「さい銭泥棒考」

 先日、昼にテレビのワイドショウを観ていると、さい銭泥棒のことを話題にしていた。コメンテーターは口を揃えて、その行動を非難していた。しかし、働き盛りの男性が硬貨の混じった千円、二千円の金を人目を忍んで盗まざると得なかったその事情に思いをはせることはなかった。日本に生まれて普通の教育を受けた人間が、働き盛りの頃にコソ泥をしないといけない生活環境に置かれていることが問題なのだと考えるべきなのだ。もし、彼に十分な収入を得ることのできる定職があれば、日中に神社に行って、こんなことをする必要がなかったはずだ。今の働き盛りの日本人男性の置かれている位置が問題なのだ。
 例えば、少子化問題で、日本人の婚姻数が減っていると言う事実がある。その原因は、収入だ。
 生涯未婚率が男性で3割近くになっている。その置かれている社会的地位という観点で見てみると正規労働者の生涯未婚率は2割くらいだが、非正規労働者の場合は6割になるのだ。1千万人はいる言われるフリーランスもほぼ同様の状態だろうと思う。だから、そういう境遇の人たちが、あるとき職を失うとたちまちその日の生活にも困り、ある人はさい銭に目が行くことになるのだろう。
 テレビに出演している人たちは、そういう経験がない人たちだから、その境遇に思いをはせることはできないのだろう。
 同様に外国人が、果物を盗んだり、窃盗を働く事件がワイドショウを賑わすことがある。その場合でも同様のことがいえる。彼ら彼女らは、日本で収入を得て、たぶん彼らの国で待つ家族などに仕送りをする人たちだろう。しかし、日本が不況に陥るとまず真っ先に首を切られるのが、その種の外国人なのだ。
 彼らの劣悪な労働環境、生活環境に思いをはせることなく、ただ非難をするだけというのは如何なものか、と日頃テレビを見ていて思うことだ。

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