読書感想『父・こんなこと』
去年の秋、筑摩書房から出た高峰秀子さんのベスト・エッセイに偶然出会って、その魅力に取り憑かれてから古本を漁るようになった。
地に足ついた昭和の生活史として。使い古した白雑巾が、醤油差しが、硬い話し言葉が、たまに出掛ける時に着る上等な着物が、ここに息づいている。
戦争の影が色濃く残る当時の日本で大変な苦労をしているんだけど、筆者の眼に映る情景はなんとも研ぎ澄まされている。過ぎ去る生活のこれっぽちのことに光を当てていくようなエッセイ。そうやって浮かび上がってゆく昭和前期の生活