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メゾン 光草 【1】アネモネの妹

「光草」って珍しい名前でしょう?
けれどね、あなたの街にも生えている草なんですよ。
「あれ、この草はなんだろう?」と思ったらそれは光草です。
光草の中には一際輝くものがあるんです、それがメゾン 光草の「招待状」。


あれ?慎二は首を傾げた。
お母さんの誕生日にと花を買っていたので、紙袋には花がたくさん。
だが、道が分からなくなってから大分時間がたつので、花は萎れ始めている。
「あーあ、綺麗な花だったのに」
慎二は残念そうに一輪の花の花弁を指で少し突いた。
小さな黄色い花で、春を思わせる。
「あ!」花弁が一枚落ちた。
そして、辺りは花と同じ色の光に包まれていった。

あれ、ここは…
なんだか懐かしい匂いがした。
「いらっしゃい、坊ちゃん」慎二が振り向くと、女の人が立っていた。
「あの、ここはどこですか?」
「メゾン 光草。あらゆる人が光をみつける場所」
女の人は歌うように言った。
「メゾン、カグサ?」全く意味がわからなかった。
「坊ちゃん、その花束を見せてごらん」
慎二は花束を突き出した。何故か女の人が怖くなかった。
女の人は何か呟くと、慎二に花束を返し、言った。
「慎二くん・・・だよね?えっと・・・お部屋はこちらです!」
唐突に名前を呼ばれ、慎二は戸惑った。
本当に付いて行っていいのだろうか。
「何するんですか?」
「メゾン 光草に泊まってもらいます。お代は結構です」
それから女の人は付け加えた。「最近、夕方は雷が多くてねぇ」
ビクッと慎二の肩が震えた。雷は大の苦手だ。
「泊まります…」
お母さんに怒られてしまうだろう、そう考えると胸が熱くなった。

部屋は質素だった。
部屋の棚には花瓶が置いてあってので、慎二はそこに花を生けた。
「それでは、また呼んでください」
女の人が出ていくと、慎二はベットに座り込んだ。ふかふかだった。
ため息をついて窓の外を見ると、花が見えた。
慎二が気に入ったあの黄色の花にそっくりな花も咲いている。
窓の外にはベランダがあり、ベランダは中庭に通じているようだった。

慎二は中庭を探検することにした。
色とりどりの花が咲いていた。
「そうだ!お母さんにあげる花束にここの花を使おう!」
慎二は花束にふさわしい花を探した。
すると、赤いアネモネが見つかった。これならお母さんも喜ぶだろう。
慎二がアネモネに触れようとした途端、声がした。
「ダメだよ!ここの花は取っちゃダメだよ!」
見ると慎二より1つ2つ年下らしい女の子がこちらに駆けてくる。
「ここの花はお母さんのものだもん。あなたのじゃないもん!」
慎二は思わず笑った。お母さん?それを言うなら僕が花を送ろうとしている相手だってお母さんじゃないか。
日の光が差してきて、中庭の花が踊った。
「お母さん」
「えっ?」慎二は女の子の言葉に思わず声をあげる。
女の子は太陽を指差した。
「アミコのお母さん」
太陽は強く光っていて、見上げる女の子も眩しそうだった。

女の子は慎二に一輪の花を渡した。
そして、こう言った。
「この子の名前はね、アモネっていうんだよ。
アネモネさんの妹なんだよ」
慎二がアモネ(さん?)を受けとると、
女の子はあの黄色い花の花弁を一枚、慎二の方に投げてよこした。
そして、中庭と女の子はすっかり見えなくなった。

いつのまにか、慎二は見慣れた路地に立っていた。
そこは家の前の路地で、心配そうな顔のお母さんが見えた。
「あ、おかあさーん!」
慎二はアモネを持った手を振りながら、お母さんに駆け寄った。
そして、アモネを渡した。
「これは…」
「アモネだよ!アネモネさんの妹なんだよ!」
そう言って、慎二はにっこりと笑った。


次は光草の花弁はどこへ飛んで行くのでしょう。
もしかすると、あなたのところかもしれません。
「メゾン 光草」にて、お待ちしておりますよ。
あら、本日は閉店のお時間。
それでは、また。



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