リフォーム会社の生存戦略
こんにちは。
記事に興味を持っていただきありがとうございます。
初めに簡単な自己紹介をさせて下さい。
私は東京都内で実需不動産の売買仲介とリフォームの会社を経営するかたわら、時々お付き合いのある同業各社の経営支援をしています。
元々は2次請けのいわゆる職人として起業し、その後様々な挑戦と失敗を経て現在に至りました。
自社の年商は3〜4億円程度とまだ会社としては小さなレベルですが、起業10年目にして元々の既存事業を全て解体し、今の事業にコミットしてゼロから1年半で現在の売上に到達しました。
スタッフの平均年収700万円、経常利益10%水準をキープしており、現在は2027年までに年商10億円までのロードマップを描いています。
ただ一般論としてリフォーム業は経営が難しいといわれる業種で、全体としては
リフォーム会社の倒産が過去最悪ペース
となっています。
ソース@東京商工リサーチ
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198167_1527.html
実際に私のところにくる同業者の経営相談も年々多くなっています。
そこで私が実際に相談として受けた経営課題の傾向や、具体的な解決施策など、あらためて自分の考えをまとめると共に、なるべくわかりやすい言葉でnoteに解説をしていければと思い立ちました。
少し長い記事になるかもしれませんが、経営で悩んでいる同業の経営者さんにこの記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
リフォーム会社に共通する経営課題とは?
一口にリフォーム会社と言っても、下請けや商業店舗がメインのBtoBなのか、一般消費者からの受注をメインとするBtoCなのかで業務体系は変わってきます。
ただどちらも苦しい会社は苦しく、伸び続ける会社は順調に伸びていきます。
私自身がBtoB・BtoCのどちらも経験しているので、ここではどちらにも当てはまる普遍的な課題について触れていきます。
①定量化不足
私のところに相談にくる社長さんのほとんどが、事業の計画や経過を数字としてきちんと把握していません。
「大体」とか「ざっくり」とか、そんな言葉が端々からこぼれてきます。
1件あたりの利益率がわからないのだから、当然全体としても正確な数字がわかるはずがありません。
では何を見て判断しているのかというと、
その多くが現金残高です。
「今月はこれだけあるから大丈夫だ」とか「来月は○○の入金があるから安心だ」といった風に。
中には税理士への報告さえ怠り、決算書作成のタイミングで大幅な赤字を知ったという方もいます。
さらにまずいのが
支払い時の資金ショートです。
建設業では、関連業者との取引のほとんどを商習慣として買掛け・売掛けを前提としていますが、資材や外注への支払額を事前に把握していないために、支払い時点になって初めて現金残高が足りないことに気がつく、といった方がいます。
こうなると関連業者からの信頼を失い、その後の事業継続にまで支障をきたすことになります。
またお金の悩みは非常に経営者を苦しませ、慢性的なイラ立ちや躁鬱など、正常な判断を欠いた行動をとりやすくさせます。
②マーケティング
うまくいかないリフォーム会社の半数が低単価で仕事を請け負っています。
低単価で請け負わなければいけない理由は主に、事業の独自性か集客力そのものが足りていないのが原因です。
高単価の仕事を請けるために「より品質を磨こう」とする方がいますが、一部の例外を除いて効果は薄いです。
下請けであれば発注者と交渉することで単価が上がる場合もありますが、その後の関係性を悪化させるリスクや受注率の低下を招く可能性があります。
売上のほとんどを2社3社に依存していることの多い下請け企業では、生産性向上のための交渉が致命的な関係解消にも繋がりかねません。
そもそも低単価で発注している元請け側も利益水準が低いことが多いため、大幅な価格交渉は難しい場合がほとんどです。
③採用と育成
建設業の人手不足は年々深刻になっています。
ネガティブなイメージの根深い建設業の、ましてやネームブランドのない小さな会社を有能な求職者が選ぶ可能性はほとんど皆無です。
またリフォームは経験がものを言う仕事で、
1人前にまで育てるコストが高い職種です。
当社でも未経験者を雇って育成していたことがありましたが、最終的には半年で自主退職となりました。
採用に100万円、育成に200万円の出費です。
リフォーム業はまだまだOJTやオペレーションの整っている会社が少なく、生産性が低いと1人あたりの役割も増えるため、人を育てられるだけの環境が整っていないというのが実状です。
これらの要因から採用にハードルを感じ、事業をスケールさせられない経営者が成長途上で滞留している印象があります。
成功例と失敗例
まず初めに、記事のわかりやすさを優先し、成功や失敗とタグ付けするような強い語句を用いることをご容赦下さい。
それでもかまわないという方のみ先へお進み下さい。
↓ ↓ ↓
私が分析している中でひとつ共通しているのが、
成功する会社ほど社長自身が強いリーダー
となっていることです。
自らの価値観軸がはっきりしており、数字に強く、施策の企画から実行までのスピードや方向転換が非常に早い印象があります。
反対に、失敗する会社はとにかく腰を上げるまでに時間がかかる上、悩んでいる間も視点があちこちに向いてしまったりと、そもそものチャレンジをやりきることができず、どこかで他力本願な性質があるというのが私の印象です。
それでは実際のケースを用いて解説していきます。
特定を避けるため企業の一部情報は濁しています。
成功モデル A社
A社は高価格帯に的を絞ったBtoCをメインとしており、反響のほとんどをSNSから獲得しています。
SNSでの発信は会社というよりも社長自身の住宅デザインへの考え方や仕事への情熱、自由なライフスタイルなどが中心で、ファン化によるエンゲージメント(ユーザーとの繋がり)を意識しています。
同時に内部では徹底した外注化を敷いており、協力業者も彼のファンであるプロフェッショナルが集まっています。
広告費もほとんどかけていないばかりか、顧客との打ち合わせも自宅兼モデルハウスで行っており、社長と助手という事実上たった2人で年間5000万円を超える営業利益を生み出しています。
年商20億円・従業員数70人といった規模で営業利益5000万円のリフォーム会社もあることから、A社は十分に立派な成功モデルといえるでしょう。
成功モデル B社
B社は内装仕上げ業のBtoBで、元々は賃貸住宅の原状回復工事を主に請けていましたが、その後方針転換して商業施設やビルの内装仕上げに特化しました。
集客は非常にシンプルで、商業施設・店舗・ビルなどの改修工事を請け負う建設会社に絞って営業活動を仕掛けています。
半数が社員職人であることの機動力の高さや圧倒的なスピードを売りとしており、内装職人の慢性的な人手不足もあいまって順調に売上と利益を伸ばすことに成功しました。
賃貸リフォームに比べて単価交渉がしやすく、案件あたりの面積が大きいことや夜間作業もできることが生産性を高めました。
飛び抜けて利益率の高いモデルではありませんが、やっていることは変えず、ターゲットを変えて成功した再現性の高いモデルといえます。
失敗モデル C社
C社は一般消費者向けに水まわり設備の交換や大工工事・ガス工事・エアコン工事などを幅広く受注する、いわゆる地域密着型のリフォーム店です。
ホームページにも社長自らが顔を出し、SNS運用からの反響も少なくありません。
作業員は社員雇用の内製化を基本としており、機動力もあります。
しかし1件あたりの単価が低いことで、社員ひとりあたりの生産性が頭打ちになっており、また自社施工で取り扱う商品が多いことから育成コストやコミュニケーションコストが利益率を圧迫させています。
受注件数は多い反面、現地調査・事務処理・クレーム処理などにも追われ、どこまでいっても自転車操業から抜け出すことができなくなっています。
失敗モデル D社
D社はデザイン性の高いリノベーションを提供する建築会社になります。
マーケティング・営業・設計・施工管理とチームが分かれており、売上も5億円以上の規模になります。
一見成功モデルのように見えるD社ですが、内情はブラック化しており、頻繁に社員の離脱やクレームが起こり炎上しています。
入り口で粗利30%以上を確保しながら、一等地の家賃や労務費・広告費によって売上比−5%の営業赤字となっています。
赤字の最大の理由が生産量に紐づかない組織体系となっており、効率を重視したはずの分業体制が、頻発するバトンミスや過剰労務費(低生産性)を生み出してしまいました。
キラキラしたマーケティングの裏にこういった経営状態があることは外からではわかりづらく、社長自身も会社を一定規模まで大きくした自負から弱音を吐けない状況に追い込まれています。
経営におけるノイズ
ここまでお読みいただけた方なら、成功モデルと失敗モデルの明暗から何か学びや共感を得られたかもしれません。
端的に述べるなら、
成功する会社ほど事業の「選択と集中」ができており、売上高や従業員数の拡大よりも重心を営業利益に置いていることが挙げられます。
私自身が経営者なのでよくわかるのですが、成果ではなくスケールを競ったり、経済的な合理性よりも社会的な課題解決などの志をことさらに掲げる会社が少なくありません。
確かに分母としての売上高や原資となる人材は大切ですが、利益が追いついていなくてはリスクとリターンに見合いません。
「経済なき道徳は寝言である」という二宮尊徳の標榜や、近江商人である中村治兵衛の「三方よし」という理念にも代表されるように、良いサービスは利益なしには継続し得ないことなのです。
なので私はそれらを
ノイズ(経営の雑音)と定めています。
リフォーム会社の生存戦略
前置きが長くなりましたが、それでは本題に入っていきます。
ここからは私自身の体験や、他社の成功モデルを踏まえて、現実的な戦略立案から実行までの手順を書き出していきます。
リフォーム会社に限定される手順というよりは、ビジネス全体に通用する考え方だと思っています。
分析と計画
まず絶対的に必要なものがデータです。
主観は印象値に左右されることが多く、判断材料に余計な感情が混ざってしまいがちなので、可能な限り数字に落とし込み、事業のどこに課題と優位性があるのかを定量的に見極める必要があります。
どんな会社にも気づかないだけで自分たちが発揮できる優位性というものがあるので(これを見つけるのが難しいのですが)、事業として集中することとやらないことを決めていきます。
定量的な最低限の目安として、
粗利−広告費で1人あたり年間1000万円を下回るならやらないという選択が懸命です。
経営が苦しいと隣りの芝生が青く見えがちですが、その多くはノイズであり、それを見極めるのが1人あたりの生産性(粗利-広告費)です。
もし優位性を見つけられなければ、上記の生産性を満たす近しいロールモデルを探し、それが実際に再現可能なのか小さな規模でトライアンドエラーを繰り返していきましょう。
どんなに小さな成功でも
必ず勝つロジックを大切に育てることが肝要です。
旗を立てる
勝ちパターンが見つかったら、その先にいるユーザーをより具体的にイメージしてください。
そしてそのユーザーを幸せにするための理念を作りましょう。
旗としてサービス理念を書き起こすことは、
市場の誰を幸せにする会社なのかを明確にすることになります。
当社であればフルリノベーションを検討している層がターゲットなので、リフォームそのものではなく「暮らしのリデザイン」を提供する会社として旗を立てています。
旗を立てることによってターゲットの視認性を上げたり、社内の共通記号としての役割を果たしてくれます。
自分たちが思っている以上に、外から見るとその会社がなにを主軸としてやっているのかはわかりづらいもので、旗がシンプルであるほどターゲットを惹きつけやすくなります。
同じ理由で採用や協力業者探しにおいても効果を発揮してくれます。
仕組み化
集客から受注・生産までの一連の流れの中で、誰がどのような役割を果たすべきなのかを事前に決めておきます。
またそれぞれがいくらの定量ノルマを持つべきなのかを事前に計算し、可能であればそれを上回る場合には手当や歩合給などをつけると良いでしょう。
1次請け以上の原価の発生する業態であれば、売上ではなく粗利にノルマを置く方が適切かと思います。
当社の場合は労働分配率(人件費÷粗利益×100)であらかじめ決まっており、生産に対する報酬の評価軸を明示しています。
この時ありがちなミスが標準ノルマを高く設定してしまうことで、高いノルマは社員を疲弊させたり自信を失わせてしまうきっかけになってしまいます。
ノルマは一定の職能基準を満たすいわゆる「普通の人」が「普通に週40時間」働いて再現可能なレベルとし、基本的には人に高負荷をかけていくマネジメントではなく、それ以外の部分となる会社のハード面を強化していくのが望ましいです。
軽自動車を運転するプロドライバーより、スポーツカーを運転する一般人の方が早くサーキットを回れるのと同じ理屈で、誰でも成果を上げやすくなるハードの作り込みが大切です。
仕組みはシンプルである方が望ましく、できれば完全に属人化を排するよりも、フォーマット化された枠の中で、ある程度各自の判断余地を残しておく方が良いかと思います。
なぜなら選択を奪われると人間は自分の頭で考えることをやめ、決められた最低限の仕事しかしなくなり、何か根深い問題が起こっても判断をせずに保留したり他責にする性質があるからです。
あくまで責任の小さな範囲で属人化しておくことで、社員にほどよい主体性が育ち、その後のモデルチェンジやアップデートに進んで手を動かしてくれます。
会社にとって人材こそが原資なので、人間の持つ性質を理解し、自ら働きたくなるような環境をセットするのが効果的です。
MSP
集客(Marketing)
営業(Sales)
製品(Product)
これらを矛盾なく一貫性を持って機能させるために前述の旗が必要であり、有用なハードが必要であり、不公平を生まないために生産量に紐づく評価制度が必要となります。
小さな会社であればMSP全てを内製化するのではなく、一部プロの手を借りるというのが成功への近道になるかもしれません。
私の知るケースではマーケティングをそっくり外部に委託することで、年商と経常利益を3倍まで押し上げた会社もあります。
ただ個人的な見解としては、全てを一通り経験しておくことで基本原理を理解し、その後の経営判断に活かすのが長期的には最善の方法だと思います。
あとがき
散々ぱら偉そうに講釈を垂れましたが、私自身もこれまでにたくさんの失敗を踏んでいますし、まだやっとうまく行き始めたばかりでもあります。
当然今も全てが望みのままうまくいっているわけではありません。
何度も苦境に立たされ、その度に様々な情報をかき集めては、小さなことからひとつずつトライアンドエラーを繰り返してきました。
これからも挑戦の限り失敗はつきものですが、その度に会社と自分自身が成長できると信じています。
今更ながらタイトルを「成長戦略」ではなく「生存戦略」としたのは、より経営に苦しむ方の目に留まればとの思いがありました。
辛い状況にある方がもしこの記事を読んでいたら、苦しんでいるのは自分ひとりではないということに気づいていただければと思います。
様々なしがらみやノイズから離れ、どうか最初の重い1歩を踏み出すことに全力を振り絞ってみてください。
「自ら“出来る”と信じた時に、その仕事の半分は完了している」 永守重信
最後までお読みいただきありがとうございました。
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