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ロンドンで片腹痛い③

【片腹痛いの意】
おかしくて見ていられない。滑稽で苦々しく感じる。
※この記事には、以前書いた引率日記を加筆訂正したものも含まれます

前回のお話

ヒースロー空港でバスに乗り込んだ私は既に満身創痍だった。
成田を経ってからの24時間…これまでの道のりが壮絶すぎる。


ロンドンてこんなに来るの大変だったかな⁈



バスのドライバーはボブという、いかにもな名前の太っちょ男性で、鼻唄を歌いながらご機嫌に運転している。

疲れ切っていた私はバスの乗車点呼も「いない人いるかーい?」という雑さだ。
見かねた添乗員さんが丁寧に点呼を取ってくれ、「先生少し寝て下さい」と言ってくれた。


窓の外をぼんやり眺めながら、約24時間の道のりを思い返し武者震いした。

それにしても奴らの元気はなんなんだ。

ギャーギャー騒ぎながら写真を撮りまくっている。
機内食を食べたろうに、いつのまにか空港で何かを買ってきたらしく食っている。

バスにポテトのような揚げ物の匂いが充満してきた…。

バスの中では飲み物だけはOKとバス会社から言われているから、食べ物はダメだよと事前に言ってある。

ヤバい…ボブに怒られる。

「すみません!すぐに片付けさせますね」と、咄嗟に言うと、笑って「いいよいいよ、お腹空いてるだろうし」って言ってくれた。

ボブは優しい。

でも一応注意しておこう。
「ねー、ちょっと!!バスの中は飲み物だけって言ったよね?誰よポテト食べてんのは⁇座席汚したらぶっとばすよ!!」


「ポテトじゃありませーん、フィッシュ&チップスでーす」

犯人はお前か、、バカめ。
黙って隠せばわからないものを…。

「はーい、没収しまーす」
「えーー、こういうのはあったかい内に食べた方が美味しいのにー」
「そういうセリフは100万年早いんじゃ!」

そんなやり取りをしているうちにバスは市街地に入る、テムズ川にかかるロンドン橋やビッグベンが見えてきた。

騒いでいた学生達がシンと静かになって、景色に見入っている

今日から1週間、君らはここで過ごすんだよ。
持ってる細胞全部使って遊び倒して欲しい。

大英博物館近くのホテルに入り、別便で来た一部の学生達とも合流。

点呼を取り、チェックインをして一旦解散となった。

気がつくと時間は18時を過ぎていて、そろそろ夜ご飯かなぁ、といったところ。

初日の夜ご飯。
初海外の学生達。

知らん!!
自由に行ってこーい!
と放り出した。

なんとかなるさ。
無茶さえしなければ、大丈夫。
必ず2人以上で行動すること。
困ったことが起きたら、電話して。
ちょっとの困ったことは、自分たちで何とかしろ。

夜の点呼は22時だから、遅れないように。


こうして、謎の東洋人集団はロンドンの街に散っていった。


さて、我々もご飯行きましょう!という事で、私を含む引率教員4人と添乗員さん4人でホテル近くのパブへ。

ロンドンと言ったらパブ!
パブと言ったらビール!

ビールがうまい!!
パブに並ぶタップの数に興奮しながら片っ端から飲む我・・。

美味しく飲み食べ、点呼の時間まで我々も各自の部屋で休憩となった。
思えば日本を出発してから24時間以上経っている、いい加減シャワー浴びたい…。

ホテルは団体旅行者用の簡素な作りだ。
シャワーヘッドが天井に固定されているタイプで、フレキシブルなシャワーがないため、お尻と足の裏を洗うのに苦戦しながらシャワーを浴びた。
(みんなどうしているんだろう・・?)

日本を出発したのが遥か昔に思える。
シャワー後、ベッドに横になり目を瞑る。

・・・・・・・・

ハッと目を覚ますと、なんと点呼の時間を大幅に過ぎていた。

やべぇ…やっちまったぜ。
先生が点呼に遅刻だなんて笑えない・・いや笑い者だ。
慌てて点呼のデスクに走った。

点呼デスクでは同僚のI先生が座っていた。

「I先生〜、スミマセン!!」
「もー遅いよー!飲み過ぎたんじゃないの~?」
「いえ、その・・急に具合が悪くなりまして、疲れかな・・ハハ・・連絡もせずにすみません。」
「え?大丈夫ですか??ちなみに学生達は無事に全員戻って来ましたよ。」
「そうですか!良かった。ありがとうございます。体調はもう良くなりました!」

咄嗟に体調不良という姑息な嘘をついてしまったが、皆無事に点呼したとの事でホッとした。
ホッとしたら、夜のロンドンを歩いてみたくなった。
時間は22時40分。

「I先生、少し外をブラブラしてきますね。」
「こんな時間に女性1人で大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。私なので。」
「はぁ・・・」
海外旅行で1番やってはいけない根拠のない自信を振りかざし、私は1人でロンドンの街出た。
(※良い子は絶対真似しちゃダメよ)

乾いた風が気持ちいい。
ヨーロッパの街の良い所の1つは明るすぎないところだ。

ブラブラ歩いていると、なにやら日本語が耳に入ってきた。

そちらに目をやると、見たことある姿だ。
道路を挟んで向かい側の歩道を浮かれて騒ぎながら歩いている、私達の可愛いクソ学生が3人。

点呼の後、ホテルを抜け出したのだろう。
私の存在には全く気付いて無さそうだ。
気づかれない様に、私も同じ側の歩道に渡った。

彼らの背後に少しずつ近づく。
そして、大きな横断歩道の信号待ちで追いついた。


「いい度胸してんじゃん」


ぼそっと背後から話しかけた。
その時の学生達の恐怖に慄く顔は今でも笑える。

急に後ろから声を掛けられ驚いたのと、先生に見つかったのでアワアワして口をパクパクさせている。

私「どこいく気?」

学生「うわ、まじか!」

私「まじか…じゃなくて、どこ行くのさ?」

学生「いや、あの、その、夜ごはんの時に知り合った女の子たちにクラブに誘われたんすよ。それでこれからそこに…」

私「ふーん、安全面は大丈夫なの?」

学生「先生これ見て下さい、俺らも危ないと嫌だからネットで口コミ調べたんですけど、日本人の旅行者も結構行く感じの安全なところらしいです。」
とスマホを差し出す。


・・・・・

私「あっそ、いってらっしゃい。何かあればすぐ電話して。じゃあね、GOOD LUCK」


ポカンとしている学生に背を向けて歩き出す。

すぐさま現地添乗員に連絡してクラブについて調べてもらうと、本当に観光客向けのエンタメ施設だとわかった。

若い頃、私も随分青山とか麻布とか六本木だとかのクラブに通った。
煩い場所が苦手なのになぜにあんなに通っていたのだろう?
今はもうあの爆音に耐えられないし、そもそも場違いだ。

彼らの若さが眩しく羨ましい。

アホでバカだけど若さだけで何とかなっていた頃を思い出し、鼻の奥がツンとする。

ロンドンの夜の空気を思いっきり吸い込む。
もう少し歩こう。

少しだけ上を向いて歩きだす。

【続く】



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