見出し画像

お酒が好きだという話

誰しも、旅に出る時は目的、またそれに伴う動機が存在する。

例えばそれは歴史建造物だったり、食事だったり、スポーツだったり、一杯のコーヒーだったりする。

私の中にも数多くの目的と動機が存在するが、その中でも大きな割合を占めているのは何と言ってもその国のお酒を嗜むことだ。たくさん飲むのではなく、その国の料理と街の空気、周辺の音、人の流れなどを肴に楽しみつつ、揺らめく仄明かりの下でぼうっとほろ酔いになる瞬間、うっとりするほどの幸福感に全身が満たされる。

私はお酒そのものが好きだと確信してから、異国の美味しいお酒を見つけるというのはいつの旅でも重要な目的となった。


ラムとの運命的な出会い

2013年初夏、フィリピンのセブ島へ旅行していた時の話である。

フィリピンと聞いて一番最初に思いつくお酒と言えば、大体の人はサンミゲル(San Miguel)と答えるだろう。フィリピンのビール市場約90%のシェアを占めている、言わずと知れた超有名ビールである。今まで世界各国のビールを飲んできたが、世界レベルで見ても日本のビールはぬきん出てウマイ(ちなみに私は麒麟派である)。だがサンミゲルも、一歩も引けを取らずウマイ。旅行中は暇さえあればサンミゲルばかり飲み、全種類コンプリートしたのは言うまでもない。

誰得ビールランキング(当社比)

一位 クロムバッハ ヴァイツェン(ドイツ)
二位 麒麟 一番搾り(日本)
三位 サンミゲル ピルセン(フィリピン)

美味しさで言うとこれくらいの位置づけである。

上記のように連日ビールばかりだったので、ビール以外のお酒で現地の人に愛されている庶民のお酒を聞いたところ紹介してもらったのが「タンドゥアイ/TANDUAY」というラム酒だ。

庶民のお酒なのでコンビニでもスーパーでもどこでも簡単に手に入り、価格もめちゃくちゃ破格だ。当時のいくらで買ったか正確な記憶が無いので改めて調べたが、375mlの小瓶で45円程度。大きい瓶でも100円くらいの値段で買える。激安どころの話ではない。

フィリピンは昔からサトウキビの産地であり、あまり知られていないが非常に良質なラム酒が作られている。タンドゥアイもその一つで、各種の賞を受賞しているお酒なのである。フィリピンはほとんどの蒸留酒がサトウキビやココナッツで作られているため税金が安く抑えられているのと、お酒の製造が自由で自家製酒が盛んなため上質なお酒をお得に楽しめるということらしい。

オススメなのはトニックウォーターと割って、現地のカラマンシーと言う酢橘に似た柑橘類の果物を絞って飲む飲み方(写真右奥)。これがめちゃくちゃに、それはもうべらぼうにウマイ。めっちゃウマイのである(興奮のあまり語彙力の低下が著しい)。

フィリピンは湿度が高く、その日も額にじんわりと汗が滲むような生ぬるい気温だったが、グラスからは胸いっぱいに吸い込みたくなるような爽やかな香りがした。苦みと酸味が心地よく合わさって、暑い夏の夜にぴったりの、喉奥にいつまでも残る美味しさだった。

美味しいお酒を求めてさまよう旅ほどロマンチックなものがあるだろうか?思い返すと美味しいお酒と共にする旅はいつも、それがどこでも、誰と一緒でも、あたたかな記憶をプレゼントしてくれた。

いつかまた、初めて口にした時の感動を思い出しながら、あの場所で飲みたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?