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【113.水曜映画れびゅ~】"The Son"~ただ抱きしめてほしかった…~

"The Son"The Son/息子は、今年3月から日本公開されていた映画。

『ファーザー』(2020)を手掛けたフロリアン・ゼレールが監督・原作・脚本を務め、ヒュー・ジャックマンを主演に迎え、今年のゴールデングローブ賞(ドラマ部門)主演男優賞にノミネートされた作品です。

あらすじ

高名な政治家にも頼りにされる優秀な弁護士のピーターは、再婚した妻のベスと生まれたばかりの子供と充実した日々を生きていた。そんな時、前妻のケイトと同居している17歳の息子ニコラスから、「父さんといたい」と懇願される。初めは戸惑っていたベスも同意し、ニコラスを加えた新生活が始まる。ところが、ニコラスが転校したはずの高校に登校していないことがわかり、父と息子は激しく言い争う。なぜ、人生に向き合わないのか? 父の問いに息子が出した答えとは──?

日本公式サイトより

心の傷

ピーターは、再婚した妻との間に新しい子を授かり、仕事も順調で、順風満帆の日々を過ごしていた。

そんなある日に、元妻のケイトが家を訪ねてきた。ケイトはひどく動揺した様子で、2人の間の息子で、ケイトとともに暮らす高校生のニコラスの様子が変だと言う。

ニコラスのことを案じたピーターは、彼に会いに行く。彼は学校を登校拒否しており、さらに腕には自傷行為を行ったとみられる傷跡があった。

「何か、僕にできることはなにか?」という問いかけに、ニコラスは父と一緒に暮らしたいと言う。ピーターは息子のためならと、その申し出を承諾する。

ピーターは、ニコラスのためによき父親として振る舞おうと努める。そして息子が学校に行き、友達を作り、楽しい青春を謳歌できるように勧めていく。その効果もあって、ニコラスは少しずつ明るさを取り戻しているかのように見えた…。

しかし…
ニコラスが負っている心の傷は、そう簡単に言えるものではなかった…。

ただ抱きしめてほしかった…

ピーターは、不倫の結果に妻子を捨てて、新たな家族を作った男。

しかし精神が不安定なニコラスのために、もう1度良き父親であろうと努めます。

ピーターの思う良き父親は、息子を普通の17歳にするための存在。普通に学校に行かせ、普通に友達を作らせ、普通に週末にはパーティーへ送り出してあげる。そしてたまに、父と息子の時間を作り、コミュニケーションをとることで、息子の"普通さ”を確認することでした。

でも、ピーターの思う良き父親は、ニコラスが望むものではありませんでした。

ニコラスは、友達なんか欲しくありませんでした、パーティーなんて行きたくありませんでした。ただ父親に「お前らしく生きろ」と優しく抱いてほしかった…。

そうなんです、辛い時にアドバイスなんて頼んでいないのです。ただ一言優しい言葉を掛けて、ぎゅっと抱きしめてほしいだけなのに…親でさえもそれをわかってもらえない苦しさが、作品から伝わってきました。

ヒュー・ジャックマン、
静かな演技が光る

本作の見どころは、名優たちの熱演。

ピーターを演じたのは、オーストラリアが誇る紳士ヒュー・ジャックマン

『ウルヴァリン』シリーズでのアクションや『レ・ミゼラブル』をはじめとするミュージカル俳優としての一面が色濃く、かといってその他に作品では「なんか大声で叫んでいるヤツ」って印象が強かったヒュー様。

しかし本作では、あまり声を荒げることは少なく、息子に寄り添おうとしながらも、息子を理解しきれない父親の姿を静かな演技で表わしています。

また息子ニコラス役には、ゼン・マクグラスという売り出し中の俳優が抜擢。鬱と闘い、苦しむ姿が印象的でした。

さらにさらに脇を固めるのが、ヴァネッサ・カービー、ローラ・ダーン、アンソニー・ホプキンスという芸達者な俳優陣。登場人物が少ない作品ですが、彼らの演技で締まった作品となっています。

・・・

ぶっちゃけた話をすると、映画批評サイトのRotten Tomatoesにおいての評価は、批評家・観客ともあまり振るわなかった本作。しかし私個人としては、非常に胸に来るものがあり、オススメの作品ですので、ぜひ機会があればご覧になっていただきたいと思います。


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次回の更新では、ジブリの超話題の新作『君たちはどう生きるか』を紹介させていただきます。

お楽しみに!