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Madison McFerrin @BLUE NOTE PLACE(20240217)

 深遠なるソウルを解き放つ才女のミニマムなプレヴューショー。

 マクファーリンという名前を聞いてピンと来た人は、全米1位を記録した「ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー」で著名なジャズ・シンガーのボビー・マクファーリンや、ロバート・グラスパーやサンダーキャットらとのコラボレーションで知られるテイラー・マクファーリンを思い浮かべる人も少なくないだろう。そのボビーを父に、テイラーを兄にもつのが、マディソン・マクファーリン。音楽的才能に溢れる一家で育ち、バークリー音楽大学で研鑽を積んだ後に、バイナリ・ソウル(Binary Soul)というグループでの活動を経て、2016年にソロ名義でのEP『ファインディング・ファウンデーションズ Vol.1』を発表。同EP収録のア・カペラ「ノー・タイム・ノー・ルーズ」などがメディアで評価されると、2019年に兄テイラーとの共作『ユー+アイ』で初めて楽器によるプロジェクトに挑戦。デ・ラ・ソウル、ガラント、ザ・ルーツらとの共演を経て、2023年に『アイ・ホープ・ユー・キャン・フォーギヴ・ミー』(『I Hope You Can Forgive Me』)でアルバム・デビューを果たした……という才女だ。

 2月18日、19日のブルーノート東京公演に先駆け、そのプレステージ・イヴェントとして〈MADISON McFERRIN Solo – Preview for Live at Blue Note Tokyo –〉を恵比寿・ブルーノートプレイスにて開催。ライヴは40分強の1ステージのみであったが、類まれなる才能の一片を体感することが出来た。

 父ボビーは伴奏に楽器を用いない声のみの多重録音による「ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー」でグラミー賞を受賞したが、やはり遺伝なのか、マディソン・マクファーリンも初期の『ファインディング・ファウンデーションズ』シリーズにて父譲りのア・カペラ・スタイルで耳目を集めた。ブルーノート東京公演はベース、ドラム、キーボードを従えたバンド・セットだが、このプレ公演ではマディソンのみによるア・カペラ・スタイルで進行。

 それゆえ、披露した6曲は、デビュー・アルバム『アイ・ホープ・ユー・キャン・フォーギヴ・ミー』収録曲ではなく、冒頭の「ノー・タイム・ノー・ルーズ」をはじめ、初期EP『ファインディング・ファウンデーションズ』2作を中心とした構成に。だが、裏を返せば、彼女の原点ともいえるセルフ多重録音によるア・カペラ・スタイルを垣間見ることが出来たともいえ、それはそれで貴重な機会となったいえよう。

 凛とした眼差しからも感じられる聡明さが醸し出す、優美や端麗、気品といったエレガンスと崇高な美を湛えたヴォーカルは、息を呑むような懐の深さを見せる。スキャットや口、クラップやマイクを叩く音などでビートメイクしてループさせ、そこへ麗らかなヴォーカルを乗せていくのだが、次第に音が重なって宙に放たれていく音や歌には荘厳さも見え隠れして、いわゆる馴染みのア・カペラとは印象がだいぶ異なる深みを感じた。最後に披露した「インセイン」の秘めた情熱を解き放ち、周囲の耳目を一気に惹き付けるヴォーカルには、吸い込まれるような力強さに満ち溢れていた。

 少し驚いたのが、4曲目に披露した「トキシック」。言わずもがな、ブリトニー・スピアーズに初めてグラミー賞をもたらした大ヒット曲だが、オリジナルのダンス・ポップの趣きは消え、ゴスペルとネオソウルを背景とした独創性溢れるアレンジに。それでも、オリジナルでも窺える危うさやスリリングなメロディがしっかりと刻まれていて、「トキシック」の新解釈として納得させられるパフォーマンスとなった。

 また、「シャイン」では、「次の曲では、私に続いて歌ってね」と呼びかけて、フロアとのコミュニケーションを。初見で「Don't ignore your shine / You know you'll be fine / Don't ignore your shine」のシンガロングはなかなか難易度が高いと思うが(リスニングがからっきしな自分は、最初は“ignore”が聞き取れず、“need”かな?……ただ、それだと「輝きなんていらない」って意味になるから違うな……などと頭を巡らしながら歌い、最後の方でようやく“ignore”と判別出来たという体たらくに終わった…苦笑)、疑心暗鬼で始まったシンガロングも、繰り返していくうちに歌声も大きめになっていき、オーディエンスの声が響くアウトロで締めることが出来て、マディソンも喜びの声を上げていた。

 都合によりバンド・セットを観賞することは出来なかったが、歌唱がダイレクトに届く原点のスタイルを近しい距離で堪能したことは、またとないスペシャルな時間となった。アルバム『アイ・ホープ・ユー・キャン・フォーギヴ・ミー』にはクールなディスコマナーの「(プリーズ・ドント)リーヴ・ミー・ナウ」やエレクトロニックなジャズ・モードの「ステイ・アウェイ(フロム・ミー)」、グルーヴィなギターが耳を惹くファンキー・ソウル「ユタ」といった楽曲があり、そのほかにも初期のア・カペラ・プロジェクト的な多重録音にエレクトロニックなハウス・ビートを組み合わせた「ギルティ」といった楽曲など、さまざまなジャンルを横断する音楽の振幅の広さが魅力ゆえ、是非バンド・セットや長尺でのステージも観賞してみたいと強く感じた次第だ。

◇◇◇
<SET LIST>
01 No Time To Lose (*F1)
02 Learn Your Lesson (*F1)
03 Fallin' (*F1)
04 Toxic (original by Britney Spears)
05 Shine (*F2)
06 Insane (*F2)

(*F1):song from EP "Finding Foundations: Vol I"
(*F2):song from EP "Finding Foundations: Vol II"

<MEMBER>
Madison McFerrin / マディソン・マクファーリン(vo)


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