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アルツハイマー型認知症の既存薬

今日のポイント

  • アルツハイマー型認知症の既存薬は脳内の神経伝達物質を標的としている

  • 既存薬はアルツハイマー型認知症の進行を遅らせる効果は乏しい

  • 生活の質を高め、介護負担を減らす目的には有効なことが多い

参考文献
[Clin Neurol Neurosurg. 2022 Feb;213:107134.]

本文

2023年7月現在、日本でアルツハイマー型認知症の治療薬として使用されている薬剤は4種類あります。

  • ドネペジル (商品名 アリセプト)

  • ガランタミン (商品名 レミニール)

  • リバスチグミン (商品名 イクセロンパッチ, リバスチグミンパッチ)

  • メマンチン  (商品名 メマリー)

これらの薬剤はどういったメカニズムでアルツハイマー型認知症の患者さんに作用し、どのような効果を発揮するのでしょうか。

アルツハイマー型認知症になった人の脳内では、アセチルコリンが減り、グルタミン酸が増えています。アセチルコリンとグルタミン酸は認知機能や記憶に影響する神経伝達物質です。そのため、認知症の症状を改善する目的で、これらの物質を標的にした薬剤が開発されました。アセチルコリンの減少に対処する減った状態に対処する薬剤が、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンです。一方、増えたグルタミン酸に対する脳細胞の反応を抑制する薬剤がメマンチンです。

これらの薬剤を内服すると、アセチルコリンやグルタミン酸の影響で障害されていた認知機能や記憶が少し改善します。また、認知症の影響で活動性が低下していた方に活気が戻ったり、怒りっぽくなっていた人が落ち着いたり、といった効果も得られる事があります。

これら既存薬がアルツハイマー型認知症の進行を遅らせる、という意見がありますが、そのような効果はない、という意見もあります。既存薬の代表であるドネペジルがアルツハイマー型認知症にどのような効果を発揮するかを調べた研究は複数あります。それら17研究を meta-analysis という方法でまとめて解析した結果では、ドネペジルは認知機能はある程度改善できたものの認知症の進行は抑制できなかった、と報告されています。

アルツハイマー型認知症は突然発症するわけではありません。何十年も前から脳細胞に異常タンパク質 (アミロイドβ, タウ) が蓄積しはじめ、脳細胞が減って脳が小さくなり、認知症の症状が出現します。この最終局面でみられる神経伝達物質の異常を標的として開発された既存薬では、そもそもの病気の進行は抑制できないというのは納得できる話です。

どのようなお薬にも必ず副作用というものがあります。また、費用の問題もあります。この副作用や費用に対して効果が見合わないということで、2018年フランスでは既存薬はいずれも健康保険の適応外となりました。このことからも、既存薬は認知機能を改善させる効果はあるものの、大きな期待はできないということがお分かりいただけると思います。

私が外来で既存薬を処方するときは、活動性の低下や怒りっぽさを改善させて本人の生活の質を上げつつ、介護負担を軽減する事が主目的である場合が多いように思います。このような目的には既存薬が力を発揮して有効な場面が多いです。認知症を良くしたい、認知症の進行を遅らせたい、という方には、期待できる効果と副作用についてお話ししてご理解いただき、それでも希望された場合に処方するようにしています。

アルツハイマー型認知症の既存薬についてお話ししました。最近、アルツハイマー型認知症に新規の薬剤が開発されつつあります。日本では未承認ですが、また別の note 記事で新規の薬剤についてもお話ししたいと思います。

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