ッ谷氏が裕明氏の俳句の形式、句頭韻の調べに関して熱く語られている本書は裕明氏を理解していくのに最適な書ではないかと思う。

http://furansudo.com/archives/9782


裕明氏の全句集は、背表紙は金の文字のハードカバーで裕明氏の俳句を象徴するような小鳥のデザインが美しい。

https://furansudo.ocnk.net/product/108


鳥渡る枕辺に置く全句集

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