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メスを置いて1年、中堅外科系医師起業家がとった行動。

株式会社クオトミー代表取締役の大谷(オオヤ)です。
バックグラウンドは整形外科医で、医療者の課題を解決することで医療を支えたいとの想いで起業しています。
主に都内の急性期病院で手術を執刀するなど中堅の臨床医をしていましたが、2023年3月末をもってメスを置き、2017年12月より創業していたスタートアップ事業にフルコミットしプロダクト作りに集中しています。
執刀しなくなってから間もなく1年。今回は「外科医がメスを置いてまで取り組むこととは何?」と思っておられる医療関係者や、起業しようとしている医師・医学生の方にとって興味が持てるテーマで、、、そして、知人でご無沙汰の皆様には生存確認的意味合いで文章を書こうと筆をとっています。

【本文の前に告知】
外科系医師・病院経営者向けの手術症例一括管理ソリューション「OpeOne オペワン」を医療機関向けにリリースします。
外科系診療チームが持つ「手術に関する情報(スケジュール、プラン、手術所見など)」をデジタルに一括管理し、手術に関わる医療者のワークフローを効率化する医療機関向けサービスで、外科系医師の働き方に対する具体的なソリューションを提案します。
気になった医療機関勤務の外科系診療科管理職の方や事務管理職の方はコチラの製品ページからお問い合わせください。時間外労働が削減できます!
実際にプロダクトを使う外科系医師の方には気軽にOpeOneユーザー体験をして頂きたいと思っており、医師向けLite版ウェイトリストも作りましたのでコチラから登録しお待ちください。安全/便利に症例共有でき、自身の執刀経験がストックされます!

👇本文はここからです。


手中の鳥 bird-in-hand

エクイティ資金調達後、医師向けオンラインイベント事業「Eventomy」を新型コロナ禍中に運営し始めてから、外科系医師ユーザーが「手術」に関するテーマに強く興味をもっていることが定量的に観測できていました。
特に、Key Opinion Leader(KOL)医師の症例経験や手術手技を共有するイベントは反響が大きく、数字が跳ね上がりました。
もともと外科系医師は「手術症例に対する考え方・戦略」「実際の手技や術中の立ち振る舞い」「使っている道具とその使い方」などなど、他の外科医がどうやって手術しているか知りたい生き物なんです。自分もそうでした。たくさんの医療機関へ手術見学に行かせてもらいました!
一方、「KOL医師のチャンピオン症例を供覧させていただく有難いコンテンツ」のLive配信となると、どうしても配信間隔が空いてしまう。Eventomyでは医師にとって日常的なサービスに成り得ないことに薄々気づき始めました。

そんな中、第n波と第n+1波の間のようなコロナ収束期間に幸運なことにリアル開催できた学会に参加してみると、旧交を温める医師達の笑顔が。それを見て、このまま永遠とオンラインLIVEイベントに3桁数の医師が集まり続ける世界線はないなと感じました。
そこで、ユーザーからの要望も多かった動画オンデマンド化へプロダクトをプチPIVOT。
LIVE参加は無理でも隙間時間に訪問するユーザー向けに、LIVE配信では不可能だった「手術動画にTIPSコメントを加える」工夫などをした、外科系医師に特化した映像コンテンツを提供し始めました。
医師ユーザーから「手術見学にいっているようだ!!」との声までいただくようになり、ユーザー満足度は向上しました。(が、動画制作コストは上がりました。)
そうこうしているうちに、米国スタートアップの中でオンラインイベント最大手のHoppinがイベント事業を売却のニュース!ライブストリーミングとシェアビデオ事業を残して祖業から撤退していました。
とんでもない資金調達実績をもつ世界的スタートアップよりも素早く「イベント配信→オンデマンド動画」の変化に対応できていて、自分の肌感覚を信じる原動力にはなりました。

動画オンデマンド事業は、学会との連携も増えてきており、一定のユーザー登録の伸びをキープしている状態で、いつの間にか550施設を超える医療機関の外科系医師が登録しているメディアとなっていました(われわれが取り組んでいるのは外科系医師の方々向けのプロダクトで、彼らが勤めている急性期医療機関は日本に1400施設あります)。線形には伸びているものの、なかなかニッチな領域のメディア単独では、スタートアップに求められるJ字カーブ的な成長を描くことは難しそうでした。
医師との接点を活かしたソリューションで、外科系医師が毎日使うようなサービスを作れないか・・・
そんな時に1人の医師ユーザーとの会話が心に刺さりました。このユーザーさんは、動画に登場しているKOL医師の元で働いている医師です。

「本当にありがとうございます。A先生(KOL医師のこと)と手術に入る時には事前にEventomyの動画を見直してから手術に臨んでいます。動画で学んでから手術に入ると理解が深まります。」

最初このコメントを聞いた時に、すごく違和感を感じました。
「普段から教えてもらえるのに、なぜ感謝されるのだろう?」
そのうち、現在の臨床現場では所属チーム内での症例経験共有が難しいことに気づきました。
自分が若手の頃(2008-15年?)には、第2・第3助手として自発的に手術に参加するとか、夜遅くまで行われるカンファレンスで上司の症例経験を耳学問する、、、など多くの学ぶ機会がありました。現在は、2024年4月の医師の働き方改革が迫ってくる中で、自分が経験したようなモーレツな働き方/学び方ができないのです。
本来は、所属先の医療機関で蓄積されている手術知見をしっかり身につけることが外科医にとっては大事なはず。「守・破・離」でいうと「守」。KOL医師のチャンピオンケースを学ぶことも大事ですが、日常的には所属機関での手術加療の型(準備、戦略、トラブルシューティングなどを含む)をしっかり学ぶことが日々の業務に活きてきます。
しかし「カンファレンスを業務時間内にすることにしたが、それぞれ忙しくてカンファレンスに人が集まらない」「病棟業務や事務作業を業務時間内に行うために入りたい手術に参加できなくなっている」etc、医師の働き方改革に対応しようとしている臨床現場からの声を聞いていると、外科系医療の質が担保できない状態にきていると感じます。
限られた業務時間の中で手術知見を「伝える/学ぶ」を求められている現在の環境で、ソリューションがないのです。

医療機関の中で外科系診療チームが日常的に使うソリューションがあるのではないか。

自分は外科医の研鑽や技術継承に関するプロダクトをしつこく立ち上げる熱量を持っている医師起業家で、15年程の臨床経験から外科系診療チームのワークフローを熟知していて、相談できる医師仲間やヒントをくれるユーザーもいて、プロダクトを作れる開発チームもいる。
新しいプロダクトは「手持ちの手段」で始めることができる、と考えるようになりました。

手中の鳥 bird-in-handの原則:
「目的主導」で最適な手段を追求するコーゼーションとは対照的に、自分がすでに持っている「手持ちの手段(資源)」を活用し、「手段主導」で何ができるかを発想し着手する思考様式は、「手中の鳥 (bird-in-hand)の原則」と呼ばれます。

エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」(一部改変)

許容可能な損失 affordable loss

2023年3月、メスを置きました。
手術は自分のアイデンティティですし、外科医としても脂が乗ってきていた時期と感じていましたが、、、凄い良い時期にスタートアップに挑戦させてもらっているという実感が強く、集まってくれている仲間もいて、これでスタートアップにコミットしなければ後悔すると確信したため、この決断することができました。

とはいえ、オンデマンドコンテンツにプチPIVOTしたEventomy(現OPENOVA Online)でも収益が出てきたタイミングで、完全に別プロダクトに振り切る意思決定はできず、、、まずは2023年夏から、自分・CTOの田崎・デザイナーのみが関わる小さいプロジェクトチームを立ち上げるところからスタートしました。
Design Sprintの本を参考に、3人でソリューションスケッチを書いたり、金曜日に紙芝居プロダクトを医師に見てもらったり、という1週間のSprintを繰り返していました。
その中で徐々にですが、外科系医師の手術に関わるワークフローを改善しうるプロダクトの原型がつくられていきました。
また、この新プロダクトのロードマップ上に手術映像の利活用は絶対に乗ってくると考え、複数の医療機関と連携し、倫理委員会承認と患者さん同意を得たうえで、手術映像を解析するAIモデル構築を行うR&D的な行動を開始しました。
このように徐々に社内開発リソースの比重を新プロダクトの方へ移していきました。

臨床医をしながら会社設立したので、クオトミー創業期は2017年12月と結構前です。週末も当直や勉強会があると忙しく、「週末起業」というより「深夜起業」のような状態から始めていました。
創業時、たった1人で臨床業務とパラレルで取り組んでいた自分にとっては、21時以降の時間が「許容可能な損失」でした。
しかし、今は仲間がいて(決して多くはないですが)開発リソースがある。このことにありがたみを感じながら、新プロダクトがユーザーに受け入れられる確度を高めつつ、徐々に開発リソースの比重をあげていきました。

許容可能な損失 affordable lossの原則:
起業家は、予期せぬ事態は避けられないことを前提としたうえで、最悪の事態が起こった場合に起きうる損失をあらかじめ見積もり、それが許容できるなら実行すればよい、という基準で意思決定を行っていたのです。

エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」(一部改変)

レモネード lemonade

ヘルスケア領域のスタートアップをやろうと思った時に、躓くのが法規制や倫理観です。
保険収載を狙っているわけではないクオトミーの事業領域でも、個人情報保護法、3省2ガイドライン、次世代医療基盤法などを、良く理解しなければなりません。
また、医療に関するネガティブな報道は度々生じるため、しっかりした道筋で倫理観をもって進まなければなりません。
たとえば、2022年5月に報道された複数の眼科医と医療機器メーカーとの間での手術映像提供のニュースは、複数の問題点が混在していて、何が問題であったか良く理解しないまま批判している論調も見受けられます。
このような理解しにくい法規制や倫理観は高い参入障壁とも言えます。
自分に不利と思える状況に陥った時(果実が手に入らず苦いレモンだった時)に、それを上手く調理してレモネードにするのが起業家です。

レモネード lemonadeの原則:
エフェクチュエーションに基づく起業家は、自らを取り巻く環境の不確実性の高さを自覚したうえで、それが分析や予測によっては十分に削減できないものであることも認識しています。そのため、彼らの意志決定では、予期せぬ事態は不可避的に起こると考え、むしろ起こってしまったそのような事態を前向きに、テコとして活用しようとする傾向が見られました。

エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」(一部改変)

クレイジーキルト crazy-quilt

最近は多くの医療関係者の方や医療系企業の方に「お願い」しています。
いち臨床医の時はお願いする内容自体を持ち合わせていなかったのですが、いまになって自分の15年ほどの臨床現場や学会活動での医療関係者の方との繋がりを頼らせていただくことが多いです。
また、いちスタートアップですが、医療系企業の皆様も驚くほど話を聴いてくれます。
ときにスタートアップ単体では持ち得ないようなリソース・環境をお借りすることができることがあり、日々感謝すると共に、自分たちも何かを与えることができるように努めていきます。

クレイジーキルト crazy-quiltの原則:
彼らは、いまだ市場が存在しない新規の事業であるならば、誰が顧客で、誰が競合になるかは、事後的にしかわかりようがないと考え、むしろ交渉可能な人たちとは積極的なパートナーシップを求めようとしたのです。

エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」(一部改変)

手術室の外科医 surgeon-in-the-OR

さて、ここまで本文の見出しにつけていた「手中の鳥」、「許容可能な損失」、「レモネード」、「クレイジーキルト」は高い不確実性に対してコントロールによって対処する思考様式「エフェクチュエーション」の原理から引用しています。下記の「黄色い本」が読みやすくオススメです。どんな立場の方にとっても行動を起こす際に頼れる思考法だと思いますし、自分は二児のの父親ですが子供の教育にも役立つと思います。そして、シード〜アーリー期のスタートアップ経営者には特にブッ刺さると思いますので、ぜひ読んでみてください。

5つの原理から成るエフェクチュエーション思考の最後の原理は「飛行機のパイロット」です。ですが、ここは「手術室の外科医」とさせてください!

手術室の外科医 surgeon-in-the-ORの原則:
何らかの不測の事態が発生した場合でも、外科医は自らの手でコントロールすることに集中し続けます。結果の予測や、過去の成功・失敗ではなく、手術室ではまさに「いま・ここ」に集中して、望ましい結果を導こうと行動するのです。

エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」(外科医目線に勝手に改変)

外科系医療者の関わる手術関連のワークフローは、現場の中の人しか実情を知りようがなく、ぱっと見た印象の市場性が理解されにくいため、本気で課題解決に取り組めるプレイヤーが少ないと思っています。
自分たちは、surgeon-in-the-ORの原則にのっとり、「いま・ここ」に集中して事業を創り上げていきたいと思います。

この1年を振り返りました。2024年も既に3ヶ月過ぎてしまったことに驚愕ですが、引き続き不確実な道を歩みたいと思います。

手術症例一括管理ソリューションOpeOne

再度、外科系医師・病院経営者向けの手術症例一括管理ソリューション「OpeOne」のお知らせです。
外科系診療チームがもつ「手術に関する情報(スケジュール、プラン、手術所見など)」をデジタルに一括管理し、手術に関わる医療者のワークフローを効率化する医療機関向けサービスで、外科系医師の働き方に対する具体的なソリューションを提案します。
気になった医療機関勤務の外科系診療科管理職の方や事務管理職の方はコチラの製品ページからお問い合わせください。時間外労働が削減できます!
実際にプロダクトを使う外科系医師の方には気軽にOpeOneユーザー体験をして頂きたいと思っており、医師向けLite版ウェイトリストも作りましたのでコチラから登録しお待ちください。安全/便利に症例共有でき、自身の執刀経験がストックされます!

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