見出し画像

The Brand New Heavies @BLUE NOTE TOKYO(20240215)

 興奮と歓喜に沸いた、ファンキー・ヴァレンタイン。

 昨年に続いて、2024年もヴァレンタインデーの時期に来日したアシッド・ジャズ三銃士の一角、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズのブルーノート東京でのファイナル公演を観賞。昨年の来日公演(「The Brand New Heavies @BLUE NOTE TOKYO(20230214)」)からバックヴォーカルのケリ・アーリンデルが加わり、9名編成でのステージに。トランペットがブライアン・コルベットからベン・エドワーズへ替わった以外は、同じメンバーが揃った。

 昨年はヴォーカルのアンジェラ・リッチの喉の調子がイマイチだったが、今回はそれもなく、お調子者モードのサイモン・バーソロミューをあしらう術も手慣れてきている様子。毎回のことだが、あくまでも自らが愉しむスタイルゆえ、曲間でたわいもないジョークを言い合ったり、ちょっとしたミスがあったりもするのだけれど、それも含めて“ディス・イズ・ファンク!”というノリと勢いが、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズらしさといえる。特にサイモンの“C調”が暴走し始めるかどうかのタイミングで、アンジェラ・リッチがクラス委員長よろしく窘め、演奏に引き戻すという光景も楽しい。

 曲構成は“愛すべきマンネリ”といえる定番曲のオンパレード。本ステージ(2ndセット)では「ネヴァー・ストップ」や「ドリーム・カム・トゥルー」などのライヴ定番曲は演奏しなかったが、ブルーノート東京公演としては長めの尺といえる90分。実質アンコールの「ユー・アー・ザ・ユニヴァース」も、アンジェラ・リッチが「ワンモア? ワンモアソング?」と煽っただけでステージアウトすることがなかったから、予定以上に時間が押して、当初の予定から何曲か省いたのかもしれない。それでも物足りなさなどは一向になく、陽気に笑い、ジョークを飛ばしながら、五感に響く心地よいグルーヴをうねらせるステージに、メンバーもオーディエンスも充溢。理屈ではなく、音に歌に酔える空間をひたすら愉しみたいという一体感とともに、快活なヴァイブスがフロアを一杯にしていった。

 アンジェラ・リッチは、冒頭の「ギミ・ワン・オブ・ゾーズ」などのインストゥルメンタル曲群を経た後の「ライド・イン・ザ・スカイ」から登場し、「キテクレテ、アリガトウ」と日本語で挨拶。エンディア・ダヴェンポートをはじめ、サイーダ・ギャレットやカーリーン・アンダーソン、ニコール・ルッソ、サイ・スミス、ドーン・ジョセフらさまざまなヴォーカリストを擁してきたザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズだが、エンディア・ダヴェンポートやドーン・ジョセフあたりのパワフル・エナジー系のヴォーカルとはまた異なる、クレヴァーでホットなヴォーカルワークで魅了していく。小さな顔立ちは、カーリーン・アンダーソンのタイプに近しいか。

 「バック・トゥ・ラヴ」では、原曲の元ドラマーのヤン・キンケイド(ちなみにヤン・キンケイドとドーン・ジョセフは“MF・ロボッツ”というユニットで活動中)のヴォーカルパートをサイモン・バーソロミューが担当。「バック・トゥ・ラヴ」から「ドリーム・オン・ドリーマー」への流れは、ヘヴィーズのステージの中盤における鉄板中の鉄板だ。そこからカットインする形で「ミッドナイト・アット・ジ・オアシス」への展開は、フロアからも大きな歓声が上がる絶妙な構成だ。

 ファンのなかにはどうしてもザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズのヴォーカルというとエンディア・ダヴェンポートの陰が抜けきらない人もいるとは思うが、そういったエネルギッシュ成分を求める層の心持ちも分からなくはない。だが、アンジェラ・リッチのエレガントでホットなパッションは、“愛すべきマンネリ”セットに新たな息吹をもたらしてくれて、個人的には好物。そして、そのアンジェラ・リッチのヴォーカルを活かしているのが、パーカッションのミム・グレイと、今回ライヴメンバーに加わったケリ・アーリンデルのバックヴォーカル陣だ。アンコールの「ユー・アー・ザ・ユニヴァース」などでそれぞれソロパートを披露した2人だが、彼女らが下支えというよりも、パッショネイト溢れるヴォーカルが束ね合うように寄り添い、広がっていくのが心地よい。

 特にフェイヴァリットな「デイブレイク」ではそのヴォーカルの寄り添いに、やはりアシッド・ジャズ・サウンドならではの照りのあるホーンセクションが絡み、絶妙に琴線に触れてくるのがたまらない。黒のサングラスをかけたサキソフォンのリチャード・ビーズリーと大柄のトランぺッターのベン・エドワーズという光沢ある黒の衣装に身を包んだ、一見、米刑事ドラマのでこぼこコンビにも見えそうなホーン隊が、ソロパートを含めて、熱情的に吹き鳴らし、ステージに艶と遊びの因子を注入してくれる。

 もちろん、その他のメンバー、長髪でファットなキーボーディストのマット・スティールの細やかかつリズミカルなコードや、顎髭がクールなルーク・ハリスのリズミカルなスティック捌き、そのリズムにエキサイティングな抑揚を生むミム・グレイのパーカッションが、“ゴキゲン”というテーマのもとに音を奏で、ファンクネスを燃焼させていくのだから、これでオーディエンスがのらない訳はない。

 バンドのタイトル・チューンともいえるインストゥルメンタル曲「BNH」で一旦ステージを後にしたアンジェラ・リッチは、衣装直しをして「ステイ・ディス・ウェイ」からカムバック。ゆったりとしたヴォーカルソロから堰を切ったようにバンド・サウンドへと突入するアレンジでフロアを“追い炊き”すると、サイモンが客席から外国人女性を招き入れてダンスタイムへ。ホーン隊、キーボード、ドラム、パーカッションの先導からサイモンのギターとアンドリューのベースも盛り上げに加わるアッパーなインストで、ヴォルテージは上昇一途だ。

 「今日はラストナイトなの。さぁ、まだ踊ってない人たちにチャンスをあげるわ。次はダンスタイムよ。ゲンキデスカー!」とアンジェラ・リッチが煽ると、「スペンド・サム・タイム」へ。隆々とした肉体からはじき出されるアンドリュー・レヴィの軽快でファンキーなベース・ソロパートや、マイケル・ジャクソン「スタート・サムシング」のホーン・フレーズの引用、マット・スティールの長めのキーボードソロから一気に勝ち鬨にも似たホーン隊に、フロアにうねりを巻き起こすコール&レスポンスへと、決して目新しいことをしている訳ではないけれど、自然と身体が揺れて声を上げてしまう展開は、ファンキーで何よりもエンジョイすることへ同じベクトルが向くというヘヴィーズのステージの醍醐味が凝縮しているといってもいいだろう。

 踊ることに抗えない、パッションと遊びで興奮を一層高めたルーク・ハリスのドラムソロを含めた「ユー・アー・ザ・ユニヴァース」の大団円も、見慣れた光景ながら、飽くことないグルーヴのビッグウェイヴとなり、歓声とクラップが渦巻くエンディングに。ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズを愛し、その音楽を愛するファンたちが、“最高なヘヴィーズ”を再認識、再体感した一夜となった。

 余談だが、開演の際、バンドメンバーが登壇した後、アンドリュー・レヴィが左側の客席通路から、サイモン・バーソロミューが右側のそれからステージに向かうのだが、その時にヴァレンタインデーの季節もあってか、サイモンからチョコ(「キット、笑い合える」と書かれたキットカット)を手渡しで貰えるサプライズが。この季節のチョコにはそれほど縁がない人生だが、2024年はステージとともに極上のチョコをゲットしたからか、いつもより足取り軽くブルーノート東京から夜の街へ歩み出した気もした。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Gimme One Of Those
02 People Get Ready
03 Sphynx
04 Ride in the Sky
05 Back to Love
06 Dream On Dreamer
07 Midnight at the Oasis (original by Maria Muldaur)
08 Daybreak
09 BNH
10 Stay This Way
11 Spend Some Time(include phrase of "Wanna Be Startin' Somethin'" by Michael Jackson)
12 You Are The Universe

<MEMBERS>
Simon Bartholomew / サイモン・バーソロミュー(g, vo, perc)
Andrew Levy / アンドリュー・レヴィ(b, perc)
Angela Ricci / アンジェラ・リッチ(vo)
Keri Arrindell / ケリ・アーリンデル(back vo)
Mim Grey / ミム・グレイ(back vo, perc)
Luke Harris / ルーク・ハリス(ds)
Matt Steele / マット・スティール(key)
Ben Edwards / ベン・エドワーズ(tp)
Richard Beesley / リチャード・ビーズリー(sax)

◇◇◇
【ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズに関する記事】
2006/12/11 THE BRAND NEW HEAVIES@LAFORET MUSEUM ROPPONGI
2007/11/03 The Brand New Heavies featuring N'Dea Davenport@Billboard Live TOKYO
2008/12/10 THE BRAND NEW HEAVIES@Billboard Live TOKYO
2010/02/22 The Brand New Heavies featuring N'Dea Davenport@Billboard Live TOKYO
2011/11/02 The Brand New Heavies@Billboard Live TOKYO
2013/05/17 THE BRAND NEW HEAVIES@duo MUSIC EXCHANGE
2013/09/19 THE BRAND NEW HEAVIES@BLUENOTE TOKYO
2014/10/24 The Brand New Heavies@BLUENOTE TOKYO
2015/08/19 The Brand New Heavies@COTTON CLUB
2017/02/10 THE BRAND NEW HEAVIES@BLUENOTE TOKYO
2018/04/13 THE BRAND NEW HEAVIES@BLUENOTE TOKYO
2023/02/14 The Brand New Heavies @BLUE NOTE TOKYO(20230214)
2024/02/15 The Brand New Heavies @BLUE NOTE TOKYO(20240215)(本記事)


もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。