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『板上に咲く- MUNAKATA: Beyond Van Gogh』

2024年3冊目の完読は『板上に咲く- MUNAKATA: Beyond Van Gogh』(原田マハ・著)。


いやー、良かった!
「わだばグォッホになるぅ」とゴッホに憧れた青年、棟方志功。青森から上京し油絵画家を目指すも独学でコネもない、材料を買うお金もない、3畳一間の間借り暮らしで雑草を食べていた駆け出しの極貧時代から版画へと転向する遍歴、民芸運動の父・柳宗悦と濵田庄司、河井寛次郎との出会い、視力との戦い、戦争そして「世界のMUNAKATA」へと開花する物語を描いた小説。視点が棟方本人ではなく妻・チヤが語り手という構成。

自らの作品を、「版画」ではなく、板の声を聞き、板の命を活かす「板画」だと宣言した棟方志功は、「黒を生かすには自分の全身にたっぷりを墨を含ませ紙の上をゴロゴロ回って体ごと生み出す他しかない」と、版木すれすれに僅かに視力が残る眼を近づけて猛烈に掘る作品はまさに「アール・ブリュット」。内から溢れ出る生々しい迫力の芸術だ。

さて、達観しつつも明るく優しい棟方志功の人柄は本書から読み取ることができる。語り手の妻・チヤがどれだけ夫・棟方を尊敬し愛し、時には母のように「ゴッホになるな、おめえさんは世界のムナカタになるべだ」と叱咤激励し相思相愛の人生を共に歩んだかがそこかしこに表現されている。棟方の熱狂的ファンであったチアがあってこそ生まれた「MUNAKATA」。

「いくつもの「もしも」の分かれ道で、私たちは最善の道を選んできた」という妻・チヤの言葉が印象的だ。「もしも棟方がチヤと出会っていなければ」、「もしも柳宗悦と出会っていなければ」、「もしも油絵にしがみついていたら」、日本で初めて存命中に海外に認められた現代アートの棟方志巧も生まれなかったと思うと、感慨深い。今では引き寄せやセレンディピティという言葉で置き換えられるかもしれないが、私たちも「もしも」の選択の連続だということにも気付かされる。選択したばかりの「もしも」は不安だらけだったり、そこまで意識がないこともあるが、今を必死に生きて選んだ道を肯定する、これしかないという二人の生き様が、状況を好転させていった原動力だったのではないか。

この本は、紙より音声のオーディブル(Amazon)が先行!朗読は、俳優・渡邊えり。東北出身の彼女が生粋のズーズー弁、東北弁で読み進められ、まるで目の前で棟方夫妻の舞台を観ているかのよう。文字がさらに声という楽器を持って小説にリズムとビートを与えた渡邊えりの朗読と相まって、前のめりで集中して聴き入った久しぶりの没入感満載の本でした。

画像は今朝、早朝の空をパシャリ。雲が龍のように見えるような・・・?
photo by Junko Sasanuki


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