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「アバランチ#3」強弱は表裏一体。

 今週は屈指のしんどい回でしたね!
 このしんどさに作り手の矜持を見る。思い知らされる回でした。

 芸能でやっていきたいというキラキラした欲が逆位相の負感情で支配されるとき、いとも簡単に人間は壊れる。志半ばで権力に殺された前回の話もいかにも無念でしたが、志を粉々に壊されて自死を選ぶ今回もなかなかのしんどさでした。どっちの地獄を選ぶかでしかない、そうした「弱者」を見つめる作り手の姿勢が好きです。「アバランチ」の真髄はここにあるんだな。

 リナがひとり、元レンジャーという異色の経歴からアバランチに与している、実働部隊では唯一の女性であるという構造から今回の経緯は予測されたものでもありましたが、怒りに任せて殴る、殺すぎりぎりで踏みとどまる(にしても暴力は暴力である)という落とし所は非常に重く価値のある描写だったのでは。
 夢のために何でもやるというのは、人権を擲つことと同義ではない。それは当たり前のことなのに、なにかを正当化する段に於いて極端に度外視される。何にでも言えることだと思います。
 だれでも簡単に社会から転がり落ちてアウトサイダーになる世の中、中枢の危うさと末端の消耗、その両端を描くとともに「中枢から末端に転がり落ちた」者たちの姿をさまざまな事象から描くのがこのドラマの狙いなのかなあ。弱者虐めは普遍的なものではなく、中枢にうまく与せなかったものから排され転がり落ちていく、迎合できなかったひとつひとつの価値観が切られ貶められる、そういうことなのではないか。故に強いものも決して普遍ではなく、護身のために全力で弱いものを潰す。副官房長官を序盤から配置し、物語に大きく関与させたのはそうした強者の脆弱さを描く狙いもあるのかなと思ったりします。勧善懲悪と思っていたし1話2話はその向きも強かったけど、3話流れ変わったな〜と思いました。描いてる軸はぶれないんだけど、だんだん体制側も余裕なくして本当に潰そうとしてるなと。
 リナは今回、搾取され滅ぼされた友人の仇をうつべく潜入捜査的な役回りを買って出るのですが、性的に搾取される側でありながら偶然力を持っていたがゆえに最終的には暴力で敵を屈服させる圧倒的な強者として描写され、血走った目で男を半殺しにする狂気を見せるわけで、ここに構造的な遷移と強弱の表裏一体ぶりを見てとれます。結構、アバランチのメンバーの中でもこの「私怨」の発露が異なっていて面白い。山守さんは冷静に努めながら組織と元上司を根底的に裏切ってしたいようにしてるし(この人の行動目的もまだ見えにくい)、羽生さんは同僚4人死んでるけど行動理念は「復讐だけ」とも考えにくい何某かの黒さが垣間見える。もっと広範で普遍的な正義全体への渇望と怒りを感じるというか。これで打本さんが実はべつに大した恨みもないけどなんか虫が好かないから一矢報いてやろうと思ったくらいの軽い感じで来ててもそれはそれで驚かない笑。

 一方で元々の人間性の豊かさ、やさしさ、包容力を一度のハグで感じさせる深さもあって、羽生誠一なんなんマジ…と思います。藤井ユニバースの綾野さんは包容力の塊。むしろ藤井監督の綾野解釈が肌に合う。「そういうところまでもういってる人」がうまい。藤井ユニバースの綾野さんが個人的には最高に大好きです(突然の告白)。
 トラウマをまったく吹っ切れずに暴力に訴えて抜け殻同然のリナを受け止める器の大きさ、良かったなあ。あそこは出迎えるときに流れとして、仲間として大人として絶対にハグしてほしいと思ったからハグして当然だったけど、ほんとにハグしたときにびっくりして変な声が出た。自分の情緒がよくわからない。創作者目線と読者(視聴者)目線と綾野ファン目線が入り乱れて忙しい。

 情報を掴んで核心に迫るたび、核心もまた敵の姿を見つける様は、名前を互いに握って服従させようとする悪魔と悪魔祓いの関係のようで個人的には大変好みです。正義は人の数だけあり、お互いの正義はぶつかり合うためにあるのですよ(地獄を見たい顔)。来週も楽しみにしています。

 そういえば藤井監督が書いた5話は怒られないか心配って言ってたからめーーーっちゃ地獄が見れるんじゃねえかなとワクワクしています。さすが俺たちの道人痺れる憧れる。どんどんやってほしい。もはや藤井監督のファンです。はやくお金払わせてください(円盤に課金させてほしい)。

 今回も様子がおかしいがまたよろしくどうぞ。では。

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