2023年のベストアルバム たち(遅すぎ)

今更感。適当にいきます。良い音楽が多すぎる。とても選びきれない。

Beach Fossils「Bunny」

初っ端から1位。まごうことなき1位。元々captured tracksというレーベルに所属していて、DIIV、wild nothing、craft spells、マックデマルコ、the lemon twigsなど、USインディーの名レーベルとして名が知られている。

今作は、「ほんまに2023年?」といいたくなるような洗練されたインディーロックを見せており、ニューウェーブからドリームポップまでを見事なソングライティングでやり切ったという印象。

「Don't fade away」「Dare me」のようなリフで引っ張っていく曲が何とも心地よく、筆者が一番好きな「Tough love」なんてほぼthe smithだが、臆面もなく爽快感で突っ走っていけるのが彼らのすごいところだ。

4th「somersault」では、ストリングスを取り入れたり音数も多く荘厳な雰囲気が漂っていたが、今回は良曲を11曲作ってまとめましたという感じで、気取らないシンプルさが持ち味となっている。

SADFRANK 「gel」

2021年のベストアルバムで記事は書かなかったものの、邦楽で個人的にトップだったのは、betcoverとNOT WONKであった。
betcoverの衝撃はもちろんあったが、NOT WONK?WONKの兄弟バンド?(皆目見当違い)くらいにしか思っていなかったこのバンドに関しては完全にノーマークで、アルバム配信前の先行シングル「slow burning」を聴いてぶったまげた。

3rd「dimen」はやはり凄まじく、およそオルタナティブ・ロックの持つ広大な要素を8割方一枚にまとめ上げたという印象だった。当時のTwitterのTLでは、多くがbetcoverの話題で沸き立っていたが、個人的にはbetcover「時間」よりも、私自身の中ではNOT WONKから受ける衝撃の方が優っていた。

そして、今作はそのNOT WONKのギターボーカルがソロ名義で作り上げたアルバムである。バンドとは打って変わって静謐な内容となっており、ジャズを基調としたバンドサウンドになっている。

特筆すべきなのはボーカルであり、今年の新譜の中でも個性的な発声方法といえる。NOT WONKでも特徴的な要素ではあったが、今作ではより先鋭的、意識的なボーカルだ。スポークンワードや喉を震わせた声、低音に注力した声など、曲ごとの微妙なニュアンスに合わせて使い分けている。

NOT WONKとの音楽性のギャップに驚かされるが、聴いた瞬間から同一人物から繰り出される、音を通した熱い心情が耳に流れ、不思議と違和感はなかった。

Sampha「Lahai」

前作の「Process」は良質なR&Bといった趣でそこまでそそられなかったが、数々の大物ラッパーへの客演を経たことが力になっているのか、これまでのR&Bを刷新した力作となっている。

ヒューマンビートボックス にも通じる声色の意識的な変化や、ただ喋っているようなトーンで声量の大きい温かみのあるボーカルが全体を柔和な雰囲気に包み込み、ピアノがビートの上でバレエのトーシューズのように跳ねる。

cero 「e o」

文句なし。完璧。でおわってもいいが、3rd「obscure ride」でポストシティポップ(厳密いえばディアンジェロやATCQの要素をもった)をサチモスと共に日本に広め、音楽好きは大体聴いてるでお馴染みの彼らだが、今作は小沢健二「eclectic」のようなコーラスワークで風呂敷を広げつつ、見事なソングライティング・アレンジで先行シングルを含む11曲をまとめた傑作である。

Laurel Halo「Atlas」

坂本龍一の葬式プレイリストの最後の曲に選ばれていたのが彼女を知ったきっかけで、「すごい人なんだぁ……」という印象だったが、このアルバムを聴いて「すごい人なんだ!!!」という印象に変わった。

いわゆるアンビエントの作品なのだが、荘厳な響きの中にジャズ的音像が混じり合い、何重にもなった弦楽器の泣きのメロディの集合体が全編を覆っている。

他のアンビエント作品と違った点は、すべての音色が聴いた途端に彼女によって自覚的に作り出されているのが感覚的にわかるところだ。このようなジャンルではある種の無作為が強みになる部分があると思うが、全体的に作為性に満ち満ちていると感じられる。雪崩のように体に接触していく音の粒の中に、確かな意志を持った音の針が混じっている。

JJJ 「MAKTUB」

Fla$hbacksの元メンバー、トラックメイカーとしても活躍をみせるJJJの新譜。

今作は主に彼自身のメンタルヘルスに関した内容という印象。全体的に静かだが、実直で堅実。リスナーへ語りかけるのと同時に自分へのメッセージでもあるようなリリックが胸に響く。韓国のシンガーが客演した「july」やOMSBとの「心」が印象的。

Unknown Mortal Orchestra「V」

ニュージーランド出身、米国で活躍するサイケロックバンド、アンノウンモータルオーケストラの5枚目。MGMTやtame impalaが近年のサイケロックシーンの地盤を作っていると思われるが、アンノウンモータルオーケストラに関しては、それらとは別な道を辿っている気がする。

音の作り方がよりローファイで緻密だ。今作では、ウェストコーストのAOR、ヨットロック、ウィアード・ポップ、パパ・ハオレ・ミュージックのようなハワイの音楽、といった様々な音楽をインスパイア元としている。ギターやシンセサイザーで表現されがちなサイケロック像に混じった、サックスや乾いたドラムの音による落ち着いたテイストが作品を色彩豊かなものに仕上げている。

odol「DISTANCES」

このバンドに関しては、2018年作「往来するもの」に収録されている「憧れ」という曲を定期的に聴いていて、それ以外の曲はあまり自分の真には迫ってこないという印象だった。cmソングを多く手がけているので、広告代理店お墨付きバンドと心の中で揶揄していたのだが、メンバー編成が3人になり、よりソリッドな音像を意識したと思われる2曲目「幸せ?」を聴いて認識が変化した。

YMOとサカナクションのその先を見せてくれたという印象で、都会的な音像に東洋的なモチーフが上手く組み合わされ、疾走感が焦燥感を、淡白な作詞とボーカルが悲哀を、連れ立って私の聴覚を刺激する。全体的にドラムのフレーズが面白く、他の楽器のいわゆる「遊び」の部分を上手く下支えしている。

いつぞやの、ばらの花×ネイティブダンサー(くるり×サカナクション)のマッシュアップの際、男性ボーカルを担当したのがこのバンドのミソベリョウ(vo.gt)なのだが、やはりこの声質が楽曲の活力剤となり、低体温かつ都会的な雰囲気を作り出し、ジャケット写真のような霧深い山奥の風景まで接続した、村上春樹「ノルウェイの森」的なイメージをも想起させる。


maya ongaku 「Approach to Anima」

アムステルダムのレーベルと日本、2つの場所からこのアルバムを発表し、1stアルバムから世界デビューとなったmaya ongaku。江ノ島の海辺の集落で生まれた3人から結成された。

アムステルダムのレーベルというのは、幾何学模様の元メンバーが主催する、アジアの音楽シーンを世界へ発信することを目的としたレーベルで、日本の配信元はD.A.N.の音楽を発売した、Bayon Productionである。両者どちらかのファンならば自ずと気にいるだろう。 

 非生物と生物、霊界と人間界等々、あらゆるもののあわいを行きつ戻りつしながら、大地を感じながら浮遊する。フィールドレコーディングによる環境音源をバックに、ドラムレスの演奏が聴く人の心を安息の地へと誘ってくれる1枚。


Moses Yoofee Trio 「OCEAN」

ジャズは好きなやつが多すぎる。アルファミスト、江崎文武、meshell ndegeocello、kassa overall、yussef dayesなど。今年だけでも広大すぎる。

もうシンプルに演奏が上手い、真に迫る、刺さるものを選んだ。ベルリン発、ジャズトリオのデビューEP。全体で22分と短いものの、卓越した即興演奏で作られた堅固なグルーヴは唯一無二で、特に4曲目「minor issues」は緊張と緩和を最大限利用したドラムのフレージングがナンバーとなっている。日本のバンドで例えるなら、ペトロールズのような楽器同士のアンサンブルの妙があり、聴きごたえがある。

身もふたもない話だが、最初に挙げた去年のジャズ新譜よりも彼らを優先させたのは、22分という短さが大きい。こう言うと、タイパやファスト化を連想させてしまうかもしれないが、実際音楽を聴取する際の基準には、時間は大いに影響している。

今回の作品よりも卓越したものはいくつもあるが、仮に70分の作品の場合、それに見合ったコンセプト、流れ、ソングライティング、ミキシング等々がより求められ(自然と聴くハードルも上がる)、集中力と共に効用が逓減していく場合が多い。私個人の基準としては、タイトな時間ながらもテクニック、フロー、グルーヴが充満していたこの作品に対する満足度が高かったわけだ。


以上。駄文ですが、音楽は上質そのものです。お読みいただきありがとうございました。




入りきらなかった、2023年の新譜は全てここに……

余談

betcover「馬」は好きなのが分かりきってるのでいいや。momは書くとなると、記事一個丸々かなと。他の新譜はもうめんどくさい。新譜全部ウザい!あとベストアルバム言うとるのに、EPいれてもうてるわ。もう言うことねえわ。やっぱこいつ強い。(なんで?)



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