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INCOGNITO @BLUE NOTE TOKYO(20240307)

 45年の成熟と不変のソウルで織りなす、珠玉のファンキー・シナジー。

 結成45周年を迎えたジャン=ポール・“ブルーイ”・モーニック率いる超絶ジャズ・ファンク・コレクティヴのインコグニートが、約1年強で日本にカムバック。3月5日から9日までの5日間の恒例のブルーノート東京公演を中心に、3月10日の高崎・高崎芸術劇場スタジオシアターを経て、3月12日の大阪・梅田クラブクアトロまで、ジャパンツアー〈INCOGNITO "INTO YOU" Japan Tour 2024〉を開催。2019年の『トゥモローズ・ニュー・ドリーム』以来4年ぶりとなる19thアルバム『イントゥ・ユー』を引っ提げて、熟達と新鮮が交じり合ったエンタテインメント・ステージを展開した。

 前回は2022年12月に来日。この時はブルーノート東京公演ではなく、12月14日の恵比寿ザ・ガーデンホールでのオールスタンディング公演(記事→「INCOGNITO @恵比寿The Garden Hall」)をチョイス。1996年にライヴを行なった日と同日、同所ということで、特に感慨深いものとなったが、その時以来の観賞となる。なお、ブルーイやベースのフランシス・ヒルトンら一部メンバーは2023年夏にシトラス・サン(ブルーイ from インコグニート presents “シトラス・サン”)として来日しているので、ほぼ毎年の間隔でファンキー・ショウを見せてくれていることになる。

 頻繁に日本を含め世界をツアーしているとなると、「ドント・ユー・ウォリー・アバウト・ア・シング」「スティル・ア・フレンド・オブ・マイン」「コリブリ」「トーキング・ラウド」といった馴染みの楽曲に目新しさがないと思う向きがあるかもしれないが、ブルーイがいなくなることはないものの、フレキシブルにメンバーチェンジを駆使して、新たな才能の披露やその時のクルーならではのアンサンブルを繰り出すことで、常にフレッシュなグルーヴを生み出しているところが見事だ。

 今回は4年ぶりのアルバム『イントゥ・ユー』のリリースにともなって、同アルバムから「ナッシング・メイクス・ミー・フィール・ベター」「キープ・ミー・イン・ザ・ダーク」「イントゥ・ユー」「1993」の4曲を披露。アルバム・タイトル曲の「イントゥ・ユー」は、ブルーイの「チェリー・Vのラヴストーリーに恋してしまった」(超意訳)というエピソードもあったが、チェリー・Vのメロウネスに浸れる、可憐で瑞々しいミディアムR&Bのムードを構築。「キープ・ミー・イン・ザ・ダーク」のリード・ヴォーカルを務めたナタリー・ダンカンは、デビュー・アルバム『デヴィル・イン・ミー』の頃は“ポスト・エイミー・ワインハウスの最右翼”などと(薄っぺらい)惹句もついていたが、温かみとエキゾティックな面を持ち合わせた歌い口が印象的だ。

 インコグニートのヴォーカリストというと、“ヴォイス・オブ・インコグニート”ことメイサ・リークは別格として、ジョセリン・ブラウン、ケリー・サエ、イマーニ、ジョイ・ローズ、ヴァネッサ・ヘインズなどパワフルでエネルギッシュなタイプが一人はいて、圧倒的な声圧で一気に沸かせることが多かったが、近年のチェリー・Vとナタリー・ダンカンのセットは、どちらかというとそういったタイプではなく、グルーヴとともに身体を揺らせるそれ。その意味では、ヴォーカルワークに物足りなさを覚える初期ファンもいるかもしれないが、個人的にはR&Bやソウルのエッセンスが横溢するこのセットは好みだったりもする。

 そこへ、今回は、かつてはブルーイから“ヤンチャサル”と紹介されていたのが、今では“レジェンド!”と呼ばれるまでになった、トニー・モムレルが復帰。シャーデーやグロリア・エステファンらのツアーに帯同し、リール・ピープルでも良作を出している“インコグニートのスティーヴィー”が陰影の深いソウルフルな歌唱で、時にハーモニーで後押し、時にリードヴォーカルで熱度をさらに上げていくさまが、何とも痛快だ。スティーヴィー・ワンダーの「アズ」がセットリストに選ばれたのも、トニー・モムレルの存在があってのことだろう。ヴォーカルの一端を担ったのは、キーボードのキッコ・アロッタもその一人。『イントゥ・ユー』からの「1993」のみだったが、イタリア・シシリー出身の陽気で熱情的な歌唱で、フロアのヴォルテージを高めてくれた。

 キッコ・アロッタは“本業”の鍵盤でもアメージングなサウンドを響かせる。以前の鍵盤担当のマット・クーパーもそうだったが、小柄ながらひとたび鍵盤に指を滑らせると、果てしない宇宙のような広がりある音を響かせるから不思議だ。左にブルーイ、右にキッコ・アロッタと小柄な巨匠が両脇に陣取っている構図も、どこか愛着が沸いてくる。
 シド・ゴウルドをはじめとするホーン・セクションは、ひと吹きで耳を惹かせる演奏はもちろんのこと、それ以外では3名で合わせて踊るなど自らも楽しむ姿勢が嬉しい。キッコ・アロッタと同時期にこのコレクティヴに加わったチャーリー・アレンも、派手ではないが一度爪弾けば印象を刻むリフを放って、ブルーイのギターがそれに寄り添っていた。

 ステージでの大きなトピックとなるのが、フランシス・ヒルトンのファットなベースやキッコ・アロッタの鍵盤のソロパートを経て展開される、ドラムとパーカッションのロング・セッション。イタリアの伊達男フランチェスコ・メンドリアがスティックを飛ばすほどのエナジーでフロアの空気を揺るがせば、エリカ・バドゥやバルデラマにも引けを取らないビッグアフロヘアが目を引く、エズラ・コレクティヴ、ジョルジャ・スミスらとも交流する、初来日の24歳のパーカッション/ドラム奏者のリッチー・スウィートが、フレッシュな息吹の打音で応答。丁々発止の様相を見せながら、最後は燃え盛る炎が天空で一つに合わさるかのごとく、両者の快活な音がフロアの隅々に響きわたらせて、オーディエンスの喝采を浴びていた。

 後半の「トーキング・ラウド」からはさらにギアを上げて、クライマックスへ。「アズ」のフックのフレーズ“Alwlays”繋がりで、ラストは「オールウェイズ・ゼア」へ。トニー・モムレルの煽りを受けて、アリーナは総立ちになり、さらなるダンス・パーティへと加速しての大団円。さまざまないがみ合いがあるけれど、ボーダーを取り払って、音楽のもとで繋がれば、未来の子供たちへもその“ワン・ラヴ”の魂は受け継がれるはずだ……といういつもながらの熱いメッセージを投げかけるブルーイ。“One Love! One Heart! Let's get together and feel all right.”とボブ・マーリーの「ワン・ラヴ」のBGMに合わせてフロアと一緒に歌う姿に、2024年も音楽の愉しさと生きることの素晴らしさを、インコグニート・クルーから再認識させてもらった気がした。

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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Nothing Makes Me Feel Better (*I)
02 Don't You Worry 'bout a Thing(original by Stevie Wonder)
03 Keep Me In The Dark (*I)
04 When The Sun Comes Down
05 Into You (*I)
06 Still A Friend Of Mine
07 Colibri
08 Supersonic Lord Sumo(drums & percussions session)
09 1993 (*I)
10 Talking Loud
11 Roots
12 As (original by Stevie Wonder)
13 Always There (original by Ronnie Laws)
14 OUTRO ~ One Love(BGM)

(*I):song from album "Into You"

<MEMBERS>
ジャン=ポール “ブルーイ” モーニック / Jean-Paul 'Bluey' Maunick(g)
チェリー・V / Cherri V(vo)
ナタリー・ダンカン / Natalie Duncan(vo)
トニー・モムレル / Tony Momrelle(vo)
フランシス・ヒルトン / Francis Hylton(b,Music Director)
チャーリー・アレン / Charlie Allen(g)
フランチェスコ・メンドリア / Francesco Mendolia(ds)
キッコ・アロッタ / Chicco Allotta(key,vo)
リッチー・スウィート / Richie Sweet(perc)
シド・ゴウルド / Sid Gauld(tp)
アリステア・ホワイト / Alistair White(tb)
アンディ・ロス / Andy Ross(sax.fl)

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