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水曜日のカンパネラ @日本武道館(20240316)

 詩羽が叫ぶ愛で結束した、オールタイム“水カン”の魅力に満ちた120分。

 演者にとって憧れの場所である日本武道館に360度見渡せる8角のセンターステージを舞台に、カラフルなカクテルライトやレーザーライトが四方八方に放たれ、ステージ上空から吊られた螺旋やさまざまな円形へと自在に変化する発光体、ステージの周りをぐるりと回る(ワゴンカート上に作られた桃の)はりぼて、ハーネスによる宙づりシーン……などの演出は、前回のコムアイ時代の日本武道館公演〈八角宇宙〉とはさほど変化なく、目新しさが際立ったということはなし。だが、2017年の前回公演から約7年ぶり、詩羽体制では初となる日本武道館単独公演〈METEO SHOWER〉は、詩羽としての水曜日のカンパネラが色濃く彩られた、現在進行形の“水カン”がしっかりと刻まれたステージとなっていた。

 コムアイ時代には小規模なイヴェントのほか、リキッドルーム公演(記事→「水曜日のカンパネラ@LIQUIDROOM」)や上述の武道館公演(記事→「水曜日のカンパネラ@日本武道館」)などを観ていたが、コムアイが脱退し、ヴォーカル/演者が詩羽へと変わった2021年9月以降は、水カンのライヴはご無沙汰となっていた。これは「水カンがコムアイでなくなってしまったから」という訳ではなくて、単にライヴを観賞するタイミングが合わないまま、ある程度時が過ぎていくうちに、自然と観賞機会から離れてしまっていただけ。今年の味の素スタジアムでのFC東京のホーム開幕戦(3月2日)のスペシャルライヴゲストに水カンが出演したこともあって、「久しぶりにライヴへ行ってみるか」となった次第だ。
 そもそも水カンに興味を抱いたのが、nujabesの〈Hydeout Productions〉所属時代に知ったトラックメイカーのケンモチヒデフミ経由で(おそらく初期水カンにハマった人のなかでも少数派だと思う)、コムアイうんぬんというよりケンモチ・サウンドに耳が惹かれていたゆえ、ヴォーカルが詩羽に移行したところで、特に違和感を抱くこともなかった。

 詩羽自身が「(コムアイと比較して、どっちがいいとか切ないことを言うことよりは、コムアイも詩羽も)どっちも最高じゃんって思ってもらえるようにいてくれたら嬉しい」と語っていたが、その意識は、自身が高校時代までに苛まれ、生きることに苦痛を抱いていた半生から「自分の好きなものを好きといえるような、少しでもそういう社会にしていきたい」「みんなの自己肯定感を上げていきたい」という(真面目なMCが苦手といいながら語りかけていた)メッセージにも表われていた。

 久しぶりに水カンのライヴへ来てみて、個人的に驚いたのは、だいぶ客層が異なっていたということ。コムアイ時代には見られなかったベビーカーで来場した親子連れや小学生以下のキッズたちが多かった。詩羽のキャラクターへの人気度がことさら高いのだろう。上手く言えないが、水曜日のカンパネラというユニットの詩羽が好きというよりも、詩羽が歌っている水曜日のカンパネラが好きという感覚が強い層が多く集っているのだと思う(“チビちゃん”たちはもちろん、ヤングたちが水カンの詞世界にすぐにピンとくる訳ではないだろうし)。もちろん初期からのファンもいて、文字通り老若男女が集っていた(詩羽は“チビちゃんからおじおじまで”と表現し、呼びかけで60代までを確認)。

 後半の「一休さん」では、普段のライヴで行なう観客をステージに上げてパフォーマンスする演出を行なったが、そこへ選ばれて登壇した4名も9歳から還暦までと年齢層の幅広さを示していた。
 詩羽へ向けてオーディエンスからは幾度も“カワイイ”というフレーズが飛び交う空間。そのオーディエンスたちを全方向的にハッピーにいざなうため、パフォーマンスを通して優しさと愛情を交換しようという心意気も、詩羽の笑い声や表情からも存分に垣間見えた。

 ステージは2時間強。開演時刻から15分を過ぎたあたりで暗転し、ウサギの仮面姿の4名のダンサーたちがステージへ足を踏み入れ、それぞれ東西南北の観客に向くなか、ステージの中央からポップアップ装置で、ダンサー同様にウサギの仮面姿の詩羽が登場。「アリス」「バッキンガム」という詩羽時代の初配信曲で幕を開けると、「シャクシャイン」「ラー」「アラジン」とコムアイ時代の楽曲をメドレーで披露。「ディアブロ」では“いい湯だね”のコール&レスポンスも飛び出した。

 中盤ではライヴで「赤ずきん」を演じる際に登場するキャラクターの“オオカミ”への独占インタヴューなるヴィデオが流された後に「赤ずきん」へ。オオカミがステージ中央のこたつに伏して寝ているなかで、衣装チェンジした詩羽が花道から近づき、それに気づいたオオカミと一緒に踊るパフォーマンスを経て、一旦こたつに潜り込んだオオカミがポップアップで(やや遅れ気味に)飛び出し、「祝武道館」と大きく書かれたこたつ布団を背負いながらステージアウトするというシーンもあった。

 ヴィデオから楽曲に移る演出は「桃太郎」でも。詩羽のナレーションによるおなじみの昔話「桃太郎」が映像とともに流された後、「ここまではみんなが知っている桃太郎ですが、こんな桃太郎もあるそうです」というフリから、フロアに光る桃(スタッフが押して回るカーゴ上のはりぼて)から詩羽が飛び出し、ステージ脇の通路を周回。犬、猿、雉のお供を従えて、客席にきびだんごならぬボールを投げ入れるサプライズで沸かせた。

 その前には、オーディエンスにスマホのライトの点灯を依頼し、武道館に煌めく星たちを描き上げた「織姫」や、ハーネスによる宙づりで歌った「かぐや姫」といった天空や宇宙を意識させる演出で、驚きの声をもたらす。
 ステージではミュージック・ヴィデオよろしく“こーんこっこ こーんこっこ”のフレーズで刑事と鑑識に扮したダンサーたちがドライに踊る「たまものまえ」(鳥羽上皇の寵姫で、化け狐の化身だった伝説上の人物“玉藻前”がモチーフ)や、ステージ床に渋谷の街並みを映し出した後、サラリーマンや女子高生たちが路上ライヴをする詩羽に次第に引き寄せられていくという「モヤイ」(渋谷のモヤイ像がテーマ)など、ダンサーたちがさまざまな演者に変化して楽曲の世界観を創り上げる。

 また、波になったダンサーとスモークで海を描いた「マーメイド」ではステージ下で大漁旗をはためかせ、「七福神」では「桃太郎」と同様にスタッフに手押しされたカーゴ上の“宝船”に乗ったオオカミが鯛を掲げながら周回するなど、ステージ以外でも楽しませる要素を詰め込み、クライマックスへ。詩羽時代の水カンの代表曲となった「エジソン」では、ステージ上空や客席を電飾やライトが彩り、カラフルに空間を染め上げると、「(終わりという雰囲気を作らず、楽しかったからまたライヴに来たいと思って欲しいので)アンコールはやらない」との宣言通り「招き猫」でエンディングへ。大きなエアバルーンの招き猫3体がスタッフによりステージへ持ち込まれるも、1体が空気が漏れたのかしぼみ始めてしまうハプニングが発生するというご愛敬もあったが、急遽その1体をステージから下げ、2体のエアバルーン招き猫を背中合わせにしてステージ中央に設置。その周りを動きながら詩羽が楽しげに歌い上げると、“千客万来!”のコールが響くなか、小判型の金のテープが武道館の空間を飛び交う、水カンらしい派手やかな終幕となった。何度も「愛してるよ!」と叫びながらステージを後にする詩羽も印象的だった。

 ライヴでは過去最高の曲数となった詩羽時代初の武道館公演。コムアイ時代の楽曲もふんだんに盛り込みながら、あくまでも詩羽としての水カンとして練り上げられたステージは、詩羽のアイデンティティや経験が通底したポジティヴで愛情に溢れたアクトに。愛くるしさや無邪気な笑顔、苦悩や感謝からの涙とさまざまな表情を見せた120分強。2代目ヴォーカリストとしてのプレッシャーもあったなかで、現時点での水カンの最適解を示したといえるのではないだろうか。

 6月には3rd EP『POP DELIVERY』のリリース、それに伴って7月よりZeppツアー〈POP DELIVERY〉の開催も決定した。可愛らしいキッズたちの声に幸せを感じ、パワーを得た詩羽は、これからもさらなる進化を見せてくれそう……そんな予感も過ぎった一夜となった。

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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 アリス
02 バッキンガム
03 シャクシャイン
04 ラー
05 アラジン
06 ディアブロ
07 シャドウ
08 聖徳太子
09 INTERLUDE ~ Dancer Performance(BGM by "オードリー" instrumental track)
10 VIDEO「詩羽 vs オオカミ 武道館対決 直前スペシャル!」~ 赤ずきん
11 キャロライナ
12 織姫
13 卑弥呼
14 たまものまえ
15 かぐや姫
16 モヤイ
17 ティンカーベル
18 VIDEO「桃太郎」~ 桃太郎
19 一休さん
20 ツイッギー
21 金剛力士像
22 一寸法師
23 マーメイド
24 七福神
25 エジソン
26 招き猫

<MEMBERS>
水曜日のカンパネラ / Wednesday Campanella are:
詩羽(vo)
Hidefumi Kenmochi(釼持英郁)
Dir.F(福永泰朋)

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【水曜日のカンパネラについての記事】
2013/08/18 Especia@WWW
2015/03/29 水曜日のカンパネラ@LIQUIDROOM
2017/03/08 水曜日のカンパネラ@日本武道館
2024/03/16 水曜日のカンパネラ @日本武道館(20240316)(本記事)


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