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Road to master 6粒目

「蔦珈琲店 後編」
マスターは気さくな人だった。なぜクロックムッシュにヤクルトをつけるか?という問いに理由を楽しく答えてくれた。(気になる方はTwitterもしくはGoogle検索で「蔦珈琲 ヤクルト」と検索してみると良い)
その話をきっかけにたくさんのここには書けない今までにお店で起きた面白い事やご自身の生き様などを話してくれた。一見かもしれない客にだ。
話の流れで『珈琲の学校に通っている』『喫茶店をオープンさせたい』という話をした。
そこからマスターの顔つきが変わった。

『君は何か大切にしている物はあるかい?』

唐突な質問だった。続けてマスターは言う。

『物か、お金か、趣味か、ポリシーか。ずっと大切にしている物があるだろう。極端に言えばカレーが好きとか寿司が好きとか』

とりあえず僕は頭に浮かんだ事を言った。
『ジョジョっていう漫画を描いてる荒木飛呂彦先生が好きでだいぶ人生かけてきました。あとBUCK-TICKってバンドのLIVEに行くのが好きです。』

マスターは頷いて口を開いた。
『捨てられるかい?これは大切な事だ。人ってのは捨てた物の大きさや数で立ち位置の格好良さが構築されていくんだ』

ずっしりとお腹にきた言葉だった。
マスターは厳しい顔を少し緩めて話を続けた。
「僕にとってこのお店は家なんだ。帰って来るところ。だからお店から出る時は行ってきます。そしてまたここに戻ってくる時は「ただいま」という。」

そしてこのお店を開いた経緯やなぜこの場所が良かったのか等を嬉々として話してくれた。

「自分の喫茶店を開く」という事はどういう事か。蔦珈琲店のマスターは初めて会った僕にしっかりと伝えてくれた。
無理だとか無謀なとか仕事を舐めるなとかそんな事ではない。「覚悟」だ。「覚悟はできるか?」マスターはそう言っているのだ。

思えば誰かに、企業に雇われてきた僕は本当の意味での「覚悟」などした事がなかったのかもしれない。「自分の店を持つ」って事は「覚悟する」って事なんだ。

そんな自分の覚悟に向き合いながら珈琲を飲んでいるとマスターは言った。

「神保町にウチで働いてた子が開業したお店があるから行ってみるといいよ。」

僕はこのマスターの「ism」を引き継いでいるであろう人が開業した喫茶店に凄く興味が湧いた。
「なんていう名前の喫茶店ですか?」

マスターは何か作業をしながらも綺麗な所作でお店の名前を教えてくれた。
『眞踏珈琲店』

ここで聞いたこの喫茶店との出会いが僕の喫茶店を開業する事、人生の覚悟を決める最大の影響を及ぼす事になる。

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