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ゴッホの青い手紙 37

 ゴーギャンという画家は実に才能豊かな画家だ。それは君も当然認めるだろう。ただ私が思うに、まだ持てる才能のほんの一部しか花開いていない。彼は今のままじゃ、花開かすに枯れてしまうのではないか心配だ。黄色の家で夜遅くまで話したさ。いろいろなことを語り合った。彼はどうも我々の感覚と違う。本人も気が付いていない。
 私がこの家におびき寄せたのも実は画家の共同体なんて関係ない。そんなもの最初からうまくいくわけがないのは百も承知さ。あれだけの幅広く世界を回った経験、そしてまた経済の裏側を熟知している人間はいないんじゃないかね。 我々がベルギーやイギリス、パリを知っているのとはわけが違う。 そして、僕がグーピルで働いて資本主義を知っているとかいうのとはわけが違う。そんなべらぼうな経験を持った人間が運命の悪戯か画家を志したわけだ。うまくいくわけがない。温厚なピサロだって付き合えないような人物が僕とうまくいくはずないじゃないか。僕だってそんなことは分かっているよ。悪く言えば彼はとことんずる賢い計算高い人間だ。それは別に悪いことではない。
 これからの人生は、ある意味変な言い方だが一種の悔い改めの人生といってもいいだろう。だが、なかなか改まるものではないのだよ。彼を文字通り大海原に立ち向かわせるには僕の耳くらいなら安いものだ。僕が追い出したと言っても良いかもしれない。あのくらいしないと、いろいろ文句を言う割には小賢しく居ついてしまう可能性があるからな。
焼却頼む。


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