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【韓ドラ&新聞】「H.U.S.H.」と「朝日400万部割れ」に見る危機(下)

【(↑)トップ画像】韓ドラ「ハッシュ H.U.S.H.~沈黙注意報」の一場面。「毎日韓国」新聞の新人記者イ・ジス(イム・ユナ=少女時代)は失意のなか海を見に出かけ、空を見上げながら、「明日になれば、また太陽は昇る」とつぶやくのだが……。はたして、「朝日新聞」にも「日はまた昇る」のだろうか?

朝日新聞販売部数が「400万部割れ」という衝撃

朝日新聞が急激に販売部数を落とし、なんと、「400万部を割った」というニュースには、ホント驚きました。
 
WEBサイトの<MEDIA KOKUSYO>(2022/10/12発信)は、全国紙の現状を、こうレポートしています。 http://www.kokusyo.jp/oshigami/17257/

日本ABC協会が公表した2022年9月度のABC部数によると、朝日新聞は399万部となり、400万部の大台を割り込んだ。この1年間で62万部を失った。かつて読売「1000万部」、朝日「800万部」と言われていたが、「紙新聞の時代」の終わりを感じさせる。新聞が巨大ビジネスだった時代は幕を閉じた。今後、新聞産業はさらに縮小しそうだ。
(中略)
9月のABC部数は次の通りである。
朝日新聞:3,993,803(-626,041)
毎日新聞:1,871,693(-114,646)
読売新聞:6,677,823(-370,903)
日経新聞:1,702,222(-151,434)
産経新聞:1,008,642(-82,424)

<MEDIA KOKUSYO>(2022/10/12発信)

加速する“新聞ばなれ”、きわ立つ朝日新聞

朝日新聞だけじゃなく、「日本一の部数」を誇る読売新聞も「700万部割れ」、毎日、日経、産経各紙も軒並み販売部数を落としています。
 
いつだったか、法事で親戚が集まったとき、働き盛りの世代に聞くと、「新聞なんか読まない。ニュースはテレビかスマホでじゅうぶん」と一様に言うので、やっぱり<新聞ばなれ>は確かなのだなと実感した覚えがありますが、今やそれ以上に事は深刻なようです。
 
それにしても、朝日新聞の販売部数の減少ぶりはきわ立っています。


鮫島浩さんの記念すべき退職第一作『朝日新聞政治部』(講談社刊)は、ほぼすべて実名で描かれているので、めっぽう面白い。ドラマ「ハッシュ H.U.S.H.~沈黙注意報」と合わせれば、新聞社の実情を2倍3倍にも知ることになる。
でも、一方で、朝日新聞の書評欄は今日まで本書を無視し続け、担当社員と書評委員が朝日新聞社に“忖度”しているのではないかと疑っている。本書は格好の「紙面批評」になると思うのだが、関係者のみなさんの器量が狭いのが残念!
なお、NHKが「官報」に成り下がった報道ぶりは、これまた、ほぼ実名をまじえた『メディアの闇「安倍官邸VS.NHK」森友取材全真相』(相澤冬樹著、文春文庫)にくわしい。

朝日新聞社のかつてはエース記者と言われた鮫島浩さん(現在、WEBメディア「SAMEJIMA TIMES」主宰)は昨年退職し、『朝日新聞政治部』(講談社)を著し、増刷を重ねて話題を呼んでいます。

その著書に、朝日新聞など「全国紙朝刊販売部数」が掲載されていて、鮫島さんが朝日に入社した1994年はこんなぐあいでした。(※カッコ内は前年比)
 
*****
朝日新聞 822万3523部 (-9872部)
読売新聞 1003万300部 (+20万6258部)
毎日新聞 400万9317部 (-981部)
産経新聞 191万8047部 (+1万3295部)
※日本ABC協会 新聞半期レポートをもとに作成
*****
 
全国紙は90年代から、軒並み部数を減らしていったことがこれで分かるわけですが、朝日新聞だけを見ても、この28年間でおよそ423万部減らし、ほぼ半減しています。
 
「慰安婦」に関する「吉田証言」報道や福島原発事故「吉田(所長)調書」報道に対する異常な<朝日新聞バッシング>故安倍元首相も国会質疑で「朝日」を脈絡もなく非難し、「朝日は嫌いだ」と公言していた)の影響で、販売部数を減らした、という説が流布されています。
 
たしかに安倍政権期の2015年には、朝日が前年比で51万部余りも減らして(読売は28万部余り減)いますが、先述のように減少傾向は1994年のバブル崩壊直後からすでに始まっており、バッシングが収まった時点で、V字回復しなかったどころか、いっそう減少スピードが増したのはなぜか、という点が不可解です。

<メディアばなれ>は、すべて「つまらない」からだ

朝日新聞だけじゃなく全国紙が軒並み読まれなくなったのは、すべて<新聞ばなれ>から起きていると言ってしまえば、事はかんたんで、<TVばなれ><雑誌ばなれ><本ばなれ>なども<ネット>や<スマホ>といったメディアに若い人たちが流れたせいだとか、少子化の影響だとか、なんとなくそう考えられています。
 
たしかに現象としてはそのとおりなのですが、新聞社、TV局、出版社などが“花形産業”から“斜陽産業”へと猛スピードで転落していった<内在的要因>を考えないと、メディア間の新旧交代は世のならい――ということだけで済まされてしまう気がするのです。
 
なぜ新聞の紙面から胸のすくようなスクープが消えたのか、なぜテレビはグルメだの旅だの同じような芸人を並べたバラエティで番組表を埋めているのか、なぜ雑誌はどこも似たり寄ったりの企画で特集を組んだり(「週刊文春」のみ政治スクープを連発)、書籍も嫌韓本ばかりで書店の平台(ひらだい)を独占(最近は姿を消したが)しようとするのか……。
 
<メディアばなれ>は、総じて、メディアという<器>にあるではなく<中身>が「つまらない」「興味がわかない」から、読者・視聴者が離れていったのではないか……わたしには、そうとしか思えず、それは<必然的帰結>というものではないかと考えられます。

フジTV『楽しくなければテレビじゃない』の持つ意味

かつて、フジテレビは『楽しくなければテレビじゃない』というキャッチフレーズを掲げました。
 
その新キャッチフレーズの前後、フジテレビは、「オレたちひょうきん族」「THE MANZAI」「たけしの天才テレビくん」などのお笑い番組でTV界を席巻し、明石家さんまと大竹しのぶが共演し結婚への出会いともなった「男女7人夏物語」など数々のトレンディドラマで、年間最高視聴率を独占し、深夜帯ではとんねるずの「オールナイトフジ」(*)が人気を集めていました。
 
(*)「オールナイトフジ」のディレクターだった港浩一さんが、このほどフジテレビ社長に就任し、「『楽しくなければテレビじゃない』という標語は今も変わらない。もの作りが原点の会社です」と挨拶したという。
港さんとは東京・市ケ谷河田町にあったフジテレビ局構内の喫茶店でお目にかかったことがあるが、互いに30歳代だったころと社長就任会見時の写真を見た限りでは、スリムな容貌に変わりなく、妙になつかしかった。
 
すでに、フジテレビは、<娯楽番組の雄>の地位を確立し、じゅうぶんに楽しく面白かったのですから、あえて『楽しくなければテレビじゃない』という新キャッチを掲げる必要もなかったはずなのに、どうしてか。
 
それは局内の驕りやマンネリを感じ取り、1967年に世界スーパー・ライト級チャンピオンとなった藤猛選手がリング上で叫んだ「勝ってもかぶってもオシメ」という間違いから逆に有名になった本来のことわざ「勝って兜の緒を締めよ」(成功したからといって気を許してはならぬ)という戒めを内部に発したのではないかと、当時うがった見方をしていました。
 
でも、今でもそれはあながち間違いではなかったと思いますし、広告スポンサーへのアピールという側面もあったのではないかと思います。

忘れられた<消費者ニーズ>の掘り起こし

当時、メディアに限らず、あらゆる企業が消費者のニーズ(興味・関心・欲望)をつかめと号令をかけ、<マーケティング戦略>なるものに躍起になっていましたが、成功からくるおごりや惰性(マンネリ)が、いつしかニーズを掘り起こそうとする意欲を失わせ、新しき事を創造する気運や活気をそいでしまったことは言うまでもありません。
 
その格好の例が、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと世界からチヤホヤされた<ニッポン低国>(反骨のルポライター・竹中労さんの命名)のいっそうの黄昏ぶりであり、(真偽は定かではありませんが)かつて“日本一の高給取り”と言われた朝日新聞社の凋落ぶりではないでしょうか。
 
「あのねでもね……」(一青窈「もらい泣き」)――、
一面に堂々と「憲法改正試案」(*)を本社の提言とした読売新聞や、米兵の自動車事故を美談扱いし、地元の沖縄2紙(琉球新報、沖縄タイムス)をデマ報道と非難した産経新聞(のちに訂正謝罪)は、とうてい購読する気にはなれず、選挙の候補者選びと同じく“ベストよりベター”と、朝日新聞を読み続けるほかなく、ここはもう少し記者さんたちに気張ってもらうしかありません。
 
(*)読売新聞社の「憲法改正試案」は、憲法学者・小林節氏(のちに安倍政権の安保法制は違憲として真っ向から反対の論陣を張った)が1994年11月3日の読売新聞の一面に発表し、論議を呼び起こした。「自衛力保持」と「国際責務の遂行」を明記し、のちの小泉政権によるPKO部隊派遣につながったと言われている。
 
そう言えば、新聞労連の委員長をつとめ、現場に意欲を燃やしつつ復帰された政治部記者の南彰さん(ツイッターでは2.6万フォロワー)の名を最近紙面で見かけませんが、いったいどこに行ってしまったのでしょう。

「貧すれば鈍す」(!?)の朝日新聞に、「ファイティン!」

とりあえず、今日のところは、「貧すれば鈍す」の「負のスパイラル」の図式、つまり<経営危機⇔リストラ⇔若手記者の取材・質問力・報道の質の低下⇔「つまらない」と購読者ばなれ⇔部数逓減に伴う広告スポンサーばなれ⇔さらなる経営危機>から、朝日新聞がいかに抜けだせるか、そのことを見守りたいとだけ言っておきます。
 
つい長くなってしまいましたが、最後に、韓国ドラマが好きな「ファイティン!」の励ましを、韓ドラ「流れ星」の主演イ・ソンギョンさんから朝日新聞の記者たちに贈ってもらいましょう。


<芸能界の内幕>を描いたラブコメディドラマ「流れ星」(全16話、2022年、スタジオドラゴン制作)から、視聴者に向けて“元気出して!”のメッセージとも受け止められるシーン――大手芸能プロダクションの女性マネージャーに扮したW主演のイ・ソンギョンは、長身のモデル出身で、ドラマ「恋のゴールドメダル~僕が恋したキム・ボクジュ」(2016年/MBC制作)や「アバウトタイム〜止めたい時間」(2018年/スタジオドラゴン制作)、「浪漫ドクター キム・サブ2」(2020年/SBS制作)などでファンを獲得し、「アバウトタイム――」では、ご本人がミュージカル俳優を目指していたというだけあって、歌とダンスを存分に披露し、見せ場となっている。


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