ぼや騒ぎとタイムスリップ②

朝、いつもより少し遅く目が覚める。昨晩の非日常体験を消防車の赤とともに思い出したが、あれは夢だったのかも、と思うくらいいつも通りの朝だった。

コーヒーを淹れて、テレビをつける。
 
が、つかない。「受信できません」的なエラーが出る。電源を何度か入れ直してみても、何も変わらない。

首をかしげつつ、ふとwifiのルーターに目をやると、何か挙動がおかしい。まさか、と思いスマホのwifi接続を確認すると、やはり接続できていなかった。

「ひょーーー」

wifiルーターの業者のサイトから、チャットAIに助けを求める。いくつか質問に答えたあと、ある質問のところで手が止まった。

「マンションの廊下や共用部の電気はついていますか?」

ほう、と思い玄関に行き、ドアの小さい窓から外の廊下を見る。

なるほど電気はついていなかった。

AIに率直に「ついていませんでした」の旨を伝える。すると、「やっぱりね。マンション全体で何か起きてるかもしれないから、管理会社に連絡してみ」ということで、チャットが終了した。
 
昨日の一件はやっぱり夢じゃなかったんだな、と思いつつ、無駄な質問なく的確な回答を出してくるAIに脱帽する。

とりあえず外の様子を見に行こうと思い下に降りると、管理会社の人が立っていた。

「もしかして電気wifi使えないですか?」
「電気は使えます。テレビとwifiがつながりません」

話を聞くと、電気も使えない部屋もあるとのことだった。タイミングよく洗濯物らしきものを持った家族が横を通り、なるほどと思う。

「週明けには復旧しますかね…?」
「それがまだ何とも言えません…。」

週末は何も予定がなかったから、久しぶりに配信で映画をたくさん観ようと思っていたのだ。そういうときに限ってこれである。

とりあえずテレビとwifiは諦めて、いつも通り週末にまとめてやっている掃除に取りかかった。もはや掃除が現実逃避であった。

そうじが終わってしまい、恐れていた現実と向き合う時間が訪れる。テレビもwifiも使えないと気を紛らわすための音も出せないため、もう逃げられない。

週明けはリモートで仕事である。もちろんwifiが使えなければ仕事はできない。最悪出社すればいいが、できれば出社は避けたい、いや絶対に避けたい。

「シェアオフィスだ」

自宅近辺に幸いいくつか存在した。オープンの時間や料金、設備などいろいろ確認する。コーヒー飲み放題なのいいな、会議ブースも使えるのいいな、など見ていたらすっかり楽しみになっていた。

気分が良くなり、いつもの週末の通り食材の買い物に行った。外に出ると、町はあまりにもいつもの週末の雰囲気だった。

「この町で被災地状態なのはうちだけか」

家に帰り、食材を冷蔵庫に入れる。ほっと一息ついたところで「待てよ」と思う。日中だけではなく一日中wifiがつながらないなら、いっそモバイルwifiを借りる手もあるか、と思い、レンタルできるところを調べ始めた。「引っ越しや入院などにおすすめ」という謳い文句を見て、引越しでも入院でもないのになぁと思う。

シェアオフィスかモバイルwifiか。

この2択に迫られたときだった。突然、

ばちんっ

という音がした後、部屋の電気が消えた。

つづく

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