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パイプオルガンとエレクトロニック~トビアス・ハーゲドーンとの公演~

パイプオルガンとエレクトロニックのための作品を中心とした演奏会を目前にしている。(2023年3月21日15時開演予定 @同志社中学校・高等学校グレイス・チャペル.)
ドイツの若手の電子音楽作曲家、トビアス・ハーゲドーンを招いて、彼の作品だけを演奏するというプログラムで、今週から彼と一緒に演奏会場で練習(リハーサル)を行っている。
個人的にはめちゃくちゃ面白い演奏会だと思っているのだけど、いざ誰かを誘おうと思うと、面白さが伝わるように説明するのがとっても難しくて悩む。
「オルガンとエレクトロニック」と言っただけで、まずはエレクトロニックとは何だという話になる。MIDIの話を出すと、またややこしくなる。そんなややこしい話を聞いて誰が行きたいと思うのだろうか、と思ってしまう。
音楽のジャンル的には、と聞かれると「現代音楽」という表現が出てくる。だけどハーゲドーンの音楽は、一般的に「現代音楽」の言葉から抱かれるであろう「難しくてわかりにくい音楽」の印象とは違っていて、どちらかというとスティーブ・ライヒやジョン・ケージらに近い・・・と言っていいのかわからないが、ライトな感じがする。むしろ、若い世代の人たちが聴く音楽と、さほど遠くないような気がする。

その証にというか、今回は高校生が全部で10名以上演奏会に参加し、ハーゲドーンの作品を様々な形で共演する予定でいる。コーラスの一員として、あるいはスマートフォンプレーヤー(!)として。
彼らはハーゲドーンの音楽を、もちろん全く知らない。何をするのか、どんな作品なのか、作曲家がどんな人間なのかもわからない。
それなのに、私のいい加減な説明一つで「え!面白そう」と参加してくれる。さらにユニークなことに、その参加生徒の内訳が、軽音楽部所属だったり管弦楽部所属だったりコーラス部所属だったり、あるいは演劇部だったり、多種多様な人たちが集まってくれた。
コーラスには一部、賛助出演としてプロの声楽家も数名加わるので、カラフルな髪色で尖った感性を隠せない感じの高校生からオペラを歌うプロまで、多彩な顔ぶれがステージを共にすることになる。なんと素敵なことか!

今回予定しているプログラムはこんな感じだ。

『タンジェント (Tangenten) 』コーラスとエレクトロニックのための作品(2019)

『静止と進行(Stehen und Gehen) 』 オルガンとエレクトロニックのための作品 (2017)

『翻訳(Übersetzung) 』4人のスマートフォンプレーヤーとオルガンのための作品(世界初演)

『後続(Folgen) 』オルガンとエレクトロニックのための作品 (2021)

『続行 (Weitergehen) 』オルガンとエレクトロニックのための作品 (2019) 

ハーゲドーンの作品では、タイトルはあまり大きな意味を持たない。それぞれにコンセプトは存在するが、そのコンセプトがタイトルに表れているわけではない。だけど、全ての作品に共通しているのは、オルガンの音や人間の声、そしてエレクトロニックの音といった、全く異なる性質を持ってる音の響き同士が蠢きあい、相互に絡み合い、時にはその音色の違いが曖昧になるように聴こえる、というところである。
エレクトロニックの音が、時には電子的なものであることを忘れさせ、オルガンが電子的なサウンドを作ることもあれば、肉声が時には邪悪な響きを生み出す。

ハーゲドーンは語る。
「現代音楽というのは、昔の音楽より良いのだとか、そういうことではなくて、今までになかった視点で物を見るということなんだ。それは、新しく扉を開けるようなことで、初めて聴いたら驚くし拒否もするかもしれない。だけど、新しい世界を知るというのは、人生を広げて豊かにしてくれるということだと思うよ。」

彼がsoundcloudにあげている『静止と進行 Stehen und Gehen 』の録音は、ドイツ語のタイトルをクリックすると聴いてもらえるだろう。
だけど、ここでポイントなのは、オルガンの作品は演奏する会場によって演奏が全く変わるというところである。
今回の会場である同志社中学校・高等学校のチャペルには、2017年に完成したヴァイムス社(ドイツ)製のオルガン(35/III)がある。このオルガンには、風量しぼり(Winddrossel)やインターバルカプラー、マリンバやカリヨンといった打楽器ストップなど、珍しい機能が備えられていて、ハーゲドーン曰く、「こんなオルガンはアジアのどこを探してもない!」という性質を隠し持っている。「隠し持っている」と表現するのは、そうした特殊機能を使わなければ、一見オーソドックスなパイプオルガンにしか見えないからだ。
このオルガンの特殊機能のアイディアは、ドイツのケルンにある聖ペーター教会のオルガンからもらったのだが、実際にヴァイムス社の工房へ私に同行して出向き、希望する特殊装置のしくみや構造について、私の代わりに説明してくれたのが(さすがにドイツ語でオルガン製作の細かいことを説明するほど私のドイツ語能力は高くない)、ハーゲドーンその人なのだ。

今回の公演の中で、最も目を惹くと思われるのは、スマートフォンでパイプオルガンを遠隔操作(演奏)する作品、『翻訳』であろう。
オルガンをMIDIでパソコンと繋ぎ、4人の高校生がスマートフォンで操作したものがプログラミングを介して演奏信号に置き換えらえ、オルガンが鳴る。スマホでの操作が音に「翻訳」される、というコンセプトである。
全く新しい試みであるので、実は先日リハーサルをやってみたところ手直しも必要で、目下ハーゲドーンが手を入れているところである。
が、今のところ本当にスマホでオルガンが演奏できている。

後は会場に聴きに来て頂くしかない。ここでしか体験できない。新しい扉が開かれる。なんとも楽しみである。




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