見出し画像

【第6回JWCSラジオ リンク記事】市街地での鳥のフン害から野生生物との共存を考える

 JWCSラジオ《生きもの地球ツアー》の第六回放送、『鳥は人にわざとフンを落とすの?』は聞いていただけましたでしょうか。
本記事は、第六回放送とのリンク記事です。まだお聞きになられていない方は、ぜひお聞きください。

ラジオで取り上げましたように、市街地で集団をつくるムクドリなどの野鳥の騒音やフンの害の対策として、自治体は追い払いを行っています。

東久留米鳥フン対策


  しかし野鳥は虫を食べて大発生を防いだり、実を食べて種を散布したりと生態系の中での役割があり、いなくなってしまえばいいというものではありません。そのため共存が模索されてきました。

 集団を作りフン害が問題になる鳥にカワウがあります。カワウは魚を食べる鳥なのでフンの臭いがきつく、また大量のフンが葉にくっついて光合成ができなくなり営巣木枯れるほどです。鳥獣保護管理法に基づき、人との軋轢がある動物としてカワウは特定計画の対象になっています。
 環境省が発行した『特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン及び保護管理の手引き(カワウ編)』(2013年)の「はじめに」には、“カワウは古来より日本に暮らす在来種であるため、撲滅や駆逐ではなく「ほどほどにいること」を目指すことが大前提となる。“とあります。
 つまり対策の強弱は、人間がどのくらい被害を許容できるかで決まります。

 環境省の「カワウの保護管理ぽーたるサイト」には、1971年に集団営巣地が消失した千葉県の大巌寺の例が紹介されています。そこではカワウのフンが肥料として利用されていました。また広大な森林があったため、フンで営巣木が枯れても集団営巣地が移動すれば、時間とともに木が再生したそうです[1]。そして400年以上もカワウは住民に大切にされていました。
 しかし京葉工業地帯が造成されて浅瀬が減少し、水質汚染が悪化した頃、大巌寺での営巣がなくなりました。1960年代から70年代は他の地域でもカワウは激減しました[2]。
 東京上野の不忍池は、動物園の展示用に放し飼いにしていたカワウが野生化し、カワウが減少した時期でも池の中にある島で繁殖していました。1983年の不忍池のしゅんせつ工事をきっかけにカワウは浜離宮庭園に営巣地を広げました。浜離宮庭園では樹木の枯死防止のため、カワウの巣を落としたり、飛行を邪魔するロープを張るなどして追い出しをしました[3]。
 1980年代からは各地でカワウが増え始め、集団営巣が迷惑なものになっていきます。また放流したアユが食べられるという被害が漁業者から訴えられました[3]。そのため上記の環境省の「手引き」のように、カワウの研究を基に共存のための対策が取られるようになりました。
 東京湾沿岸でカワウが営巣している場所の一つが、千葉県市川市の行徳鳥獣保護区にある湾岸道路沿いの緑地です。市がカワウ営巣用のやぐらを設置する一方、場所によっては営巣防止のためのロープを張るなど、集団営巣を人間が許容できる場所に誘導する対策が取られました[4][5]。昔は江戸城にカワウの集団営巣地があったそうですから[3]、その頃と比べると狭いところに押し込めて共存を図っていると言えるでしょう。

 個人で鳥のフンから身を守るには、地面にフンがいくつも落ちているところは、鳥が気に入っている場所なので要注意です。また、エサを与えると鳥が寄ってくるので、フンを付けられる可能性が高まります。

 小原秀雄JWCS名誉会長は野生生物との距離感を「温かい無視」と表現しました。市街地の野鳥も距離を取りつつ観察をしてみてください。野鳥のくらしを理解する人が増えれば、被害を許容できる範囲が広がるかもしれません。

【引用】
[1] 環境省 カワウの保護管理ぽーたるサイト
https://www.biodic.go.jp/kawau/00_hogokanrihaikei.html
[2] 成末雅恵・福田道雄・福井和二・金井裕 1997 関東地方におけるカワウの集団繁殖地の変遷 STRIX VoLl5 pp.93-108. https://mobile.wbsj.org/nature/public/strix/15/Strix15_12.pdf
[3]加藤ななえ 2014 カワウのほん 認定NPO法人バードリサーチ
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/kawau/kawaunohons.pdf
[4]千葉県環境生活部自然保護課 2005 行徳湿地内周辺緑地におけるカワウ対策について
https://www.pref.chiba.lg.jp/shizen/shingikai/gyoutoku/documents/051129_2_1.pdf
[5]市川市2005 行徳近郊緑地保全区域内鳥獣保護区におけるカワウの生息状況調査について(報告)
https://www.pref.chiba.lg.jp/shizen/shingikai/gyoutoku/documents/050224_5.pdf

当会は寄付や会費で運営する認定NPO法人です。活動へのご支援をお願いします。