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PJ Morton @The Garden Hall(20240317)

 豊かな感情と活力が躍った、エネルギッシュでファンキーな一夜。

 近年はすっかりマルーン5の鍵盤奏者として名を馳せ(個人的にはどちらかというと、インディア・アリー「インタレスティド」のプロデュースをはじめとするグラミーウィナーとしてや、ロバート・グラスパー・エクスペリメント『ブラック・レディオ2』への楽曲協力、エリカ・バドゥ、BJ・ザ・シカゴ・キッドらとの仕事などのイメージが強いが)、2022年12月のマルーン5での初のドームツアーでも来日(実はマルーン5は翌2023年10月にもプライヴェート・ライヴのために来日していた模様)していたシンガー・ソングライター/プロデューサーのPJモートンが、約5年半ぶりに単独来日公演を開催。前回の来日公演(初来日となった2018年のブルーノート東京公演)に行けなかったこともあり(当日はICEのEX THEATER ROPPONGI公演と被っていたのだが、泣く泣くキャンセルし)、恵比寿ガーデンプレイスにあるザ・ガーデンホールへ足を運んだ。当日券も出たもののすぐにソールドアウトとなり、30~40代をコアとした幅広い世代や多くの外国人たちがフロアに陣取った。

 バンドは左からギター、ドラム、コーラス2名、ベースが並び、中央のキーボードが置かれた位置にPJモートンが座す。海外アーティストのみならず国内アーティストでも開演時刻にライヴが始まることがなかなかなくなって久しいが、律儀にというか、待ち切れずという感じで、定刻の17時直前にステージイン。バンド演奏とコーラス隊のクラップによるイントロダクションがフロアに放たれるなかで、主役のPJモートンが登場。焦らすこともなく、冒頭からフルスロットルの熱量でオーディエンスを沸かせていく。

PJ Morton 〈PJ Morton Live in Japan〉 at The Garden Hall

 「スティッキング・トゥ・マイ・ガンズ」から幕を開けたステージは、アルバム『ガンボ』と『ウォッチ・ザ・サン』の楽曲を中心に、『ポール』からは「レディ」や「セイ・ソー」、サム・クック「ブリング・イット・オン・ホーム・トゥ・ミー」のカヴァーや新曲群までを組み込んだ構成。冒頭の「スティッキング・トゥ・マイ・ガンズ」からPJモートンが立ち上がりながら鍵盤を打ち鳴らし、コール&レスポンスを促すのだが、男女コーラス隊のリズミカルでウォーミーな声色やパッションが重なり合う躍動するバンド・サウンドもあって、PJモートンの出身地である米・ニューオーリンズのジャズ・フェスティヴァルよろしく祝祭感に溢れた、生命力がみなぎるグルーヴが渦巻いていく。ゴスペル調の音色やノリとニューオーリンズならではの快活で陽気なグルーヴをないまぜにしたようなステージングは、実にファンキー。それをほぼメドレーのようなスタイルでシームレスに繋いでくるのだから、オーディエンスが歌い踊らない訳がない。

 ニット帽に眼鏡と顎髭というルックスは(どことなくマーヴィン・ゲイっぽくも見えたりする)気の優しいミュージシャン風だが、バンドとともに打ち鳴らす音にはソウルネスが満ち溢れ、身体の芯に熱を宿してくれるような蠢きとエナジーが沸き上がってくる。その波は常に興奮の頂上で留まるだけではなく、たとえば「プリーズ・ドント・ウォーク・アウェイ」やスティーヴィー・ワンダーとナズの客演で話題となった「ビー・ライク・ウォーター」のほか、「セイ・ソー」といった楽曲では、女性コーラスのティオンドリア・ノリスなど絡みやオーディエンスのシンガロングとともに、川の水の流れのごとく、音に身を委ねる麗らかで穏やかなグルーヴを生み出していく。興奮と安らぎを繰り返すような(それが人生をなぞらえたものとでも言わんばかりの)抑揚に溢れたステージングで、オーディエンスの心を鷲摑みにしていった。

 中盤の「セイ・ソー」「ゴー・スルー・ユア・フォン」「ファースト・ビガン」あたりは緩やかでハートウォームなヴァイブスが横溢。特にPJモートンの弾き語りから始まった「ファースト・ビガン」は、ノスタルジックやセンチメンタルを帯びながら後半へ進み、フィンガースナップの音が響く和やかな空気のなかで、PJモートンのソウルフルな歌唱が胸を打つ、という好アクトに。サム・クックのカヴァー「ブリング・イット・オン・ホーム・トゥ・ミー」は元来のヴィンテージな雰囲気もあるが、このバンドならではのゴスペル感が発露して、チャーチ(教会)・ミュージックを眼前で体感しているような気持ちにもなっていく。

 ニューオーリンズ出自ならではの音楽的素養と持ち前のソウルネス、ゴスペル・ミュージックのノリがことさら集約していったのが、クライマックスとなった「オールライト」「エヴリシングズ・ゴナ・ビー・オールライト」への展開だ。時に立ち上がり、ステージ最前でオーディエンスを煽るPJモートンをはじめ、バンドメンバーやコーラス隊が自らが鳴らす音とオーディエンスとの一体感に身体を揺らして興奮を愉しみながらパフォーマンスしているさまは、人間が本来持つ生命力や活力、さまざまな感情が喜悦や恍惚へと注がれていくような、五感に刺激が与えられた瞬間でもあった。

 “PJ! PJ!”というコールが響き渡って突入したアンコールでは、「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」を演奏。スティーヴィー・ワンダーの面影もチラつくソウルフルなヴォーカルで歓声を誘うと、シンガロングを促したオーディエンスには指揮者のように腕を振って抑揚をもたらしていく。ゴスペルのリーダーのようにも見えたその所作には、共に純粋に音楽を愉しみ、感情を豊かにさせるという、余計な思惑に囚われない、人間の根底にある本来の資質に訴えかけたメッセージのようでもあった。

 振り返ってみれば、息つく暇もなく釘付けになっていたファンキーなステージ。60分強という尺はちょっと短い感じもしたが、それは充実したパフォーマンスが繰り広げられたという証でもあるだろう。ゴスペルやニューオーリンズのカルチャー、スティーヴィー・ワンダーやニューソウルの影も垣間見えた、興奮のうねりに快哉した恵比寿の夜となった。

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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Sticking To My Guns (*G)
02 Ready (*P)
03 Please Be Good
04 Please Don't Walk Away (*W)
05 My Peace (*W)
06 Be Like Water (*W)
07 So Lonely (*W)
08 Say So (*P)
09 Go Thru Your Phone (*G)
10 First Began (*G)
11 Good Morning
12 Bring It On Home To Me(original by Sam Cooke)
13 Alright (*G)
14 Everything's Gonna Be Alright (*G)
《ENCORE》
15 How Deep Is Your Love (*G)

(*G): song from album "GUMBO"
(*P): song from album "Paul"
(*W): song from album "Watch The Sun"

<MEMBERS>
PJ Morton(vo,key)

Shemaiah 'Chop' Turner(g)
Brian Cockerham(b)
Edward Clark(ds)
Tiondria Norris(back vo)
Jarell Bankston(back vo)

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もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。