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柄谷行人『力と交換様式』読書メモ

読みながら書いたメモ.

柄谷行人,「力と交換様式」,岩波書店,2022年.
・資本,国家,国民
・我々が生活をする上で最も身近な「経済」
・経済がベースで,その上に政治などの観念(下部構造に上部構造は支えられている)
・日本だと「資本主義」
・マルクスの資本主義に関する考察『資本論』
・マルクス「資本主義のままだと格差が広がりまくってやべぇから,みんな平等に生きられる社会(共産主義)目指そうや(その過程が社会主義)」
・マルクス主義を曲解してしまったレーニン→のちのスターリニズムの土台,社会主義国家のほとんどは誤謬(実際のマルクスは共産主義は人間によって実現されるのではなく,向こうからやってくるものとした,社会主義くらいしかできない)
・マルクス主義では今日でも生産様式,史的唯物論からの観点ばかり
・しかし,柄谷は交換様式で考える

交換様式:交換によって霊力が発生する.人々はこれに突き動かされる.
 A:互酬(贈与と返礼)
 B:再分配(略取と再分配,服従と保護)
 C:商品交換(貨幣と商品)
 D:Aの高次元での回復
・交換様式に基づくと歴史の見え方も違う

A
・遊動性狩猟民だった人類は,定住したことによって,その原遊動性を失ってしまった.その(無意識下のトラウマ克服として強迫反復という形で)Aの贈与交換が始まった.定住することによって,固定された場所で住むため他の人間とのトラブルやストレスも原因.
・Aが強かった頃は,独立性と平等性がしっかりしていて,共同体を成していてもそれは守られた(家族,親族,氏族社会).
・人が多くなってくると近くに移民させて,一つの集団の人口を調整していた.それでも大きくなってくると,首長=祭司をたてて,皆の収穫物を一つの倉庫=神殿に納め,首長=祭司が再分配(首長制社会).この時点でも独立性は守られており,逆に首長にはなりたがらなかった.Aは人の交換が主流(婚姻).村での暮らしが嫌になったら出ていった.
・定住したことで富を貯められるようになった(遊動のときは貯めることができないので,その場で全員に平等に分配していた)これによって差ができ始める.

B
・呪術師や祈祷師のような力を持ったカリスマである王となる者が現れ,人々は自発的に服従した.王は臣民に命令を出す代わりに保護する,臣民は命令に従う代わりに保護される,これが交換様式B(双務契約).これが国家の始まり.
・Bがないと共同体は国家になれない.大きくても連合体(アソシエーション).統一体ではない.

C
・Bと同じ頃に貨幣交換,つまりCが現れる.国同士の交易の際には,貨幣(羊や貝殻など)が使われるが,そのときには金貨が一番便利.Bがある=国家のおかげで,王が金貨の規格を決めてくれる.これで商品交換が成立する.最初の頃は貨幣を貯めておくことは卑しいとされ,官僚が積極的に交易に参加した(王からの名誉・報酬のため).
・B=国家,C=資本の規模が大きくなっていくと国家は帝国になる.その際の王も皇帝になるが,臣民たちを従わせるために世界宗教(一神教,エジプトのラーなど)が用いられる.
・ある時に皇帝や王が打ち倒されると,束ねていた者がいなくなったにも関わらず,国民達は「想像の共同体」を維持する.これがA=ネーションである.
・B=A=C,つまり国家=ネーション=資本の三本柱が歴史を推し進めることになる(どれかひとつが折れたり弱まっても,それ以外の二本が持ち堪えることで強くなって復活する).
・Aが強かった頃は「人間対人間」,「人間対他者」であったので,自然に対しても他者のように接していた(捧げ物).
・しかし国家となってからは「人間対神(王)」に格上げされたと同時に,「人間対それ」となって自然や人のことをモノとして扱うようになった(資源として.環境破壊の根源).
・商人資本が異なる共同体に物を売買することで空間的に利潤を産んでいたのに対し,産業資本は生産力を上げることで時間的に利潤を産む(すぐに競合が追いつくので再び技術革新をしなければならない.永遠に終わらない.ちなみに産業資本では資本家が労働者を搾取するだけでは破綻してしまうので,労働者を消費者にする,作った商品を買わせることで利潤を得る).

D
到来はしていないDだが,それを予感していた者は多い(以下,交換様式に気がついた者も含む)
 ・預言者(職業としての予言者ではなく.本人はやりたくないけどどうしても「神の命令」に従うしかない)
  - ゾロアスター
  - モーセ
  - イスラエルの預言者
  - イエス
  - ソクラテス
  - 中国の諸子百家,とくに墨子
  - ブッダ
 ・マックス・ウェーバー
 ・モース
 ・ホッブズ『リヴァイアサン』
 ・ルター『神の国』
 ・カント「世界平和連合」
 ・マルクス「資本主義の科学」
 ・エンゲルス「社会主義の科学」

・格差がなく,平等で,かつ皆が独立している世界=神の国=D.
・D=希望(過去に中断され,いずれやってくるであろうもの)=反復(キルケゴール.想念が過去に向かって戻るのに対し,反復は未来に向かう).
・マルクスもエンゲルスも晩年にはDに気がついていたが,現在に至るまで見
向きもされてこなかった.
・マルクスが考えていた共産主義(D)を到来させるためには,世界同時的に革命を起こさねばならなかった(ロシア革命はそもそも準備ができた共同体ではなく,しかも後続もいなかったため,Bの国家を弱めるばかりか,却って強固にしてしまい,アジア的な先制国家ができてしまった=スターリニズム).

・B強:帝国,A強:国民国家,C強:帝国主義.
・絶対王政は「国家の監視」,宗教改革は「神の監視」.
・折れては強く,折れては強くを繰り返していくうちに(必然的に戦争がおきるが)Dがやってくる(Dは未だ来ていない).

・イギリスが産業資本が強かったのは,商人資本が弱かったから(逆に商人資本が強いオランダなどは産業資本が弱い.ギルドが結成されてしまっているので.労働者になる都市があることが条件になる)イギリスのヘゲモニ一下で自由主義(イギリス国内では福祉).
・イギリスがヘゲモニーになりはしたものの,遅れてフランスとプロイセンが上がってきて戦争になった(BやCは階級闘争をうむ.普仏戦争,WWI).
・1929年の世界恐慌.アメリカはニューディール政策でイギリスに代わってヘゲモニー国家になる.ソ連と友好的な関係.
・それに対抗して,ネーション=Aで社会主義勢力の拡大を阻止したいイタリア,ドイツ,日本はAが強め(ファシスト,ナチス,超国家主義).これがWWIl.
・終戦後,アメリカ陣営の第一世界,ソ連陣営の第二世界,その他の第三世界.米ソに対して第三世界のフランスは自律的な地位を保とうとした(二元性に対してフーコー,ドゥルーズ,デリダ).
・イギリスの時と同じように,アメリカのヘゲモニー下でも自由主義だったが,敗戦国ドイツと日本が巻き返してきて,アメリカの圧倒的ヘゲモニーが失われる.ソ連は崩壊し,残った世界中の社会主義国家がうやむやに.アメリカは新自由主義を唱え始めた(=帝国主義).

・ちなみに,
 第一次産業革命:石炭の蒸気機関
 第二次産業革命:電気・石油
 第三次産業革命:コンピュータ(第四次もこれに含めていい)
現代に至るまでデータやらアルゴリズムやら「有形」から「無形」に変わり,大きな変化だと叫ばれているが,資本主義の性質上当たり前のこと(差異を生み出し続けるのだから).

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