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声を、磨きながら、守る。

こんにちは。ボイストレーナーの古川淳一です。

先日、こんなニュースが流れてきました。

 ご存知の方も多いと思いますが、Official髭男dismのボーカル藤原聡さんが声帯ポリープを発症し、療養が必要との医師の診断があったことから、イベント出演を見合わせるということが公式サイトで発表された、というニュースです。

 もちろん当事者でも関係者でもない私には、どういった経緯でこのような事態になってしまったのかは知る由もありませんが、まずは何より、適切な処置を受けた上でゆっくり静養されて、ご本人やバンド、関係者の皆さんの中での最高のタイミングで復活をしてくれると嬉しいな、という思いがあります。と同時に、ボイストレーナーとして、もし自分が藤原さんの担当を務めていたとしたら、このような結果にならなくて済むような方法を模索することが出来ただろうか、とも考えました。

 Wikipediaなどの情報を参考にしたところ、特に2018年にメジャーデビューして以降、レコーディング、ライブ、ツアー、イベント、メディアへの出演などなど、怒涛のスケジューリングをこなされていることが推測されます。一応私も若かりし頃に音楽活動を細々とやっておりましたので、どのくらいの忙しさなのかやどのくらいの重圧があるのかはなんとなく想像できるつもりではいますが、本当に想像を絶するようなスケジューリングなのではないかと感じます。

 さらに彼らの楽曲は、キーの高さやメロディーラインの複雑さ、リズムやグルーヴの精度の高さなども相まって、特にライブで演奏し歌いこなすのにはかなりの集中力とパワーが必要となります。一曲歌いきるだけでも大変なのに、あの楽曲たちを何時間も歌い続けて大きな会場でのライブエンターテインメントを成立させるというのは、至難の業であると断言できます。

 実は私は、彼らの2022年の楽曲『ミックスナッツ』を聴いて、すでに違和感を感じていました。

 2019年頃の『Pretender』や『宿命』の時と比べると明らかに発声が変わっていて、最初に聞いた時に彼らの楽曲だとは気づかないくらいでした。レコーディング後のミックス(ミキシングやマスタリングという様々な調整のこと)で声色の感じを変えたのかな?とも考えましたし、もしかしたら何らかの不調を抱えているのかもしれないな、と良からぬ想像をしたりもしておりました。まさかそれが現実になってしまうとは・・・。

 著名なボーカリストさんの声の不調のニュースを見るにつけ、ボイストレーナーとしていろんな思いが巡ります。

 スポーツ選手がコンディションや怪我のリスクと常に闘っているように、ボーカリストも声帯や喉と常に向き合ってコンディションを整えていかなくてはなりません。コンディションが整わないまま歌い続けるということは、怪我するリスクがどんどん増えていくということでもあります。今のコンディションがどうなのかを分析できるようになることや、自分でコンディションを調整する方法論を知ること、さらには適切な休養の仕方を知ることで、ボーカリストは自分の声を守らなければならないし、ミュージシャンを預かる関係者もそのへんに敏感にならないといけないのです。

 藤原聡さんは、ボーカリストとして、不世出の、替えの効かない傑物だと私は思います。今回の休養は、大袈裟に言えば日本の音楽業界の多大なる損失です。ポリープなんて、いきなりできるようなものではありません。本人も関係者も、なぜここまで悪化を放置していたのか。はっきり言って不勉強が過ぎます。もしうまいこと復活できたとしても、それを絶対に美談になんかしてはならないのです。

 ボイストレーニングは歌が上手くなるためのものだ、という考えは、はっきり言って「浅い」です。もちろんトレーニングを繰り返せば上手にはなるでしょう。でもそんなことよりもっと大事なことがあります。それは自分の声を「磨きながら、守る。」ということです。楽に声が出せている状況が作れれば、たくさん練習できるから上手くなる可能性も上がります。長時間のレコーディングやライブに耐えうる、自分に合った声帯の使い方を知れれば、様々な作品をコンスタントに発表し続けることもできますし、パフォーマンスが落ちないライブでオーディエンスをさらに満足させることもできるでしょう。

 私は、世の中から「歌うのが辛い」を無くしたい。歌うことがコンプレックスだという人に、自信を与えたい。歌や声を仕事にしたいと思う人に、正しい考え方と方法論を伝えていきたいし、そんな人たちの憧れの対象であるプロのボーカリストの方々が、喉の不調によってパフォーマンスを発揮できなくなるのを防ぎたい。それがボイストレーナーとしての、心からの思いです。一人でも多くのボーカリストのフィジカルとメンタルをより良い方向に導いていけるように、日々研鑽を積んでいきたいと思います。


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