見出し画像

グランパスを会計で科学する(分析編)

みなさん、こんにちは。ふたたびJun.Sです。先般リリースした前半戦は、いかがでしたでしょうか?改めてグランパスの特徴やスケールの大きさを少しでも感じていただけたならば幸いです。
また、とても温かいコメントも複数いただき、とても嬉しかったです。こうした反響の大きさで、グラぽ編集長の偉大さを改めて感じております。機会をいただき、誠にありがとうございました。

さて、後半戦は、予告どおり【分析編】となります。と言っても、そんな仰々しいものではなく、お気軽にお読みください。

会計(数字)上の分析の本質は、(異論はあろうかと思いますが、私個人としては、)「比べること」だと思っています。ある程度おおざっぱに条件を揃えて比較し続けたうえで、出てきた特徴点をさまざまな推測・仮説とぶつけて、真相・原因に近づけていく作業だと思っています。

今回は、この比較の手順に沿って、グランパスをはじめとする各クラブを斬ります。

なお、この記事は「グランパスや他クラブを徹底分析して、課題を抽出しチームを強くしよう!」という経営的・野望的な趣旨では決してございません。外野(素人)が行うには、情報や経験が乏しいですから。

あくまでグランパスを題材にして、会計でこんなことができるのかぁ、へ〜 分かっちゃうんだね〜。ということをお伝えすることが先にあります。

<もくじ>

●(前半)【可視化編】 PLからグランパスを丸裸に

●(後半)【分析編】 人の振り見て我が振り直せ(←今回は、こちら)


1.過去を振り返る 〜後ろとの比較〜

分析にあたって、まず重要なのは過去を振り返ること。(ここで、俺には前しか見えない!みたいな男のロマンは捨ててください。) まずは、こちらの表を、左から右へ目線をずらしながら、ジーッとご覧ください。前半戦で説明したグランパスのPLを5ヶ年並べたものです。(前半戦を振り返りながら見ると効果大ですね。)
同じ条件でまとめてある項目のため、年を追うごとによって大きな数字の変化に気づけば、それは条件を飛び出している可能性があります。何事か?と大いに注目すべきものになります。また同一年の上下の項目も同様の観点で見ます。

さて、どんな景色が見えましたか?数字ばかりで恐縮ですが。。(グラフも傾向が掴めます)

いくつか特徴が浮かび上がってきたと思います。まずは営業収益。J2降格で一時的にスポンサー収入が減少した2017年度ですが、補って余りあるほどJ1昇格後の2018年度で挽回しています(J1で2位!ついでに5年間で約4割増‼︎トヨタら本気!)。入場料と物品販売の収入についても、スポンサー収入に比べて規模のインパクトは控え目だが、有名になったデジタルマーケティングや各種イベントの成功、グランパスくんの選手権連覇の活躍などにより大きく伸長。営業費用については、ジョー、ミッチや丸キャプテンをはじめとする積極的な選手補強の敢行により、足元でチーム人件費が大幅に増えたものの、しっかり2018年度も黒字の枠内に収めています。と、まずは教科書的に概略を表現してみました。
いかがでしょうか?一時点の状態でなく、読んでて時の流れや勢いを感じませんでしたか?これが比較の醍醐味です。

2.隣の芝を眺めてみる 〜横との比較〜

他クラブとの比較も入れていきます。グランパスの営業収益はスポンサー収入、入場料収入と物販収入が柱となりますが、スポンサー収入(構成比約60%)に大きく依存しているのが分かります。営業費用もチーム人件費(約50%)が大半を占めており、これは、選手・監督獲得の原資はスポンサー次第ということを如実に表しています。この構造はほぼすべてのJクラブに当てはまります。まぁ、これまでの神戸の動きを見ても明らかですよね・・・w。数字にしっかり表れていますが、グランパスは、神戸に次いで強くこの傾向が出ています٩( ᐛ )و また、川崎や鹿島、浦和などが一見低い割合に見えますが、これはその他収入に含まれるJリーグ、ACL、天皇杯などで獲得した優勝賞金が割合を下げている影響です(残念ですが、獲得した賞金量に合わせ、親会社の協賛金が調整されている実態もあるでしょう)。

https://www.jleague.jp/docs/aboutj/club-h30kaiji_1.pdf (Jクラブ個別経営情報開示資料)

次に前半戦でコメントが多かった入場料収入について深掘りします。
プロサッカービジネスにおいて、試合は興行です。ちょっと乱暴な計算ですが、上記の表から導かれる興行利益(入場料収入-(チーム人件費+試合関連経費))は、毎年マイナス(赤字運営)となっています(上記の表下参照)。
本来であれば、本業であるここで稼ぐべきところですが、現実は(あの浦和や川崎でさえ)理想に遠く及びません。人件費の高騰と合わせ、試合数(ホーム17試合)が限定されていることが主因と考えられます。したがって、ここにもスポンサー収入に依存せざるを得ない(広告ビジネスの)実態が浮かび上がります。
興行(試合)の質を上げる名目で、マンCやチェルシー招待戦のように強気なチケット価格戦略もあります。

ただし、これはプロサッカービジネスの現実的な構造と言えます。こちら欧州のスーパーな(久保選手の入団でホットな)チームでさえ入場料収入割合は25%程度(グラは17%)なんですから。(←比較対象が正解か分かりませんが)

(レアルマドリードのアニュアルレポートより)

ちなみに、グランパスのホームである豊スタとパロ瑞穂のスタジアム集客率(集客人数÷収容可能人数)は合せて例年約50%(18年度は63%)です。仮に集客が100%だった場合でも、損益はマイナスのまま。逆に黒字となる分岐点は、集客を倍にしたうえで、試合数も倍必要。アウェイ合わせ月3、4試合の増加になります。 


【番外編①】豊スタvsパロ瑞穂、因縁のライバル対決の行方は 集客率の意味するところ

せっかくなので、入場料収入に深く関わる聖地豊スタとパロ瑞穂の集客について深掘りしてみます。こちらは2018年度のデータとなります。

2018、19年度と年17試合の開催比率は、豊スタ:パロ瑞穂=10:7です(2017年度J2は、8:13)。2018年度豊スタの土曜開催は集客率90% で、成功と言って良いでしょう。日・祝もほぼ(翌日の仕事・学校に支障出る)ナイター開催であったものの21,000人以上を達成。一方でパロ瑞穂は、土曜開催でも20,000人に届かず、平日は10,000人を割っています。しかも勝てない。
おまけに、2017年度J2時代のデータでは、豊スタの集客率は約50%。土曜開催に絞ると最低集客は熊本戦の26%(11,554人)。J2でも豊スタ全試合で11,000人以上の集客を達成しました。一方で土曜開催の瑞穂では、10,000人を割る試合が4試合もありました。

もうお分りですね。数字でも結果が出ました。完全に軍配は豊スタに上がります。キャパシティ、サッカー専用、地域性踏まえ、如実に差が出ていますね。特に瑞穂では、空席が目立つことから、入場料収入アップのため何かしらの施策が必要です。

なお、埼スタ、日産スタ、味の素スタなどキャパシティが大きいスタジアムほど入場者数が多くなる傾向は現実としてあります。窮屈にならない安心感が購買欲をそそるのでしょうか。一方で、集客率の観点では、数字が相対的に高くないので空席が目立つことを意味します。にしてもみんな揃って勝率悪い。


私は関東アウェイ専門(主に指定席派)のため、これらのスタジアムには行き慣れておりますが、
そんなに空席あるなら・・・、
✔︎ アウェイ席広げましょう ・・・子供連れで立ち見だよ
✔︎ 座席を広くしましょう・・・半身で窮屈な観戦だよ
✔︎ 通路を(広くじゃないよ)多くしましょう・・・トイレなど席立ちにくいよ
✔︎ 監視をしっかりしましょう・・・安いチケットで高い席へ移動する人いるよ
こんな経験と、いつも思うことがあります。容易に推測可能かと思いますので具体的な説明は飛ばします。

これらの改善で、だいぶ快適さが違うよね。と、最後は提言に行き着いてしまいました...。会計(数字)を使うとここまでできる事例紹介でした!(笑)
クラブ関係者の方、もし読まれたのなら参考にしていただくと嬉しいデス。

3.グッズ販売のサバイバル 不発弾処理で営業停止に追い込まれる! 〜後ろと横の比較例〜

経営的には、スポンサー収入や入場料収入に比べて優先順位が下がってしまうグッズ販売。しかし、個人サポーターの忠誠心を図るバロメーターのひとつであり、普段身に付けるし、懐に直撃ですから、我々は当然鼻息荒くなりますよね。前半戦や上記1でもお伝えしたとおり、グランパスのグッズ利益は、増益を続け2018年度の利益率は40%を超えました。お見事です。こちらの表は、グランパスと、その売上規模を超える上位チームを並べたものです。

浦和、川崎F、鹿島ともにタイトルホルダーという共通項があり、情報公開が始まった16年度から増収増益を続けています。特に川崎Fの伸びは強烈(16年度→17年度→18年度:476→563→869百万円)で、商品のラインナップに大きな特徴はないものの(失礼)、昨今の快進撃を裏付けるデータのひとつです。また、鹿島は入場者数が頭打ちとなる中、優勝記念グッズやメルカリといった販路を広げる施策などの効果で、堅調な伸びを示しています。一方で、川崎や鹿島を上回る入場者数の横浜FMやG大阪は、2年続けて伸び悩んでおり、上位3チームに大きく水をあけられている状況です。
そんな中で気になったクラブは、柏です。表中の数字は17年度のものですが、16年度と同等で、J2平均をも下回る規模に驚きます。確かにスタジアムキャパの制限はあるものの、サポは熱い人多いし、親会社もしっかりしてるし、レイくん(選手権22位)もいますし。また、Jリーグの資料の端に委託販売の可能性を示唆する文言がありますが、もしそう(純額売上表示)だとしても利益規模は極端に変わらないはずで、やはり少ない感覚があります。まして、こんな事件に巻き込まれるほど、リスクの高いビジネスなのかと。。(スタッフのみなさま、ご苦労さまです。)


【番外編②】グッズの在庫と会計(お金)の関係

スタジアムのグッズショップでお目当てのものが売ってなかった悲劇に遭遇したことはないだろうか?また、オンラインショップを徘徊して、やたら売り切れの文字が目に入ることはないだろうか?
その理由は、小売ビジネスの典型的な特徴である少量多品種商品だからです。ユニフォームのデザインは毎年変わるし(限定ユニも連発!!)、流行や季節変動激しいし、売場も限定的で適正な在庫コントロールが難しいことにあります。
経営者としては、大量に売りたいけど、売れ残り(在庫)も問題だと同時に考えます。在庫の行方は、棚卸資産としてBS(Balance Sheet:貸借対照表)に載り将来へ繰り越されるか、廃棄処分されるかのどっちかであり、そのままではまったくお金を生まないからです。
したがって、現場では、ラインナップはもちろんのこと、手ごろな価格設定で、確実に売り切れる量を作る。といったプレッシャーを抱えつつ、日々工夫を凝らしています。基本的には在庫は僅少であることを理解したうえで、今後の購買活動を楽しんでみてください。
そして、セールや福袋による在庫一掃は一般的ですが、例えば、清水山形のユニフォーム無償レンタル。表向きはライト層のサポーター取込みですが、会計的にはしっかり型落ちユニの再利用として在庫圧縮に貢献するものです。広がるといいですね。

ここで、後半45分を経過しました。今回も長文のお付き合いありがとうございました。いかがでしたでしょうか?
今回の執筆にあたっては、だらだらと羅列するよりは、ネタを厳選したうえで、ある程度深くテンポよく仕上げることを心がけて書かせてもらいました。読者のみなさんのほとんどが個人サポーターであると思いますので、クラブへ直接的に貢献(感情移入)可能な入場料とグッズ販売について掘り下げました。思いのほか、深く入り込み過ぎて迷子になってしまった方もいらしたかも知れませんね。すみません。

最後に。繰り返しとなりますが、前後半を通じて、会計(可視化と分析)を使って、さまざまな切り口でグランパスや他クラブの一面を見ていただきました。それにより、グランパスへの新しい気づきはもちろんのこと、会計の機能・役割を少しでも見直していただくきっかけとなってくれれば嬉しいです。





後半ロスタイム。

実は、以下のようなネタも用意していたんです。(会計で分かることはいっぱいます)
✔︎ 3期連続赤字でもライセンス剥奪を回避した琉球
✔︎ J初の営業収益100億円超えはすぐそこ 神戸のスポンサー収入は、何のバロメーターなのか
✔︎ 時代の潮流SNSを制する者の狙いは? 仙台のTwitter逆襲、相模原のFacebook下克上
✔︎ 新規観戦者割合王者の東京V その効果は、いったいどこに
✔︎ 人材育成は、アカデミー運営から 浦和は月謝ゼロで出世払い?
✔︎ 解消しない京都の累積赤字の謎
✔︎ W杯優勝のなでしこを抱えるジレンマ
✔︎ 人件費で勝ち点が買えないJリーグ
✔︎ スタグルは、消費税の軽減税率適用でよろしいでしょうか?

書き切れず、結果的にボツネタですが、チャンスあれば次回以降アディショナルタイムとして、説明させていただきます。
もちろんリクエストあればですが。
それでは。

よろしければ、Twitterフォローも

 (注)こちらは、グラぽにて先行して配信したものを一部修正し再掲載したものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?