福島原発廃炉問題から日本の原子力政策を問う。

 廃炉に向けて、一番の難関が1号機から3号機に存在するデブリの取り出しだ。原子炉がメルトダウンし、ウラン燃料が融けて原子炉の外に流れ出してセメントなど融合したもので、合計880トン存在するという。極めて放射線量が高いもので、それを除去しなければ建屋の解体などに着手できない。まず2号機から始めようとしたが、うまくいかず今年1月にその作業を延期することにした。これで3度目の延期だ。
 しかも、英国企業が開発した長さ22メートルのロボットアームが使えないことが分かり、釣り竿式の装置を使うことに方針を変えた。こんな状態でも廃炉のゴールは2051年と変わっていない。 
 関係者の全てがこのスケジュールで終わるはずがないと思っているはずだ。しかし、そのころには関係者は全て引退し、ある人たちはこの世にいないだろう。だから、無責任にゴールをそのままにして、地元住民を懐柔しようとしているのだろう。
 さらに、昨年から始まった処理水問題。海洋投棄で中国から不買運動が起こっている。この問題も日常的に継続している問題だ。地下水や雨水それに冷却水と併せて日量100トンほどが流出している。それをALPSという放射性物質を除去する装置を使って処理をしているのだ。その処理水を貯蔵しているタンクがいよいよ敷地内に増やすことができなくなって海洋投棄ということになったのだ。
 このケースでも、ALPSで処理した時に出る高濃度の放射性物質を含むスラリーが出て、これも貯蔵処理しているが、毎日蓄積し続けている。このスラリーは処理水どころではなく、とてつもない量の放射性物質を含んでいる。この処理も難問だ。 
 今の試算でも政府は原発事故に伴う賠償や除染などの経費が総額で23.4兆円に増えることを明らかにした。この範囲で決して収まらないはずだ。
 
 今後の福島原発の姿を政府は明らかにするべきだ。
 帰還困難区域が7市町村300平方キロあり、避難者が約2万6千人いるのだ。この13年間、全く宙ぶらりんの生活を強いられてきたのだ。
廃炉に向けて、デブリ880トンだけではなく、1号機には使用済み核燃料が392体、2号機には核燃料615体残っている。放射能に汚染された建屋や構造物なども含めると想像もつかないくらいの核廃棄物が出てくる。日本では、未だに核の最終処分場は建設されていない。というより、これだけ地震の多い国で地下に10万年単位で核廃棄物を保存できる場所が見つかるはずがないのだ。
 だから、多くの専門家は、今の福島原発のある場所でソ連の原発事故チェルノブイリのように石棺のような形で原発敗戦の象徴のモニュメントとして運営していく以外にないのではないだろうかと思っていることだろうと思う。
 
 利潤を生まないから東電も廃炉作業には力が入っていないように思う。エンジニアリングが日本の生命線なのに何故、デブリ取り出しのロボットアームを英国企業に委ねたのだろうか。ロボット技術では日本はまだ世界の最先端を行っているはずではないだろうか。
 デブリ取り出し延期や、度重なる汚染水漏洩などを見ているとおざなりに時間を稼いでいるだけとしか思えない。
 政府にしても、岸田首相は原発推進を打ち出したが、もう既に学術の世界では、原子力工学科が削減の一途をたどり、専門家が養成されていないのだ。それなのに旗を振っても原子力災害を増やすだけになりかねないのだ。

 政府は抜本的な大方針を原子力利用について打ち出すべきだ。原子力村の意向を気にすることなく。
 


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