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エンタメ最速伝説エリ ACT.プロローグ「宇喜多依里」

 2030年……ドライバーが自ら運転するガソリン・ディーゼル・ハイブリッドの自動車が生産終了し、道路を走る乗り物ほとんどが自動運転の電気自動車となった。

 人々の記憶から過去のクルマが消えようとしていた。

 しかしある容(かたち)で残ることとなる。
 それは2030年以前のクルマを模したレプリカのキットカー、レプリキットというクルマだ。
 2075年になった現在、それを使ったレースが人気を集めていた。

 
 中でも、参加者が全員芸能人というレース、エンターテイナー・レーシング・エクストリーム、縮めてEREが人気を集めた。

 これはその大会に参加する者たちの物語である。

 2075年4月8日。
 リニア新幹線に乗っていた私は岡山駅へ降りた。

 かつては東京で暮らし、音楽活動をしていた。
 しかし、曲が売れなかった影響でレコード会社から解約された。
 ここ岡山は私の故郷(ふるさと)だから、帰ってきた。

 
 両親にどんな顔をすればいいのだろうか?

 そこに降りると、駅中からある広告が流れてくる。

 4人の少女と1人の少年、そして5台のクルマが写っていた。

「芸能人とレプリキットの祭典、エンターテイナー・レーシング・エクストリーム、E.R.E! 絶賛開催中! 私たちINFINITE SPEEDの応援もよろしくね!」

 私と関係のないことだと考えていた。
 しかし、この大会とは後に大きく関わるとは、今の自分は知らなかった。

 あたしはかつてゴーカートをやっていた。
 そして将来、プロのレーシングドライバーを目指していた。
 しかし夢を諦めた。

 理由は色々ありすぎて、言えない。
 聞きたかったら話すけどね。

 明石あきら、高校1年生。
 ゴーカートに打ち込みすぎて、それを辞めたら夢を失った人。

 4月7日の日曜日の10時。
 あたしは商店街で音楽を聞いていた。
 アーティスト名は宇喜多依里だ。

「あーきーらー!」

 そこにあたしより年上の少女が来る。
 白いカチューシャをした長い茶髪に、クリーム色のカーディアンを羽織った黒のセーラー服に黒のタイツを履いている。

 彼女は坂崎奈々(さかざき・なな)、かつてフィンランドに住んでいたけど、4年前に親の仕事の都合で日本の岡山に引っ越してきた。
 ここに来てから、あたしが初めての親友になった。

「おまたせ、誰の曲を聞いているの?」

「いつものやつ、ウキタエリだよ」

「へぇ、知る人ぞ知る歌手が好きだなァ。最近曲出していないね、飽きないの?」

「飽きないよ、あたしこの曲好きだから」

「この人にファンレター送ってたもんね」 

「さて、今日は買い物とカラオケと……」

「ラーメンとサーキット走行だね!!」

 岡山国際サーキット。
 かつてはTIサーキット英田という名称だったものの、71年前に現在の名称となる。

 ここの駐車場にあたしたちは1台のクルマを停めた。
 それは自動運転でも電気自動車でもない、約80年前、おじいちゃんやおばあちゃんらが生まれた頃に作られたクルマを模した、レプリキットだ。

 25年前に停電対策に開発され、燃料はバイオ燃料を使用している。

 
 そのレプリキットの車種は、スーパーカーを彷彿させるアイローネゲートとリトラクタブルヘッドライトが特徴的な、黄色のトヨタ・MR2、SW20型と呼ばれる2代目モデルだ。

 クルマの所有者は奈々であり、あたしも走るために借りることもある。
 ゴーカートはやめたけど、それでも走りへの情熱は辞められない
 代表とか、賞とか、未練がないわけではない。

 走り終えてクラブハウスの方に目を向けると、見覚えのある姿をした少女がギターを引いていた。

「誰かがいる? もしかして……」

 容姿は三つ編みに纏め、右目が隠れた銀色の長い髪、体型はあたしより少し大きく、美作城南高校の制服に使われている黒のセーラー服に同色のタイツを履いていた。
 
 
 そう彼女は。

「ウ、ウキタエリ!?」

 ご本人様が登場した。
 漢字で書くと「宇喜多依里」だ。
 岡山出身だと聞いていたけど、まさかここで会えるとは。

「こんにちは」

「こ、こ、こんにちはー!」

 本当に本人なのか聞いてみる。

「歌手の宇喜多依里様でいらっしゃいますよね?」

「はい、宇喜多依里です」

 本物だった。

「一度ファンレターを出し、お返事いただきましたから」

「明石あきらちゃんだよね? どうもありがとう。売れないのにファンレター貰うの初めてだったから」

「あ、あたしが初めてですか。一番乗りは貰っちゃいましたが、好きな子を独占した気分です」
 

 本人の前にあたしのわがままを言う。

「一曲聞かせてください」

「分かったよ。デビューシングル歌うよ」

 宇喜多さんの曲を聞く。
 

「聞いてくれてありがとう」

 さらにわがままは続く。

「あの、連絡先を教えていただけませんか?」

「いいよ」

 
 宇喜多さんはそれを書かれた紙を渡してくれた。

「ありがとうございます」

「実は私ね……」

 
 彼女は深刻そうな顔をしだして、語ろうとするも。

「あーきーらー! 帰るよ!」

 奈々に呼ばれた。

「すみません、もう帰りますから」

「じゃあ機会があれば、また会おうね」

 奈々に呼ばれて、SW20の元へ戻って助手席に座った。

 夜10時、奈々の家。
 

 私は彼女に今日のことを自慢した。

「宇喜多さんに会えたと同時に連絡先まで聞けた! 友達が1人増えた気分!」

「良かったねぇ」

「これからもファンの1人として付き合うから!」

「その歌手って売れてないでしょ? 調べたけど彼女の曲を買ったのは、あきらを含めたら50人に満たないらしいよ」

「そんなことは関係ないから!」

「今はあきらの独占状態かな」

「けど、いつかはヒット歌手になって欲しい」

「奈々もどう?」
 
 
 奈々に宇喜多さんの曲はどうかって聞いてみることにした。

「あたしはパスだね。宇喜多さんとあきらの関係を邪魔したくないからね」

「けど、ライブには来てね」

「わかった」

 部屋には11体もある等身大の人間らしき物体が充電されていた。
 髪は全員銀髪で、10代から20代の男女の見た目をしていた。
 奈々はそれらに声をかけた。

「今日はあきらがたくさん走ったからメンテナンスをお願いね」

「了解しました」

 11人の物体が動きだす。
 彼らはメカニックロボットと言い、高度な知識と技術力を持っている。

 2075年現在、あなたちの世界より少子化が進行しているため、一部の仕事は人間の姿をしたロボットが担当するようになっている。
 メカニックもその1つだ。

 前に紹介したレプリキットも彼らによって作られると同時に、メンテナンスされている。

 11人が戻ってきて、状態を報告される。
 

「異常ありません」

「ありがとう、じゃあ休んで」

 メカニックロボットたちは元の充電ケースに戻り、眠りにつく。
 彼らは動くと電気を消費するため、充電することで体力を回復していく。

「皆さん、今日もお疲れさま」

 
 あたしも彼らに声をかける。

 奈々のメカニックロボットは彼女がフィンランドにいた頃からの知り合いだ。
 SW20のレプリキットは彼らが作り上げた。
 

 そのクルマの所有者は彼らの存在が欠かせない。

 そして翌日、4月9日の月曜日。
 高校は始まったけど、始業式だから午前中で終わった。
 今日も午後から奈々のSW20に借り、岡山国際サーキットのクラブハウスに出向いた。

 そこに宇喜多さんがいた。

「また会えたね、あきらちゃん」

 彼女は、友好の印にこんな提案をする。

「私のことは宇喜多さんでいいよ」

「そ、そうですか!?」

「敬語はいいよ、あきらちゃんって呼ぼうかな?」

「宇喜多さんって何歳ですか? あたしは今年で16歳です」

「私は17歳。私の方が年上だけど、あまり離れていないからね。依里ちゃんって呼んで欲しいな」

「あきらちゃんではなく、呼び捨てでもOKです」

「あきらちゃん、あきちゃん、あきちゃんでいい?」

「構いません。こっちは依里先輩って呼ばせてもらいます」

「依里先輩、歌っちゃうよ」

「はい!」

 こうして宇喜多さん、いや依里先輩と本当の友達になれた。

 さらに翌日、私こと宇喜多依里は美作城南高校に通った。
 しばらくは東京にいたので岡山の学校に通うのは久しぶりだ。
 昔の友達は元気にしているのかな?

 幼い頃、私は引っ込み思案な子だったが、そんな私のために両親が人気歌手のライブに連れていってくれた。
 そんな性格が治ると、歌うが好きになり、将来歌手になりたいという夢を持つようになった。

 その後は歌の大会で賞を荒らしまくった。

 14歳の時、引越し会社主催のイベントで優勝すると、その記念にレコード会社からスカウトされて上京した。
 しかし、音楽は売れず、買ってくれた人は活動期間3年で50人にも満たないほどだ。

 
 ほとんど買ってくれなかった

 挙げ句にクビなり、そして生まれ故郷へ戻った。

 けど、今でも夢を捨てられない。
 歌が好きだから。

 学校が終わると、自動運転のバスで岡山国際サーキット前のクラブハウスへ向かう。
 

 そこに私の歌が大好きな子が待っている。

 黒い長髪を2つに纏め、ねずみ色のセーラー服に髪と同じ色のタイツを履いている。
 名前は明石あきらちゃん、私はこの子をあきちゃんと呼んでいる。

「1曲聞いてみたいです」

「ありがとう、嬉しいな」

 あきちゃんに1曲聞かせた。
 歌い終えると、彼女は拍手をした。

 私がなぜここにいるのか話す。

「実は私ね……レコード会社クビになっちゃったの。曲が売れなかったから、東京からここ岡山に帰ってきたの」

「そ、そうですか!?」

 あきちゃんは悔しそうな表情をする。

「でも夢は捨ててないよ。将来、親を楽させてみたいから」

「復帰を願っています」

 ファンのために復帰をしたいところだが、私の実力だけでは無理だろう。

 家に帰ると同時に、1通のメールが届く。
 私が所属したクイーンレコードのスタッフを務める女性、細川さんだ。

「解雇の件はごめんね。売れなかったのは私の力不足もあるけど。依里ちゃん、エンターテイナー・レーシング・エクストリーム、略してE.R.Eに興味ある? もし良ければ参加してみない? そのレースに使われるレプリキットは親の合意があれば18歳未満でも取れるよ」

 E.R.Eとは、芸能人がレプリキットと呼ばれる2030年以前の車両を模したクルマでレースする大会だ。
 参加者は音楽グループ、お笑いユニット、劇団まで幅広い。
 好成績を残せば、ブレイクできる可能性もある。

 私には運転の才能なんてあるのだろうか?

 翌日、4月11日の水曜日。
 16時30分、学校が終わると岡山国際サーキットのクラブハウスへ出向いた。

 あきちゃんもここに来ていた
 私は彼女にある相談をする。

「あきちゃん、相談があるんだけど……」

「何ですか?」

 スマホのメール履歴を開き、昨日のあれを見せる。

「E.R.E? 参加した方がいいです」

「へぇ!? 私レプリキットの免許を持っていないし、クルマの運転の経験はないよ!?」

 この話の続きは次回にしよう。

 彼女と共に大きな出来事と出会いが待ち受けていた。

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