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【韓ドラ&新聞】「H.U.S.H.」と「朝日400万部割れ」に見る危機(上)

アメリカでも起きている<新聞ばなれ>

この10月、<朝日新聞の販売部数が400万部割れ!>という衝撃的なネット・ニュースが目に飛び込んできました。
 
<新聞ばなれ>とか“ネット・ニュースで十分”とかと言われて久しいのですが、世界にネットワークを張りめぐらし、リストラなどで減ったとはいえ4300人もの社員を抱える朝日新聞社が採算を取れるのかどうかというギリギリの販売部数にまで落ち込んでいるとは思いもよりませんでした。
 
アメリカでは、日刊紙「ニューヨーク・タイムズ」(*1)や経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(*2)が、紙の新聞は部数減少が続き、早くからデジタル版に移行しつつあるとか、家族経営など小規模の地方紙に廃刊や再編統合の動きが加速しているとか、そうした現状を朝日新聞は熱心にレポートしてきました。
 
その新聞存亡の危機が朝日の足元で起きていたとは……。
 
(*1)「ニューヨーク・タイムズ」は、いち早く電子版の発行と<ポッドキャスト>を開設するなどの企業努力で、経営のV字回復を果たしたという。なお、<ポッドキャスト>とは、現場の記者が「インターネット上で音声や動画のデータファイルを公開する方法の1つ」で、ニッポンでは、毎日新聞社が開始している。
(*2)「ウォール・ストリート・ジャーナル」も世界各国への電子版発行(日本版も)で成功したと言われている。
 
<新聞ばなれ>は、お隣りの韓国でも同様のようです。
 
韓国ドラマ「ハッシュ H.U.S.H. ~沈黙注意報」(全16話、2020年)を観ると、かなり深刻な状況を迎えているものと想像されます。

韓ドラ「ハッシュ」が描く<新聞ばなれ>と本当の危機


韓ドラ「ハッシュ」の舞台となる大手新聞社「毎日韓国」では、保身に躍起となる経営幹部と違い、社会部を中心とした記者たちが<新聞ばなれ>に危機感を燃やし、<特ダネ>や<調査報道>に奔走して購読者を増やそうと奮闘します。画像は仕事をさぼってばかりいる中堅記者役のファン・ジョンミン。なお、トップ画像は社会部次長役のユソン

――ドラマ「ハッシュ」は、こんなストーリーです。

レジェンド俳優ファン・ジョンミン×少女時代ユナの初共演! 怠け者記者と熱血インターン記者が理想と現実にもがく姿を描いた社会派ヒューマンドラマ

(LaLa TV番組案内より)

原題の「ハッシュ(H.U.S.H.)」「HUSH」とは、ネット辞書によれば、「しっ!静かに!」という意味だそうですが、新聞社では、政財官界の疑惑や不祥事を追及したりせずに黙って見過ごそうという、例の忖度とか報道の自主規制のことを指す場合と、逆に、政財官界にまつわる<特ダネ>を編集局長やデスクに握りつぶされないため、原稿にするまで記者は内容を秘匿しておこうという意味に、このドラマでは使われています。
 
ただ、「ハッシュ」には「H.U.S.H.」と一文字ずつピリオド(ドット)が入っています。
これには深い理由(わけ)があって、ドラマの核心部分ともなるのですが、ネタバレになってしまいますので(第12話で明らかに)、ぜひご自分の目で確かめてください。


「ハッシュ H.U.S.H. ~沈黙注意報」のタイトル画面。右がファン・ジョンミン、左がユナ(少女時代)。(LaLa TV番組案内より) ▶ファン・ジョンミン~映画「シュリ」(1999年)「ユア・マイ・サンシャイン」(2005年)「国際市場で逢いましょう」(2014年)「工作 黒金星と呼ばれた男」(2018年)など数々のヒット作に出演し、名実ともに韓国のトップスター。ドラマは久しぶりの出演。 ▶ユナ(少女時代)~アイドルグループ「少女時代」で歌手デビューし、ドラマ「THE K2 君だけを守りたい」や映画「コンフィデンシャル/共助」(2017年)「――/共助2」(2022年)など出演多数。

その大手新聞社「毎日韓国」を舞台にした社会派ドラマのW主演を、社会部のエース記者だったとき<誤報>を出したがためにデジタルニュース部に配転させられ、ビリヤード場でヒマをつぶす中年記者役のファン・ジョンミン、そしてインターン記者から正社員に採用され、社内の“吹きだまり”と言われるデジタルニュース部に配属された新人記者役のユナの二人が、ともに繊細かつ表情豊かに演じます。

「新聞は社会の木鐸たれ」は今や死語か

ドラマが進行するにつれ、「毎日韓国」が抱えている危機は、購読者数の減少だけでなく、もう一つ、新聞社の内部にこそ危機がひそんでいるということが分かってきます。
 
それは、「新聞は社会の木鐸(ぼくたく)たれ」――中国の故事に由来する「世人に警告を発し、教え導く人」(グーグル日本語辞書)――という新聞人の使命を忘れ、「忖度」だの「癒着」だの「出世・昇進」だのにふけって、紙面は適当な記事で埋め、あとは「定年」を心待ちにする――そんな記者ばかりが増えていることにこそ最大の危機があるのではないか、と観る者に訴えかけてきます。
 
そんな、やる気のないサラリーマン記者が書いた記事など誰が面白いと思うでしょうか、いったいどこの誰が定期購読しようなどと考えるでしょうか。
 
<新聞ばなれ>は、新聞社とそこに所属する記者たち自らが招いた危機とも言えるのではないでしょうか。
もちろん、「毎日韓国」と同様、朝日新聞はじめ毎日、読売の記者たちが、“ジャーナリスト”とは言えない人間ばかりとは思えませんが……。

ときに、フィクションは現実社会を凌駕する

ドラマ「ハッシュ」は、「毎日韓国」の記者たちの生態を生々しく描きだし、新聞社内部にひそむ(万国共通の)危機をさらけ出していくわけですが、ときに、フィクションのほうがリアルに感じられ、現実の断片をすくい上げ、それらを積み上げた結果、トータルに現実の世界を超えたのではないかと思わせる作品に出合うことがあります。
 
邦画では、伊丹十三監督の「お葬式」「マルサの女」「スーパーの女」がそうだったし、元新聞記者の横山秀夫さんの小説を原作にした「クライマーズ・ハイ」などに、社会派のリアルを感じましたが、「ハッシュH.U.S.H. ~沈黙注意報」もまたその一つと言えると思います。


秋ドラマのビッグ3にランクされた「エルピス」の一場面(中央はニュースキャスター役の主演・長澤まさみ)。シナリオはNHK朝ドラ「カーネーション」の渡辺あや、監督は「モテキ」の大根仁、プロデューサーは「カルテット」「大豆田とわ子と三人の元夫」の佐野亜裕美という制作トリオで、放送前から期待を集めていたが、安倍・菅元首相などの実写と麻生副首相をモデルにするなど現政治に批判的な描き方が話題を呼び、長澤まさみと眞栄田郷敦の演技も相まって好視聴率(初回8.0%)を生んでいる。

いまフジ=関西テレビ(制作)系で放送され話題沸騰中の、TV界と政治権力者の嘘やごまかしを告発したリアリティードラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」長澤まさみ主演)も、<冤罪事件>をエンタメの衣で包みながら「社会の木鐸」たらんとするドラマだからこそ視聴率を上げているように思えるのです。
 
(次回につづく)


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