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わたしが場所をつづけられているのは

2022年3月10日は、2年ぶりにゆっきーがカフェに来た。
彼女とは復興支援の高校生向け事業で出会って、そこからなんだか何回か、白河まで来てくれた。片道680円の東北本線。いまは国分寺に住んで美大生をしている郡山出身の20歳。

天気が良かったので、外に出たくなった。甘くしてくださいというリクエストを無視して、裏庭でコーヒーを入れる。相馬焼のカップにコーヒーを注いで、ビールケースをテーブルに見立てて座る。コーヒーは雰囲気で飲むものだから、たぶん今日みたいな日はブラックでも美味しいんじゃないかと適当なことを言ってみる。

彼女が高校時代に取り組んでいたマイプロジェクトは、もっと自由になんちゃ制服を楽しもうというもので、自由な私服登校ですと言いながらもスカートの長さに忖度を求めるA高校の教員達への違和感を彼女たちなりに表現したものだった。まじめを称揚するはずの側が、ルールを自己都合でふまじめに解釈するそのさまを見抜いて、それと暴力的に戦うでもなく自分の表現に昇華してしまう姿に、痺れていた。率直に言って彼女の活動のファンだった。

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最近、上京してから活動していた劇団をやめ、いまはからっぽなんですよなんてことを言う。20歳までずっと何かやりたいことに向けてつっぱしってきたけど、いまはじめて目の前にやりたいことがなくなって、いまなんにもしてないんですと言う。だからそろそろ大学の授業受けて勉強したいんですよ好き勝手この2年やってきたのでとか言う。

わたしは、やりたいことにずっとやり続けたことなんてない。やりたいかもしれない予感を確信だと思いこませて、自分を奮い立たせてやり続けてきた。
わたしは、やりたいことがないんです、いまはなんにもしていないんだよ、と言ったこともない。やりたいことがないことを恥ずかしく思って、なにもしていない状態を焦ってしまって、そんなことはない、と自分にも他人にも言い聞かせてここまできた。

だからいつもゆっきーと話す時は、ちょっと緊張する。自分が自分に嘘ついてんじゃないのかと聞かれてる気分になる。しかも実際大変なら仕事やめちまえよとか言ってくる。

だいぶ舐められているような気もするのだけど、ともかくまあ高校生だった若者が大学生になってから尋ねてきてくれることは嬉しい。土橋食堂にラーメン食べに行き、食後の烏龍茶とお茶菓子も出して、のんびり日も暮れてきた頃、めっちゃ悔しいんですけど、と彼女は切り出した。

いわく、やっぱり高校生がつながれる場所をつくりたいんですよ青砥さんのように、とのこと。

場所をつくりたいという相談自体は日頃から結構あって、しかしでもまあ不動産運営と収益化は大変だから、ふつうはまず止める。ほらわたしをみてみなよ、仕事いつも溜めちゃって終わってないよ、サラリーマンやったほうが安定してるよ、とか、たぶん刺さらないアドバイスが浮かんでは消える。

親や教師以外とつながることができない高校生はきっといる。わたしにはEMANONがあってよかった。わたしはそのためだけに仕事をするつもりはないけれど、自分の城をつくって、そこにきた高校生がいつかああ私の場所があったと思える瞬間をつくれたらいいーーー

震災前の福島で高校生だった私は、どうしようもなく息苦しかった。復興した福島では、もう同じように苦しむ高校生の姿はなくていい。原発事故の被害に苦しんだ福島の次世代は、自分らしく自由に生きる権利がある。

そんなふうに大上段に構えてみても、いまだに結局、白河の高校生(全日制3高校3学年合わせて2000人いる)のせいぜい1%しか、私は関わることができない。市内の高校教員であれば、教科担任で少なくとも200-300人と関わっている。一度もカフェに来たことなく卒業する高校生もたくさんいる。自分は何をやっているんだろうと思う時もある。

でも、2010年の私と同じように、親や教師や同級生以外とつながることができなかった彼女が、2018年の福島にいた。本当にカフェがやりたいことなのかと迷いながらも続けていた先に、白河に住みでもそうでなくても、どんな高校生でも歓迎するよと掲げていた先に、この場所をよすがにしてくれた彼女がいた。

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その人を掬い上げる出会いはいつあるかわからない。だから確信に満たない予感程度しか持てなくても、誰かを想う場所を続けることには意味がある。場所は時間を遅延する。その人が、その人に差し出されているものを受け取れるタイミングはいつでもじゃない。場所を運営することは、その時が来るまで待つことに等しい。

わたしが場所をつづけられているのは諦めの悪さと、つながることができたと感じられたときに受け取る、わたしもいていいんだと思える瞬間。その連続でもうちょっとまだやっていこうかなと思う。

2022年3月11日、日付変わってしまったけれど11年目の春の日記です。

(生まれてしまったこの場所を、もう少し続けたい寄付キャンペーンもやっています。よかったらご覧ください。 https://syncable.biz/campaign/2293/ )


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