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aimi @BLUE NOTE PLACE(20240419)

 豊かなR&B愛に満ちた、秀抜なヴァイブスとグルーヴ。

 正直なところ、油断していたところをガツンとやられたようだった。2020年に1st EP『Water Me』の収録曲「Sorry」で興味を持ったaimi(アイミ)。拙ブログの「近況注意報 0619 音楽篇」では、「たとえば、シザ(SZA)やシド(syd)、H.E.R.、ジェネイ・アイコあたりの個人的な好物路線をなぞらえそうなタイプ」などと述べていたR&Bシンガー・ソングライターだ。その後も動向を追っていて、翌年リリースの「The Wave feat. Furui Riho」についても拙ブログ「近況注意報 0214 音楽篇」で言及したのだが、aimi以上に客演したFurui Rihoの動向が気になり始めてしまって……という訳ではないが、2022年のアルバム『Chosen One』以降はややチェックを怠っていたのは事実だ。

 2024年に入り、日本のR&Bを重点に聴きたいと思っていた折、音楽情報メディア「Spincoaster」と恵比寿にあるライヴハウス「ブルーノート・プレイス」とコラボレーション・イヴェント第8弾として、aimiの「I'm OK」リリース・パーティの開催情報をキャッチし、慌てて駆け付けた次第。aimiの単独ライヴは初めてだが、ステージでの歌唱はFurui Rihoの代官山SPACE ODD公演(「Furui Riho @代官山SPACE ODD」)にゲスト出演した際に一度観ている。
 ちなみに、2022年以降のaimiは、EMI MARIAやJASMINEというどちらもフェイヴァリットなR&Bシンガーとコラボレーションしていたのを後追いで知り、「なぜ2022年以降も追っていなかったのか」と自責の念に駆られたのだった。

Spincoaster presents aimi “I'm OK” release party at BLUE NOTE PLACE

 ライヴは約30分ずつの2部制。バンドは左からライヴではお馴染みというピアノの竹田麻里絵(THE PIGEONZ / LE GRAND RETOURT)、ベースのザック・クロックサル、ドラムのウィリーというセット。長身のベーシストはどこかで見たと思ったら、Nao Yoshiokaのバンドでも常連の“ザック”ということに気づく。楽器の技術的なところは全く明るくないが、Nao Yoshiokaのバックでもいい音を爪弾いていたから、このバンドセットでも秀でたグルーヴを生み出してくれるだろうという予測はついていた。そして、その予測は確実だった。

 アフロヘアのウィリーは、ジャマイカ人ミュージシャンの父、日本人の母をもつ(本名は平野ウィリー良和とのこと)。音楽ユニット“Vijandeux”(ビジャンドゥ)のヴォーカリストとして、2009年にゴダイゴのカヴァー「ビューティフル・ネーム」でメジャー・デビュー。RIPSLYMEのツアーにドラム/コーラスとして帯同したこともあるそうだ。また、ジャマイカのレジェンドDJ、“キング・オブ・ダンスホール”ことビーニー・マンの親戚(!)だったり、柏レイソルユースで全国優勝経験もあるなど、なかなか興味深い出自のヤングガイだ。

 3名というこじんまりとしたバンドセットで、決して大きな音圧ではないが、それを感じさせないサウンドメイクを肌で感じ、その心地よいビートに身体を揺らしていた当日。後から考えてみれば、ボストン留学の経験もある竹田やバークリー音楽院で学んだザックというジャズに下地がある俊才たちと、ジャマイカンなルーツを受け継ぐウィリーの圧倒的なリズム感をバックに従えているのなら、それも当然か。

 aimiはチューブトップ風のシルバーのトップスにジャケットコートをラフに羽織り、黒のパンツというスタイルで登場。どことなく初期のホイットニー・ヒューストン風にも思えたりして(ジャケットを脱いでシルバーのトップスになったらドナ・サマー風になったけれど…笑)、ルックスからもブラック・ミュージック・ラヴァーな感じが伝わってきた。“R&Bナイト”をコンセプトに掲げたということで、1stショウではH.E.R.の「フォーカス」を、2ndではジェネイ・アイコの「フリークエンシー」をそれぞれカヴァー。どちらもしっとりと、しかしながら、情感を存分に湛えて艶やかで繊細に歌い上げる。「フリークエンシー」では、歌唱中からグッとこらえるような表情もチラついていたが、アウトロのスピーチで感極まる瞬間も。何を想起して涙したかは本人でしか分からないが、紆余曲折があって、思い描いたような道筋ではなかったとしても、シンガーとしてこのステージに立てている今の自身への思いが、涙腺を緩ませたのかもしれない。そこから本公演のキー・ソングで、“完璧じゃない自分でもOKなんだよ”という「I'm OK」への流れは、美しく、そして可憐な歌唱が印象的だった。竹田の優しく寄り添うような、たおやかなピアノも良かった。

 aimiのR&B愛は至るところに溢れていて、「Furui Rihoがいないー!」と言って客演のFurui Rihoの分も一人二役で歌唱した「The Wave」では、アウトロにディアンジェロの「ブラウン・シュガー」のハイトーンフェイクを披露。後ろ向きでセクシーにジャケットを脱ぎ、シルバーのトップス姿で歌った「Good Without You」では、ヒップホップソウル~コンテンポラリーR&Bのアプローチが横溢。“パラッパッパパ”のコール&レスポンスを促しながらグルーヴの波を泳ぐaimiの表情にも微笑みがこぼれ、アウトロのフェイクスキャットにはステージで歌うことの喜びも見て取れたような気がした。

 2ndショウの本編ラストとなった「Chosen One」では、シェリル・リンのディスコクラシックス「ガット・トゥ・ビー・リアル」とメアリー・J.ブライジ「リアル・ラヴ」という2つの“リアル”を交差させたスペシャルなマッシュアップ・アレンジに(「フリークエンシー」での涙から「I'm OK」の流れを終えてホッとしたのか、途中で「Chosen One」の歌詞が飛んでしまったのはご愛敬)。「リアル・ラヴ」はまだしも、オーディエンスに「ガット・トゥ・ビー・リアル」のフックのハイトーンをシンガロングさせるのはなかなか難儀だとは思うけれど(笑)、オーディエンスを眼前にして愛する楽曲を心から晴れやかに歌い合いながら、最後に再び自身の楽曲「Chosen One」へ舞い戻るという構成は、“R&Bナイト”というコンセプト以上に、愛する音楽を享受する悦びで包まれた瞬間になっていたのではないだろうか。

 アンコールでは、「最後は立ちませんか!」とオーディエンスを促して、“My name's aimi”と自身の名を歌詞に織り込んだ「KMHH」へ。踊りたくてウズウズしていたオーディエンスも含め、ハンズアップとクラップ、“Do that, do that, yeah yeah”のコール&レスポンスなどでフロアが埋められていくなか、パワフルでエナジーに満ちたヴォーカルが、フロアの吹き抜けの天井を突き抜けていくかのごとく、伸びやかに上昇していった。

 「I'm OK」を歌い終えたMCで、日本でもっとR&B好きが集まって、盛り上げていきたいとの思いから、さまざまなプロジェクトを発信していくと語ったaimi。SNSにて「#rnbloversclub」「#RBLClub」というハッシュタグをつけてR&B愛をシェアしようという試みや、R&B愛を有する人たちの集う場としてのサイト「R&B Lovers Club」の立ち上げ、ポッドキャスト配信「Detox Lounge」などを展開していくとのこと。個人的にも、特に日本でのR&Bの浸透が希薄になって久しいと思っていたゆえ、R&Bの良さが広がる契機になってもらいたいと切に願っている。そして、aimiの楽曲や歌唱がより多くのミュージックラヴァーの耳に届いて欲しい……そう思いながら、恵比寿の夜を脱け出していった。

◇◇◇
<SET LIST>
《1st Show》
00 BAMD INTRODUCTION
01 Lovesick (*CO)
02 How's The Weather? (original by aimi, EMI MARIA & Modesty Beats)
03 Focus (original by H.E.R.)
04 Fight No More (*C4)
05 The Wave (original by aimi feat. Furui Riho)(include phrase of "Brown Sugar" by D'Angelo)(*C4)
06 You Are

《2nd Show》
00 INTRODUCTION
01 (Wanna Vibe) with You (original by aimi feat. Modesty Beats)
02 Good Without You (*CO)
03 Frequency (original by Jhene Aiko)
04 I'm OK
05 Chosen One (include phrase of "Got To Be Real" by Cheryl Lynn, "Real Love" by Mary J. Blige)(*CO)
《ENCORE》
06 KMHH (*C4)

(*C4): song from EP "Changed 4 Good"
(*CO): song from EP "Chosen One"

<MEMBERS>
aimi(vo)
Marie Takeda / 竹田麻里絵(key)
Zak Croxall / ザック・クロックサル(b)
Willie / ウィリー(ds)

MUSIC SELECTOR:
hayamie

hayamie / aimi / 竹田麻里絵 / Willie / Zak Croxall

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もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。