見出し画像

鉄のカーテンの内側から 2

2、ロシアと日本のビザ取得難易度の不均衡について

時々、書きたい時に書きたい事を「鉄のカーテン」の内側から発信して行くシリーズ、本日は2本目。100本目指して頑張ります。シリーズ第2回ということですが、その前に「鉄のカーテン」という言葉を知らない方もいたので、それはこういう事ですよというのをWikiのアドレスを貼っておきます。https://ja.wikipedia.org/wiki/鉄のカーテン  

現在、ロシアはウクライナに侵攻中であり、これは刻一刻と状況が変わるので、本日の記事は3月30日水曜日,日本時間で朝11時現在の記事、です。

今回は「鉄のカーテン」の内側と外側を繋ぐ「ビザ」の件についてです。3月28日にロシアのラブロフ外相が『「非友好国」ビザ制限へ ロシア 大統領令を準備』という発表をしました。
https://www.fnn.jp/articles/-/338864

ロシアのこういう発表アルアルで、最初にドカンとぶち上げてから発表の中身や詳細が決まり、具体的な事が後程関係省庁から発表になるというパターンで、現在の処、日本からロシアの入国に関してどのような新たな制限が出てくるかは未定です。そういう日本も岸田首相が「ロシア人の入国に関し、ビザの制限をする」という制裁を初期の段階でいきなりぶちかまし、その具体的な部分がハッキリせず、日本関係のロシア人界隈や日本在住のロシア人界隈でかなりざわつきました。「ロシア人は制裁によってもう日本に来れなくなるのか、俺たちは一回帰国したら日本に戻ってこれないのか」とロシア人からの質問が私のところにもいくつか来ました。私に聞かれても困る話なのですが、こういう問題は生活の存在を脅かす問題なので、どうなってるのか誰かに聞きたい、という心理が働くのは何人であろうと同じです。在ロシア日本大使館領事部に問い合わせたところ、今回のウクライナとの問題に関わる政治家や関係者に関してはビザの発給を行えないが、一般的な人々に関しては今まで通りの段取りで判断していく、という回答でした。それを日本界隈のロシア人に伝えたところ、皆一様に安心した様子でした。まあ、そうは言っても、コロナ禍以降、ロシア人には中々ビザが出難い状況でしたから、その辺りは「普通」といっても厳しい状況であることは変わりありませんが、、、。

皆さん、ご存知の通り、やったらやり返す、というロシアの外交ですから、この岸田首相の制裁に関してどのようにロシアが対応するかと興味がありましたが、意外にゆっくりと間を置いてから「非友好国」という括りで制裁返しをしてきたなと思いました。ビザに関してのロシアの大統領令の詳細が現時点で出てないので、まだなんとも言えず、今は冷静に詳細を待つしかありません。しかし、全面入国禁止以外ならば、何とかなるのではないか、、、、とも感じています。なぜならば、普段からロシアは入国に関してビザは必要なものの、意外に条件は緩かったり、グレーが通用していた国だからです。そのグレーの部分が黒になったとしても、日本とのビザ発給のバランスからすれば、まだ平等ではないというのも事実なのです。そういうのも含めて、

大統領令の詳細発表前に日露間のビザ事情の予備知識、

として、これまでの日本とロシアのビザの発給具合に関して少し説明しておこうと思います。大統領令の具体的な詳細が出たら、それはそれでまたまとめとして「鉄のカーテンの内側から」に書きますね。日本とロシアの行き来のためのビザ、を考える前に私たちが知っておかなければならない問題として、日本人はビザの概念がとても薄い国民である、という事です。外国に観光に行く時にパスポートだけが証明になり入国できる国と、入国目的を明確にしてその国から査証(ビザ)を発行してもらわなければ入国できない国、に世界は分かれます。日本のパスポートは世界的な信用から言えばバリバリのトップクラスで、観光など短期滞在の場合、ビザなしで行き来できる国は192カ国。これは世界1位の多さです。それに反してロシアは世界46位で119カ国です。そして

日本とロシアの行き来は、どのような理由でもその目的に合ったビザが必要

です。もちろん、観光目的ならばビザがいらない国も、現地で職についたり、オフィシャルに経済活動をする場合は、

ほぼ全ての国で正式な労働が可能なビザの取得が必要

となります。その書類上のやりとりなど様々な事務的な部分で、ほとんどの外国は日本の様にサクサクと事務作業が進むわけではありませんし、日本では考えられないような細かい書類上のミスがあったりします。そういうのを乗り越えて労働ビザを取得しなければならないですから、日本人から見たら「海外に赴任したり働いたりするのは、何と面倒臭いのだろう」と思うでしょう。実際にロシアで働く日本企業の駐在員さんも、ビザの面倒臭さを時々飲み会の席などで語られたりしています。私はそういうのを聞きながら、内心では「日本人の駐在員さんにとって、本当はそういうの全然楽勝なんだけどな」と感じています。私に言わせれば、ロシアのビザ取得はロシア側の段取りとかが良くなかったり、時間が必要以上にかかったりするので、

大変に面倒くさい作業であることは間違いないが、条件は厳しくない

という結論に達しています。そしてロシア人の日本ビザ取得は

作業そのものはきちんと進むが、ハードル(条件)がいくつもあり取得が厳しい

と感じています。しかも、同レベルの渡航条件のビザを取得する時に、条件や提出書類が同じであれば、それもまあ仕方ないですが、ロシア人が日本ビザを取得する場合の方が、条件や提出書類が多くて審査も妙に厳しいのです。なぜ、このロシア人に観光ビザが出ないの、、、というような事例が今までも多々ありました。この

同じグレードのビザに対して許可条件が同じでないという不均衡

については私は何度か様々なところでも指摘してきました。これはソ連時代の話ではなく、つい2018年位にも普通にそうでした。2017年にあった実例を挙げてみます。2016年にモスクワで全編ロケした今関あきよし監督の「ЛАЙКА」の主演女優であるクセーニアというロシアの女優さんが、映画が完成したので日本への観光旅行がてら監督たちと一緒に身内で映画を観よう、ということになりました。日本で何かの映画イベントに参加するわけでもなく、プライベートでの日本行きですからこれは観光ビザで問題ないはずです。私はロシアでのラインプロデューサーをやっていた流れで、クセーニアを連れてHISモスクワ支店に行き、旅行の段取りを申し込みました。その際に彼女のロシアでの身元保証や滞在証明などが必要で、まあまあ厳しいなと思っていたら、収入証明までも要求されました。当時、彼女は演劇大学を卒業したばっかりで、それほど多くの収入があったわけではないですが、身元保証人のお姉さん夫婦の収入や、旅費は映画の製作費から負担することなどを理由に、書類を全て書き込みました。その後、何日か経ってHISモスクワ支店から、「すみません、クセーニアさんの観光ビザが降りませんでした、、、」という電話がありました。在ロシア日本大使館領事部のこの作業の担当者からは、「理由は一切あかせられないことになっている」という回答でした。

マジかよ、と思いつつ、偶然私の知り合いの女性が日本で同じ様な仕事の担当をしていた事があり、連絡をとってみると、「彼女の写真見せて」というので写真を見せると「ああ、こういうタイプの美人は基本アウト。しかも若いロシア美女が一人で日本に行くんでしょ。アウトに決まってるじゃない、、、、。彼女の身元に何か問題があるんじゃなくて、若い女優さんやダンサーという身分、特にロシアの地方出身者の場合は、何か風俗施設での短期労働者とかの疑いあるから、基本的に観光ビザはアウトなのよ」と。要するにステレオタイプに当てはめて、偶然そういう経歴だったクセーニアのビザが降りなかったわけです。気を取り直して、もう一度HISモスクワ支店経由で日本のビザが取得できる方法を聞いたら、「日本の誰かに身元引き受け人になってもらって招待状を出して貰って下さい。その際に日本での日々の行動計画などを細かく明記して、必ずそれを責任を持って身元引き受け人は守らせる、という誓約書も必要です」とのことで、すぐに私は日本に連絡を入れて速攻で書類を作ってもらいました。その書類もオリジナルが必要なので、郵送の手間もあり急がなければなりません。日頃鍛えた日本ベテラン映画人の段取りで速攻で書類はモスクワに届き、在ロシア日本大使館領事部に提出。するとさらに

日本ビザ発行の最終決定に関し面接を行う

との連絡がありました。「面接、、、、」と思わず声にでたくらいの衝撃でした。飛行機のチケットが動かせなかったため、全て上手くいったとしてもギリギリ。「ヤクの運び屋とか売春婦と疑われてるのかな、私」とか不安になってるクセーニアをケーキセットで励まし、大使館に行ってもらい面接。結果は旅立つ前日にビザが届くという凄い状況で何とかセーフ。

これが特別な事かというとそうではなく、私の知り合いの日本人の方のロシア人の奥様がまだ結婚前で彼女だった頃、日本へ行く時も観光ビザが降りず、同じような状況になりました。この女性は地方都市に住んでいたので、面接のために飛行機代と宿泊費を払ってわざわざモスクワにまで来て大使館で面接を受け、ビザが出るまでの間モスクワに滞在しました。しかもこの女性は日本語を地方都市で学んでいて、日常会話に関しては全く困らないレベルでしたし、日本で日本語をさらに磨きたいという真面目な女性です。それにも関わらず、地方出身のロシア人女性、という意味不明な括りで観光ビザが降りないという、、、、。これって、まあまあ凄い事だと思いませんか。意外に日本の皆さんは知らなかった事だと思います。他にも例を挙げるとたくさんありますが、一番ハードルの低そうな観光ビザでさえ、条件によっては日本ってこういう感じなんだという事を知って欲しいわけです。

一方、同じ観光ビザの場合、日本人がロシアに行く場合はどうでしょうか。例えば、このロシアビザセンター のサイトを見てほしいのですが、パスポートと写真1枚でかなりの範囲のロシアのビザが取得できます。観光ビザはもちろん業務ビザという出張などの若干曖昧なものまで、90日間の間、何度か出入り出来るマルチビザというものまで、金銭的な負担をすれば問題なく短期でロシアビザが取得できます。もちろん、ロシアで経済活動をしたり、どこかの会社に所属して就労する事は出来ませんが、観光旅行やカメラマンが1ヶ月くらいロシア全土を撮影旅行するような場合、国際映画祭への参加、ロシアの映画やドラマ撮影への参加、程度の事ならこの段取りのビザで問題ありません。まあ、ロシアに行く時のビザの件で、もう少し詳しいことが知りたい方は、ロシアビザセンターさんに問い合わせてみて下さい。木下順介の記事で知りました、と言っていただいて全く問題ありません。

因みに、日本で同じ様な活動をロシア人がしようとしたら、全てにおいてこんな簡単には行きません。活動別にそれぞれの監督官庁があり、そこへの届出など1ヶ月以上は時間が必要です。特に日本側の身元引受会社の労力も大きく、映画の場合だと、そういう国際プロジェクトに慣れているような会社でないとトンチンカンな段取りをして、無駄に時間がかかった挙句ビザが降りない、というような状況も何度か目にしています。日本のパスポートの信用は世界一ですが、日本のビザを取得するのも世界トップクラスに厳しい、というふうに覚えておいて下さい。コロナ禍においても、日本人のロシア入国はある程度自由でしたが、日本へのロシア人入国は学生ビザですらクローズドしていたような状況でした。もちろんロシア人撮影隊の入国など論外という感じです。ロシアへは普通に上記のような段取りで楽勝でした。

ロシア人に対する日本ビザの発給状況と日露の不均衡の大きさ、を何となくイメージしていただけましたでしょうか。そういう中でも、ロシア人から「ロシアは日本人に国を大きく開いてるのに、日本のビザは厳しすぎるんだ、バカやろう。」などというクレームを聞いたことはありません。基本的にロシア人は日本という国を尊敬してくれています。日本がロシアに制裁を加えている現在の状況になっても、誰かロシア人が私を罵倒したり、仕事で差別したりということは一切ありませんし、私の前で日本の事を何か言うなどと言うことも一切ありません。そこにあるのは、

人と人との情の触れ合い

だけです。話は多岐にそれまくっていますが、最初に戻りますと、「非友好国への入国宣言に関する大統領令の詳細」が出たとしても、

全面入国禁止措置

以外ならば、充分に対応していけるのでは無いかと感じています。措置の詳細が出ましたらここでゆっくりそれを分析してみたいと考えています。

意外にも日本の方がビザに関しては、分厚いカーテン張っているという事を知っていただけましたでしょうか。まあ、日本のお役所バリバリな施策に関しては言い始めたらキリがないのでやめておきますが、皆様には

日本とロシアにおけるビザの不均衡の大きさ

について知っていただきたかったのです。そんなわけですが「鉄のカーテンの内側から」ビザ編その1、でした。本日はざっくりと観光ビザを例にとっての不均衡の話でしたが、ロシアで日本人が活動していくためのビザの種類は、学生ビザや労働ビザ、永住権、外交官のためのビザなど他にも様々あります。大統領令の詳細発表を受けておいおいまた細かく説明して行きたいと思っています。

感想なども書いてね。後、知りたい事や質問などあったらお気軽に!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?