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「アバランチ」人為で制御できるものばかりではないゆえ、雪崩。

 アバランチが終わってしまった。
 開幕前から並々ならぬ熱量でもってその展開を楽しみにしており、開始4話までは毎回感想を書く始末だった。今見返してもちょっと怖い。さらに月曜は基本的に定休ということもあり、ドラマをリアタイできる唯一と言っていい日であるため1話と9話を除いて毎回リアタイしていた。発狂模様はTwitterのアカウントから遡れますのでご覧ください。渡部篤郎さんに毎回発狂している私が見られます。

 さて今回このドラマが自分にとって特別な意味を持っていたのは、他ならぬ私が今年の2月に「ヤクザと家族」を見たこと、そしてそれによってこの1年の過ごし方が否応なしに決まってしまったことと無関係ではありません。
 それまで綾野剛という人は私にとって他者であり、何作か出演作を見たに過ぎない、同じ世界・同じ国に生きるだけの決して交わらない存在だったのですが、くだんの映画を通して「この人の仕事ぶりを見て考えたい」と強く思ったことが、この1年を乗り切る力というか動機づけというか、とにかくものすごく良い方向に作用してくれたような気がしています。私の人生を語るに2021年はまさに「綾野剛を知った年」として深く刻まれることになるでしょう。推しは推しなんだけど、推し以上の存在感を持つ方。この人が生きているだけで世界がすこし豊かになる。そういう力を持つ人だと思います。
 色々作品を履修しながらしかし、そうした綾野さんの魅力と己の嗜好を合致させていくと、藤井道人という稀代の監督が見た世界、見出した世界が持つ普遍性、悲劇性、そこから濾し取って汲み取れる希望といったものがとりわけ自分の感性を揺さぶり続けるのだ…ということにもまた気付き、個人的には「藤井道人の綾野剛でなければいけなかった」ことを甚く痛感するこの1年でもありました。言うなれば特上の牛肉はそれだけでまごうとなき価値があるのだが、質の良い肉を最高の状態に焼いて出す料理人の技量にもまた価値があり、最高が最高を引き出すという相乗効果が生み出す感動は何ものにも代え難い。
 私にとっては、あくまでも「私は」という話ですが、その化学反応があって今に至っている。2021年は頭から最高の入り方をしたので、2021年の最後も藤井綾野コンビで終われるのがこの上なく幸せだと思いました。そうそうあるもんじゃないのよ。でもその「そうそうあるもんじゃない」を一番いいテンションでやってくれる瞬間を、同じ時代で見られることが幸せで堪りません。感謝。

 というわけでようやく本題に入るわけですが、いや〜〜〜〜もうやりますね、やりやがった! というのが本当に強い。
 まずシリーズ通してキャラクターが1人ずつ、生きるにせよ死ぬにせよ血の通った描写でとても良かったです。今までに数多の代表作を抱えたベテランたちも勿論のことながら、若手だったり普段地上波で見ない人だったりも非常に良い輝きを発していた。全体通して印象に残ったのはやはり磯村勇斗(大好きなので…)、国生さゆり(いやな輝き方の笑顔が最高だった)、北香那(理想のヒロインだった)、仁村紗和(絶対最終回もいてくれると思った)、田島亮(インタビュー記事読んだ。めっちゃよかった)。あとウチさんの娘として出てくる黒川智花さん。どことなく面影を残しているような気配があって唸ったよね。
 内調の桐嶋さんこと山中崇さんは見返してみると随所随所でいい動きをしている…人を指示して使う側の大山は桐嶋のような「駒」に反旗を翻されるとかなり手詰まりになるので、実は序盤からずっとアバランチが「有利」で、それが第二章の転回から「不利」へと転ぶ、という凋落を山中さんの動きから説明する展開が見事でした。まだ全話を通しで見てないんですが(この記事を書いている今は最終回放映からまだ12時間しか経ってない!)桐嶋目線で見るアバランチに想いを寄せるとそれだけでスピンオフが完成しそうです。山守さんに向ける同胞意識も堪らなかった。励ましあい協力し合える表のメンバーと違って、連絡も制限され日々の業務もこなしながら黙々とタスクを進めた桐嶋の働きぶりに賞賛を送りたい。よかったです。

 羽生という男はともすれば存在が反則級なんですよね。元から腕っ節が強いのか(まあ公安だからいざって時に自分ひとりでなんとかする技量くらいはあるのだろうが…)、武闘派だしムードメーカーだし、何より頭のキレるキャラクターとして判断力に優れた主人公であることが度々描写されていて、ここが最もストレスなく見られた要因かなと思いました。そんな反則級の男が全力で死に物狂いで何かを成し遂げようとするアツさよ。その時点でフィクションとしては大正解なんだよな。
 警察組織を母体としている特性上か、ユニットの構成として山守さんはいわば課長、警部ポスト、全体の指揮をとり、羽生が係長、警部補ポスト、プレイングマネージャーであることが求められるわけですが、そこに齟齬がなく誤解もなく、藤田という存在を媒介にして一本の軸をぶらさずに動いている無駄のなさがスタイリッシュで良かったです。
 アバランチの「復讐劇」は婚約者を殺された女の、同僚を殺された男の私怨で動いていると見せかけて、実はもっと大局的なところに価値判断の基準があって、「実は生きていた」藤田が終盤で羽生や山守を大いに動揺させはするものの、その予想外に対して羽生や山守が「どう動くか」という現場感、リアルタイムの予想外に対処する冷静さ、それこそ戦争映画の描写のような残酷さに富んでいて好きでした。私は大好きなんですが、日本の民放だと理解されるのが難しいのかもしれない……と思いました。感情の機微に筋書きのクライマックスを据える価値観だと、藤田が生きていた時点で「復讐」の理念がひとつ瓦解するわけなので。しかし羽生も山守も見ていたのはそこではないし、そこだけでもない。藤田は逆に、生き残った自分が生かしてやれた羽生を殺すことができない。何度も撃てたのに、撃てない。肩すら急所を外して、二度と対峙したくないとまで言い残して去る。どれだけ羽生のことが好きで山守のことが大事だったかがわかる名シーンでした。藤田が葛藤しなかったわけがないんだよな……病床で目を覚まして大山に絶望を叩き込まれる藤田の目が最高でした。オフショットがなければ私の絶望はもっと後を引いたと思います駿河さんありがとう。
 これはTwitterでも実況しながら書いたんですが、首相の前に出た羽生が藤田と対峙して、藤田に撃てよとばかりに手を広げて微笑んで後光が差すところ、藤田が生きてたと知って目を潤ませた前回の羽生と相俟って、ホントにめちゃくちゃ藤田のことを大事にしてたんだな…こいつになら殺されてもいいって顔してるわ…もう細野を抱きしめたときの山本やん……とあの瞬間(わたしが)いろいろ覚悟しました。そこで久米が撃ってくれて本当に良かったです。藤田は多分あそこで撃てないと思うので。撃っても撃たなくても藤田は苦しむので、狙撃手を配備してた演出の勝ちです笑。

 とりあえずのラスボス大山パートはここで終わりなんだけど、正義を信じてみる戦いは当然終わりがなくて、終わらないからこそ生き残った意味があるものだろうと思うので、何もかもが明示されないこの余韻に光があって大変良いなと思いました。これから羽生と山守たちの人生が交錯するかもしれないし、あかりとまた言葉を交わすかもしれないし、藤田とニアミスするかもしれない。加瀬さんと新生アバランチを結成するかもしれないし、PSYCHO-PASSシリーズよろしく東南アジアあたりに逃げてる頃にやり手の外務省職員が直々にスカウトしにくるかもしれません。羽生の未来は無限の可能性がある。どうあってもきっと、闇の中でも一条の希望を見失わずに生きてくれるのではないかと確信しています。
 自分のでもいいし、他の誰かのでもいい、「希望」が見える瞬間が人生はいちばん美しい。そういう描き方をしてくれるフィクションが好きですし、だからこそ私はこの作品が好きです。

 足掛け3ヶ月かけて映画を見ている気分でとても最高でした。あと、劇伴とその使い方がすごくよかった。個人的に「音がずっと鳴ってる」ドラマに違和感があって、ここぞという時に必要な音だけ鳴らしてほしいと思っているので、そういう意味で役者が喋ってる時にゴチャゴチャ音が鳴らないのは映画畑の巧みさを感じました。アバランチのサントラも聴いてるんですが、メインテーマがまずメチャ好きで、それ以外の音は効果音的だったり単音構成だったりでメロがほぼない。こういうところが洋画的なのかなと思ったりします。あるんだけどなくても成り立つ。上手い役者ばかりだから音で雰囲気を過剰に演出しなくても成り立つ。そういう気概を感じました。
 その一方で主題歌に載せる感情がクソ重なのも最高だったな〜!!! Avalanche はずっと聴いてる。ENは配信待ちですが、どういう意味で「EN」なんだろう。ドイツ語クラスタなので「不定形の動詞の語尾かな…」とか思ってる。動詞化するときにも使う。複数形の語尾でもある。そこでマッキーの最後の「1°行動を変える」みたいな発言が効いてくる気がする。「動き出す」ことの示唆。UVERworldというバンドの名前がüberから由来するみたいに。UVERもボーカルの力に委ねて敢えてオケを鳴らさないみたいなイントロをよく作るよね。それに近い引き算の音を作品そのものからも感じました。

 今季のドラマは「最愛」と「アバランチ」が個人的には二大巨頭で、好きだったのは「二月の勝者」でしたが、とりあえずアバランチは今の興奮のまま記事にした方がいいな…と思ったので勢いで記事にしました。
 最愛と二月の勝者のこともまた書きます。「大局を見据えた人間たちの希望を描いた」アバランチと、「個々の感情の極致を丁寧に描出した」最愛、そして「子どもの在り方を肯定する大人たちに愛があった」二月の勝者、秋クールはいずれの作品も大変素晴らしかったです。

 あと最終回放映直前の福士蒼汰氏のインスタライブに突然現れてアバランチの番宣をしていく山田裕貴氏があまりに最高すぎたので最高でしたと記載しておきます。山田裕貴氏の「海王星」も最高だったという記事を書いているのでこちらも併せてご覧ください。

 次は「最愛」の感想かな〜。またよろしくどうぞ。では!

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