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『春琴抄』と『ハウス』

母は、三浦友和の大ファンで、
まだ小さかった私たち姉妹は、
母が見たい三浦友和出演作公開時に
映画館に連れていかれ、
その映画をいっしょに見ていた。
昭和50年代、母親がひとりで出かけるなんてことは
おそらく誰も考えなかった時代だったのだと思う。
それに、ビデオのレンタルさえ普及していなかったので
映画館で映画を見る以外に、
大好きな三浦友和に会う手段がなかったゆえ
母も好んで私たちを連れて行ったわけでもなく、
しかたなく連れていってたんだとは思う。
だから、私は、まったく訳も分からずに
三浦友和が出ている映画を見ていた。

そのなかで、特に印象に残っているのが、
『春琴抄』っていう映画。
調べてみたら、昭和51年公開なので、
私はまだ5歳だった。

記憶に残っているストーリーは、
生まれつき目の見えない山口百恵に
惚れている三浦友和が
自分も針で目をブッ刺して
目が見えなくなる、というものだ。
山口百恵が着物を着て、お琴を弾いているシーンも
よく覚えている。
でも役名とかはまったく覚えてないし、
山口百恵と三浦友和以外の出演者も覚えていない。
特になんの感想もなく、
ただ「山口百恵と三浦友和の映画」
というだけ。

けれど、同時上映だった『ハウス』という映画のことは
覚えていて、ホラーみたいな映画だったと思うけど、
水槽の金魚を南田洋子が手づかみで食べて、
食べ終わった金魚の骨を水槽に入れると、
金魚が再生してまた泳ぎだす、みたいなのが
強烈に印象に残っている。

田舎の映画館は、よくわからないマッチングの
2本立て映画がかかっていた時代だけど、
うちの母も、春琴抄だけで満足すればよいものを
なぜに同時上映の映画まで見たのか
ほんとうに不思議。
どう考えたって、子どもが喜ぶ映画じゃないだろう。
自分が見るだけならひとり分の料金ですんだのに、
子連れゆえ(しかもうちは4人姉妹)
相当の金額を払い、おそらく子どもたちを
黙らせておくために、ジュースとかお菓子類も
与えていたはずで、その額もかなりかかっただろう。
ほんとどんだけ三浦友和が見たかったんだ。

私、ホラー映画見ることはないが、
たぶんこのときのトラウマが関係してるんじゃないかと
思っている。

でも、あるときふと気になって、『ハウス』を
見てみたいと思い、ネットで調べてみたところ、
私的には、主演南田洋子だったけど、
実際は、コメットさんとか池上季実子とか
神保美喜とかのほうが主役で、
しかも監督が大林宣彦ということを知り、
すごく驚いた。
映画じたいも、ホラーが苦手じゃなかったら
今見たらどんなかんじなのか
怖いもの見たさで見たいのもあるけど、
いつか見ようくらいで、ずっと思い出の中にある
映画のままにしておくほうがいいかなとも
思う。

映画のストーリーそのものより、
母に連れられて見に行った映画、
っていうのが今の私にはエモい。
自分が母親になって思うのは、
母は、子ども4人いて、そして全く家事も子育ても
しないのに、えらそうな夫と
すぐ近くに住む姑と小姑にえらそうに言われながら
毎日ものすごく大変だったんだと思う。
母が泣いている姿も、私の幼少期の記憶にはある。

そんな母がほんのつかのま、
自分の好きな俳優さんの映画を見て
乙女に戻るのが映画館だったんだろうな、
と今ならわかる。

そんなミーハーな母の血を私もしっかりと受け継ぎ、
そして、またうちの娘もしっかりとミーハーだ。
ミーハー、今で言うところの推し活、
それは生きる活力であると改めて思う。

好きな映画はたくさんあるけれど、
映画そのものではなく、
映画にまつわる思い出、というと
『春琴抄』と『ハウス』の二本立てが
まず浮かんだ。

5歳の私には、母の思いなんて
全くわからなかったけれど
暗闇で寝るわけでもなく
2本の映画を通して見た私は、
あの頃から映画好きだったのかも。

……って読み返して思ったのが
5歳の私が、『春琴抄』なんて
難しい漢字のタイトルを覚えてたのはなぜだ?

自分も子育てして思ったのが
5歳はまだ漢字読めないし
(電車オタクだった息子は駅名とか特急名とか
 スラスラ読んでたけど、あれは日常的に音声と
 絵的なフォルムに触れていて、の記憶だったはず)
そんな日常生活にはない単語を
知っていたはずもない。
というわけで、自分なりに推測すると
おそらく、山口百恵のために
自分の目をブッ刺した三浦友和っていう
イメージが強烈に残ってて
のちのち、ご本家谷崎潤一郎の小説を読んだ際に
あ、これって百恵友和のやつ!!って
繋がったのかな?

そのへんの記憶が無いのが惜しい。

でも、『ハウス』のほうは、
カタカナだし、タイトルもちゃんと覚えてたから
よっぽどキョーレツー! やったんでしょう。
【追記】
自分の記憶のみで書いてしまったが
ちゃんと調べたら、『HOUSE』ってタイトルでした。
すいません。

いずれの映画も、あくまでも5歳の私の記憶なんで
内容とかストーリーとか違ってる可能性も大では
あるけれど、自分のトラウマとともに
若かりし母の、束の間の楽しみという 
ちょっと微笑ましくて
ちょっとせつないエピソードでした。

ちなみに、母は今でも三浦友和が好きだ。



#映画にまつわる思い出

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