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東京医科大学の不正入試問題とは、一体何だったのか。報告書から分かること。


「おっさん社会が生きづらい」という本を読んだ。

フェミニストによる、東大の祝辞


これにフェミニストの上野千鶴子さんとの対談が載っていて、平成31年度東京大学学部入学式 祝辞を読み返したことがきっかけだった。


(このスピーチは、今読み返しても、弱者への支えがすごい。これ以降の祝辞も読んでみたが、上野さんは祝辞にのっている熱量が秀でている。)


この祝辞に、数年前に話題に上った東京医大入試での不正入試問題が言及されていたのだ。



東京医科大学の入試は、結局何が問題だったのか。


4年たった今、ふと思い出して調べた。

調べると、第三者委員会での報告書を見つけた。

第一次調査報告書:

https://www.tokyo-med.ac.jp/news/media/docs/20181023SurveyReport.pdf

第二次調査報告書:

https://www.tokyo-med.ac.jp/news/media/docs/20181229SurveyReport2nd.pdf

第三次調査報告書(最終報告書):

https://www.tokyo-med.ac.jp/news/media/docs/20181229SurveyReport2nd.pdf


個別の受験番号に加点したという不正は置いておいて、どのような加点があったかが以下。

属性調整後の点数
① 小論文点数×0.8+加算点
② ①を 5 点単位に繰り上げ
加算点
① 高等学校等コード≧51000  0 点
② 高等学校等コード<51000
男性:現役 10 点、一浪 9 点、二浪 6 点、三浪 5.5 点、それ以外 0 点
女性:0 点



高等学校等コード≧51000には、高等学校卒業程度認定試験・大学入学資格検定(51000K)、外国の学校等(52000E)、文部科学大臣の指定した者(53000A)、認定(大学において、個別の入学資格審査により高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者で、当該入試が実施される年の3月31日までに18歳に達するもの、いわゆる「飛び入学」で大学に入学した者(学校教育法第90条の第2項の規定により大学に入学した者)であって、当該者をその後に入学させる大学において、大学における教育を受けるにふさわしい学力があると認めたもの)(54000F)、在外教育施設(55000A)、専修学校の高等課程(56000
G)が該当する。出身校によっても点数が低くなり得る者がいることから、問題がある可能性があり、今後、調査を行う予定である。

第二次調査報告書
32P

男性なら3浪まで加点あり。男性の4浪以上が女性と同じ0点ということだ。

更に、男性をもっと増やしたいとの意図で、29年度から30年度に小論文の配転が大幅に増えた。


年度    第1次試験の配点   小論文の配点
29            400点                60 点  (30 点×採点委員 2 名)
30               400点              100 点 (50 点×採点委員 2 名)

第一次調査報告書 13P

その結果の、合格者の内訳が以下だ。

年度   第2次試験の合格者数    合計        男性         女性
29                 131 名               82 名(62.6%)         49 名(37.4%)
30                 171 名              141 名(82.5%)        30 名(17.5%)

第一次調査報告書 18P


平成29年から平成30年で、異常に男性の合格者が増えた。

第三者委員会でヒアリングした、そのもとになっている理由の一つが以下だ。

当委員会がヒアリングを実施した多くの者は、大学病院を適正に運営するためには、医師国家試験を合格する能力を持ち、かつ、研修医として大学病院で継続的に勤務が可能な学生を東京医大から多く輩出することが必要との考えを前提に、経験的にみて、進級や医師国家試験の通過率が低い(と考えられていた)多浪生や医局に勤務した後に結婚や出産による離職率が男性に比べて高い女性の入学者を、できる限り少なく抑える必要があるとの認識を有していた。当委員会が理事、監事、主任教授を対象に行ったアンケート調査でも、「女性が途中で出産などでいなくなると仕事がまわらなくなる」「現在の労働環境から考えれば女性医師が継続して働くことは難しい」「男性医師の数がある程度保持されることが望ましい」(いずれも原文のまま)というように属性調整に一定の理解を示す回答が複数の者からされたが、これらの回答も、大学病院を適正に運営することが法人としての大学にとって重要な命題であるという認識と通じるものとして理解することが可能
である。

第三次調査報告書(最終報告書)
17P

「離職率が男性に比べて高い女性の入学者を、できる限り少なく抑える必要があるとの認識を有していた。」

たったこれだけの文章が、結構こたえる。

私たち女性は、「できる限り少なく抑える必要がある」存在らしいのだ。

まるで、エラーか何かのような表現じゃないか。

女性の合格者を減らすにはどうしたらいいか。

地味に心をえぐられるのは、こうした土壌なのだ。

私たちは、減らされる側なのだ。

別に表立って誰が言う訳でもない。
でもなんとなく隠れている、いや隠れてもいないが暗黙の了解のような、その根本のところなのだ。

それを、男性は、なんとも思っていないだろう。
優位側だから、気づいてもいない。
そういうことが見え隠れしながら、気づかないふりをしながら過ごす私たちの心の中を。
見ないふりをして、心をなくしてマイナーな中で過ごす気持ちを。


幹部たちは、正しいことをしたと思っているかもしれない。

ただ、結果として表れているのは、明らかな差別だ。

差別に、もっともらしい理由がついているだけなのだ。

変えるべきは、本当は別の問題だ。

医療のシステムをより良くするために、全体の労働環境や負担をよくするために、医療全体の改革、不必要な手間の削減、効率化や、病院間の協力体制や、挙げればきりがないくらいだ。

それに本格的にメスを入れずに、
「女性入学者を減らせば解決する」、
「男性医師を増やせば解決する」、
と考えている男性たちが、幹部や上層部に多い、ということが露呈されたのだと思う。


私立医学部と、国公立医学部の大きな違い


一方で、明るみになったのが、国公立の医学部でなくて良かったとは思う。

何せ、学費が私立と国公立では全然違うのだ。

上記によると、

東京医科大学の6年間総費用の目安は2983万3800円

国立の医学部の6年間総費用の目安は349万6800円

明確に桁が違うのだ。
お金持ち以外では、私立の医学部は明らかに困難。

一般家庭では、国公立の医学部を受けるしか道はない。
高校生当時の私には何千万という金額は途方もなく、私立の医学部を受けることすら、考えてもみなかった。

国公立の学部で、関係者の家族に下駄が履かされたり、男性だけ加点されることは、国による明らかな差別だ。


私たちの、これから


どうしたら世の中が良くなるか、生きやすくなるか、ということをこれからも考えていこう。


私は、今より昔に生まれなくて良かった。

女性だからという理由で、教育を受けさせてもらえないということがなくて、本当に良かった。


それでは、今の子どもたちが。

「今の時代に生まれて良かった」と思えるのはどんな世の中だろう?





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