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Janet Jackson / TLC @K-Arena Yokohama(20240320)

 激動の半生の軌跡と傑作アルバム30周年、一度に味わう贅沢な空間。

 アンコールで披露したオリジナル曲とリミックス2曲を合わせて3トラックの「トゥゲザー・アゲイン」を盛り込んできたのは、"もう一度一緒に(楽しみたい)”“再びあの頃に戻ろう”という想いを馳せてのものだろうか。楽曲自体は、1997年のアルバム『ザ・ヴェルヴェット・ロープ』からの2ndシングルというとりたてて“旬”ではない楽曲をツアータイトルに冠したのは、世界的なパンデミックをやり過ごし、世界的にさまざまな隔たりが生まれている今だからこその願いなのかもしれない。

 2019年の来日公演〈ステイト・オブ・ザ・ワールド・ツアー2019〉(記事→「Janet Jackson@日本武道館」)から5年ぶりとなるジャネット・ジャクソンの来日公演〈トゥゲザー・アゲイン・ジャパン2024〉は、なんとTLCをスペシャルゲストという形でオープニングアクトに迎えて、名古屋、大阪、横浜を巡るという超豪華仕様で開催。ジャパンツアー最終日となるKアリーナ横浜公演へ胸を躍らせて足を運んだ。

 オープニングにはスクリーンにジャネット・ジャクソンの幼少からの写真がコマ送りで映し出され、ダイジェストでその成長と半生を綴っていく。半世紀にわたってエンタテインメントの世界に身を置き、数多のヒット曲と計り知れないポップ・シーンへの影響を与えてきた、ジャネットのライフストーリー・ドキュメンタリーの開幕だ。冒頭にジャネットのミドルネームをタイトルにした「ダミタ・ジョー」を配したのも、自身がこのツアーは半生の集大成のステージと位置付けているからに違いない。

 ポップ・シーンでの功績という意味では、兄・マイケル以上の貢献とヒットを連ねてきたジャネットゆえ、セットリストは必然的にビッグヒットのオンパレードになる。これまでもいくつかのステージ毎にテーマを設け、衣装や演出を変える構成で1つのコンサートを創り上げてきたが、本公演も「ダミタ・ジョー」から「エンジョイ」までを〈アクト1〉、「恋するティーンエイジャー」(What Have You Done for Me Lately)から「コントロール」までを〈アクト2〉、「ホエン・ウィー・ウー」から「アイ・ゲット・ロンリー」までを〈アクト3〉、「ぬくもりに抱かれて」(The Body That Loves You)から「ソー・エクサイティッド」までを〈アクト4〉、「ザ・ナレッジ」から「リズム・ネイション」までを〈アクト5〉と5幕で構成。フーディーな紫のガウンを纏って登場した後、赤銅色に近いゴールドのボディスーツとなった〈アクト1〉から、白地に黒のボーダーと黒のパンツ・スタイル、鮮やかなオレンジが映える胸上が空いたドレス、さらに黒のTシャツとジーンズというストリートな衣装へと変化し、ポップ・アイコンとして頂点を極めたゴージャスな佇まいからカジュアルでモデスト(庶民的)なルックスまで、全方向全世代にリンクするスタイルで魅了していく。

 トピックはふんだんにあって全てに触れられないが、たとえば「それが愛というものだから」(That's the Way Love Goes)をはじめとするミディアム・チューンやバラードにおいては、スマホのライトがホールを夜空を模して、オーディエンスにシンガロングを促した「アゲイン」が印象的だったか。もはやジャネットがコンダクターとなってのオーディエンスの合唱大会と化してしまったのだが(ただ、全体から見れば、英語の発音に長け、歌詞を暗記している人は多くはないゆえ、フックのパート以外はそれほど大合唱にならなかったが……ステージに近い高いチケットを持つコアファンあたりはより盛り上がっていたかもしれない)、その光景に感激するジャネットの表情がスクリーンに映し出され、それにまたオーディエンスが歓声を上げるというシーンは、ジャネットとファンとの一つの愛情の形として、多くの人たちの胸に刻まれたのではないかと思う。

 TLCのライヴのDJタイムでYOASOBI「アイドル」が使われていたのを受けてという訳ではないだろうが、ブラックストリートとの客演曲「ガールフレンド/ボーイフレンド」からの流れで、「次はみんなのダンスタイムよ」と
新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」の首振りダンスよろしく首を固定したまま左右に動かすダンスをオーディエンスへ促す一幕も。曲に合わせてダンスにチャレンジする光景を見て、声を上げて陽気に笑うジャネットの茶目っ気もまた、印象的なシーンとなった。

 そして、やはり来日公演を観る度に鼓動を高めるのは、本公演では「ザ・ナレッジ」からの〈アクト5〉と位置付けられた「リズム・ネイション」セクションだ。「ザ・ナレッジ」では“ヨコハマ!”と呼びかけ、先入観、無知、偏狭、無教養に対して胸の前で両手でバツ印を作って「ノー!」と叫ぶコンシャスなメッセージで問題提起を示しつつ、続く「ミス・ユー・マッチ」からは興奮が幾重にもなって体躯を駆け巡るダンス・チューン・メドレーへ。社会的な問題にもリンクしながら、しっかりとエンジョイできる硬軟取り混ぜたエンタテインメントを繰り出せるのは、常人では経験できない栄光や挫折、歓喜や辛苦を得ながら半世紀にわたってトップを走り続けてきたジャネットだからこその説得力だ。

 「ラヴ・ウィル・ネヴァー・ドゥー」「オールライト」「エスカペイド」といった心が躍ることを抗えないヒット曲を経て突入する「スクリーム」から「リズム・ネイション」の展開は、ひたすらに圧巻の二文字。年齢を重ねて、声が多少渋めになったりと変化はあるが、ジャネットが歌い踊る一挙手一投足には、並々ならぬ訴求力とパワーが漲っている。「スクリーム」での兄マイケルとのヴァーチャル競演もおなじみとなったが、「ブラック・キャット」のヘヴィな音を引用しながら、ロッキンなヴァージョンでより鋭いメッセージ性をもたらしていた。「リズム・ネイション」のダンサーたちとのフォーメンションダンスはもちろん、ハイトーンで天を指差す瞬間は、身体を痺れさせるに充分なインパクトを持ち合わせたシーンといえるだろう。

 スクリーンの映像からフェイドアウトした「リズム・ネイション」から少し間があって、万雷の拍手で迎えられたジャネットが歌うのは、ツアータイトルとなった(本公演3トラック目の)「トゥゲザー・アゲイン」。興奮冷めやらぬまま突入したアンコールは、DJのスクラッチやクラップ、シンガロングなども飛び交いながら、興奮のなかでハートウォームでポップなメロディが紡がれ、感情の疼きはオーディエンスとのジャンプへと昇華した。すべての楽曲がフル・ヴァージョンではなかったが、ミックスやサンプリングを用いながら少しでも多くの楽曲を届けたい、そして自らのキャリアを紡いでいきたいという想いが感じられた。「Good Night! I Love You!」とステージアウトする際に語り掛けた姿には、安堵もあってか、どこか人懐こい表情も覗かせた、そんな気もしたエンディングとなった。

◇◇◇ 

T-Boz(Tionne Tenese Watkins)、Chilli(Rozonda Ocelean Thomas)

 TLCは随分ご無沙汰となっていた。1999年の初来日時(日本武道館でのモニカ、宇多田ヒカルとの〈爽健美茶ナチュラルブリーズコンサート〉)には行けなかったが、10年後の2009年の「スプリングルーヴ」にてようやく初観賞。翌年のビルボードライブ公演で単独公演を観賞したが、それ以降は2014年に赤坂BLITZ、2016年にビルボードライブ東京で来日しているはずだが、悪運の強さも手伝ったのか、タイミングを逃してしまっていた。2016年からも8年となるが、個人的には2010年以来だから、14年ぶり(!)の生TLCとなる。

 北米ならビッグアーティスト同士のツアーも珍しくはないのだろうが、まさかジャネット・ジャクソンのツアーに(スペシャルゲストという表記とはいえ)オープニングアクト的にTLCが帯同するとは夢にも思わなかった。以前、デュラン・デュランのオープニングアクトにシック・フィーチャリング・ナイル・ロジャースが配された来日公演(記事→「DURAN DURAN@日本武道館」)もあったが、それ以上のインパクトだ。
 実は当初は豊洲PITでのTLC単独公演も行く予定だったのだが、チケット当選に浮かれ過ぎたか振込期限を逸してしまい、結局その後もチケットを手に入れることが叶わずという失態をしてしまったこともあり、前のめり気味で開演を待った。

 TLCはオープニングアクトゆえ、バンドメンバーは音源同期とDJ、キーボードくらいかと思っていたら、ドラム、DJ、ベース、キーボードのほか、日本人ギタリストの馬渕智史や、ホーンズ(トランペット、トロンボーン)、ダンサーも加わってのフルセットで驚いた。豊洲PIT公演が1994年リリースの2ndアルバム『クレイジーセクシークール』30周年記念のスペシャルナイトと謳っていたから、それとジャネットのゲストに相応しい面子を揃えたのだろうか……と思い、多少調べてみたら、直前の2月末にはニュージーランドで、3月からはオーストラリアで〈TLC’s CrazySexyCool 30th Anniversary Tour〉として、スペシャルゲストにバスタ・ライムスとアン・ヴォーグを帯同させるツアーが行なわれる予定だった(ただし、このオセアニアツアーは不測の事態によってキャンセルとなった模様)。5月以降は北米でツアーが組まれており、『クレイジーセクシークール』30周年を祝うワールドワイドなツアーの一環として、日本の単独公演が企図されたようだ。

 豊洲PITでの単独公演は、サポートアクトにPUSHIM、Tina、オープニングDJにDJ WATARAIと3組が出演したようだから、TLC自体もそれほど長尺ではなかったのではないかと想像できるが、本公演ではジャネット・ジャクソン公演のスペシャルゲストという立ち位置ゆえ、単独よりも短尺の約45分。中盤にDJミックス・セクションが組み込まれていたから、実質は40分くらいか。

 それでもホーン隊を含むバンドやダンサーを従えてのステージゆえ、時間的にはコンパクトだが、ヘッドラインツアーと変わらぬ編成、遜色ないステージングを披露。『クレイジーセクシークール』30周年メモリアルステージではあるが、1st~3rdアルバム『ファンメール』までの3枚のアルバムからのシングル曲を並べたオールタイムヒッツ的な構成で(残念ながら『3D』『TLC』からの楽曲は選ばれず)、TLCにファンすべてが愛着を抱く楽曲群で楽しませてくれた。

 DJの煽りが響いたイントロダクションから導かれたデビュー・シングル「エイント・2・プラウド・2・ベッグ」では、イントロでクール&ザ・ギャング「ジャングル・ブギー」のフレーズを引用して高揚をいざない、ベル・ビヴ・デヴォー「ポイズン」を想起させるニュージャックスウィング・マナーのドラミングで90年代サウンドを色濃くさせるなど、視覚的だけでなく音としても90年代にアプローチしながら、当時から知るファンにはノスタルジーを、2024年に初めて耳にするというファンにはある意味フレッシュな感覚をもたらしていく。

 「レッド・ライト・スペシャル」でのT-ボズのクール&セクシーな低音ヴォーカルや、「アンプリティ」でのチリの愛らしいハートウォームなヴォーカルをはじめ、繰り出すヒット曲それぞれにオーディエンスが反応していく。「クリープ」のイントロのホーンが鳴った瞬間は、一際大きな歓声が響き、黒を基調とした衣装で並んで歌い踊るT-ボズとチリ、そして天から見守るレフト・アイの影を感じながら、エキサイティングな空間を身に染みわたらせていくようだ。

 「イチ・ニ・サン・ヨン!」というDJのカウントアップから始まったDJミックス・セクションでは、「アップタウン・ファンク」「ゲット・ラッキー」「今夜はドント・ストップ」などの世界的ヒット曲のなかに、YOASOBI「アイドル」を加えるなど、日本仕様のサプライズも。その直前のタイラ「ウォーター」と合わせ、2023年以降の日本とUSのヒット曲をチョイスしたのかもしれない。DJミックスの最後の「アイ・ガッタ・フィーリング」ではT-ボズ、チリも歌唱に加わってのエンジョイ・パーティ・ステージとなった。

 クライマックスは「ディギン・オン・ユー」「ノー・スクラブス」「ウォーターフォールズ」と胸騒ぎが止まらない3曲を連ねて、オーディエンスを魅了。ラストの「ウォーターフォールズ」ではレフト・アイのパートに合わせて、センターではチリが4名の男性ダンサーを従えて、T-ボズはDJの横で、それぞれがダンスを繰り広げる。時折やわらかでチャーミングな表情も垣間見える瞬間は、一頓挫や不慮などもありながら、R&Bグループとして数々の金字塔を打ち立ててきたTLCの音楽が、日本で、世界で愛され続けていることを実感しているようにも感じられた。

 T-ボズ、チリが「ヨコハマ! We Love You!」と発し、DJの先導による「T・L・C」のコール&レスポンスが行き交うなか、やまないクラップと声援とともにラヴリーでジョイフルなムードに包まれての大団円。色褪せない歌と愛すべきキャラクターで彩られた空間は、終わりが訪れると同時に、愛おしさと名残惜しむ感情が広がっていったような気がした。

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【Janet Jackson】
<SET LIST>
00 INTRODUCTION ~ Love Me(Just a Little While Just Blaze Remix)
01 Damita Jo
02 Together Again(DJ Premier 100 in a 50 Remix)
03 Feedback
04 So Much Betta
05 If(KAYTRANADA Remix)
06 No Sleeep (original by Janet Jackson feat. J. Cole)
07 Got 'til It's Gone
08 That's the Way Love Goes
09 Enjoy
10 What Have You Done for Me Lately(contains elements of "BURNITUP! Feat. Missy Elliott")
11 Nasty
12 The Pleasure Principle
13 Because Of Love
14 When I Think of You
15 Diamonds(original by Herb Alpert feat. Janet Jackson)
16 The Best Things in Life Are Free(original by Luther Vandross and Janet Jackson)
17 Control
18 When We Oooo
19 Together Again(Jimmy Jam Deeper Remix)
20 Come Back to Me
21 Let's Wait Awhile(include phrase of "Lonely" and "Funny How Time Flies(When You're Having Fun)")
22 Again
23 Any Time, Any Place
24 I Get Lonely(TNT remix)
25 The Body That Loves You(instrumental)(include phrase of "Runaway", "You Want This" and "Spending Time With You")
26 All For You
27 Come On Get Up
28 Throb(contains elements of "Free Xone")
29 Girlfriend/Boyfriend(original by Blackstreet feat. Janet Jackson)
30 Like You Don't Love Me
31 Do It 2 Me
32 So Excited(Junior Vasquez Dance Radio Remix / original by Janet Jackson feat. Khia)
33 The Knowledge(include phrase of "Damn Baby" and "New Agenda feat. Chuck D")
34 Miss You Much
35 Love Will Never Do(Without You)
36 Alright
37 Escapade
38 Scream(original by Michael Jackson, Janet Jackson, include phrase of "Black Cat")
39 Rhythm Nation
《ENCORE》
40 Together Again

<MEMBERS>
Janet Jackson(vo)
Errol Cooney(g)
Eric "PikFunk" Smith(b)
Mike Reid(ds)
Daniel Jones(Musical Director / key)
DJ Aktive(DJ, turntables)
Gil Duldulao(creative director)
Dean Lee(choreographer)
Luther Brown(choreographer)
Darius "Dario" Boatner(dancer)
Mariusz Maniek Kotarski(dancer)
Denzel Chisolm(dancer)
Steven Guero Charlesm(dancer)

【TLC】
<SET LIST>
00 INTRODUCTION by DJ Dubz
01 Ain't 2 Proud 2 Beg(include phrase of "Jungle Boogie" by Kool & The Gang)(*O)
02 What About Your Friends(Extended Version DJ Djaz Edit)(*O)
03 Baby Baby Baby (*O)
04 Red Light Special (*C)
05 DANCE INTERLUDE ~ Unavailable(original by Davido feat. Musa Keys)
06 Unpretty (*F)
07 Creep (*C)
08 DJ Special Mix
  Put Your Hands Up(original by Black & White Brothers)
  Uptown Funk(original by Mark Ronson feat. Bruno Mars)
  Get Lucky(original by Daft Punk feat. Pharrell Williams, Nile Rodgers)
  Don't Stop 'Til You Get Enough(original by Michael Jackson)
  Water(original by Tyla)
  アイドル(original by YOASOBI)
  Only Girl(In The World)(original by Rihanna)
  Pepas(original by Farruko)
  I Gotta Feeling(original by The Black Eyed Peas)(sing with TLC)
09 Diggin' On You (*C)
10 No Scrubs (*F)
11 Waterfalls (*C)

(*O): song from album "Ooooooohhh... On the TLC Tip"
(*C): song from album "CrazySexyCool"
(*F): song from album "FanMail"

<MEMBERS>
T-Boz(Tionne Tenese Watkins)
Chilli(Rozonda Ocelean Thomas)

DJ Dubz(DJ)
馬渕智史(g)
(b)
(ds)
(key)
(tp)
(tb)
(dancer)
(dancer)
(dancer)
(dancer)

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【ジャネット・ジャクソンのライヴ記事】
2015/11/21 Janet Jackson@さいたまスーパーアリーナ
2019/02/11 Janet Jackson@日本武道館
2024/03/20 Janet Jackson / TLC @K-Arena Yokohama(20240320)(本記事)

【TLCのライヴ記事】
2009/04/04 Springroove 09@幕張メッセ
2010/07/15 TLC@Billboard Live TOKYO
2010/07/17 TLC@Billboard Live TOKYO (2)
2024/03/20 Janet Jackson / TLC @K-Arena Yokohama(20240320)(本記事)

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もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。