見出し画像

鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎_今年のベスト映画

わたしの選ぶ今年のベスト映画、それはズバリ、「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」だ。
元々息子が妖怪やおばけが大好きで、鬼太郎のアニメを履修していた時期もあり、映画をやることは随分前から知っていた。しかし公開が近づくにつれ、どうやらこれは子ども向けではないな…?と気づき、息子を連れて行くことはやめたので、実のところ観るつもりではなかった。目玉おやじが人間の形だった頃の声が関さんなんだなー、というかキャスト豪華だなー、気合い入ってるなー、という程度の印象で、全くもってヒトゴトだった。
ところが公開されてからというもの、SNSで「ゲ謎」「入村」「ゲゲ郎」という言葉が散見され、オタクが大いに盛り上がった。こういう時のオタクは信用できるので俄然観に行きたくなったのだけれど、産後間も無く中々入村が叶わないでいた。昨今の流れで言えばどうせすぐに何かしらの動画配信サービスで公開されるだろう。けれどあまりにもオタクが盛り上がっているので、やっぱりオタクとしては映画館で観たい!どうしても観たい!!という勢いで、どすっぴんで夜の上映に滑り込んだ。
ちなみにどうにか劇場で見たかったので、SNSはネタバレを踏まないよう薄目でみるようにしていた。予備知識なしの初見に勝る感動はない。もし今ゲ謎を映画館で観るか迷っている人がいたら、絶対に見た方がいい。

※以下、おそらくネタバレしていきます※

観終わっての第一声としては、「良いものみせてもらった」「日本アニメすごい」だった。キャラクターがどう、ストーリーがどうというのも勿論あるのだけれど、全体的な完成度が高く、作品全体の満足度が高かった。加えて、久しぶりにしんどくない映画だった。というのは、アニメ映画は日本のものも海外のものもいろいろ見たことがあるのだけれど、「抑圧される主人公が、最終的には夢や望みを叶える」という作品がとても苦手なのだ。最後まで見れば面白いと分かっていても、前半の抑圧され否定される光景がしんどくて観ていられない。良作や感動作と言われる作品であっても、物語に入り込めずぐったりとしてしまうことが多い。「鬼太郎誕生」は決して明るい映画ではないし、非常に不快で倫理に反する内容も含んでいる。けれど、世界観に引き込まれ、観終わった後興奮する作品だった。

わたし自身は鬼太郎を熱心に見ていた記憶はないのだけれど、日本人ならほとんどの人が水木しげる、鬼太郎、というワードは知っていると思う。黄色と黒のちゃんちゃんこを着て、下駄を履いた少年が出てくる妖怪ものの漫画、あるいはアニメ。妖怪アンテナ、髪の毛針、リモコン下駄、等。彼が墓場から這い出てきた赤子だったことは知っていたし、彼の父が死んだ後その目玉がぼとりと落ちて目玉おやじとなり彼のそばにいたこともなぜか知っていた。日本人のDNAに刻まれた「ゲゲゲの鬼太郎」という教養があるのかもしれない。

「鬼太郎誕生」では、鬼太郎は最初と最後にしか出てこない。物語は水木という戦争から帰ってきた人間の男と、水木によって「ゲゲ郎」と名付けられた鬼太郎の父が物語の中心となって、哭倉村という山奥の集落を舞台に繰り広げられる。水木はビジネスマンとして成り上がるきっかけを掴むため、ゲゲ郎は行方不明の妻を探しすため、とそれぞれ目的もルーツもまったく異なり、なんならゲゲ郎は幽霊族なので人間ですらない。はじめは互いに情もなく義理もないが、よそ者対村という構図によって、よそ者組の二人は行動を共にすることになる。同時に、村は村でその脆弱さが露見し、毎日人が死に、そして彼らの秘密、つまり水木とゲゲ郎の探し物へと繋がっていく。そしてその探し物の果てに鬼太郎の存在がある。
作中、ゲゲ郎は手首に黄色い組紐を巻いている。延びたり縮んだりするそれは「ご先祖様の霊毛を編んだもの」であり、物語の終盤であの見慣れたちゃんちゃんこへ変化する。身重の妻を庇って前に立つ満身創痍のゲゲ郎と圧倒的強者な狂骨という構図において、ファンタジーではあるけれど、母の腹の中であげられた鬼太郎の泣き声に呼応して、息も絶え絶えな幽霊族が力を貸す。それは赤ん坊を守ろうとする心でもあったと思うし、先祖からの祝福であるようにも思う。当然龍賀家との対比でもあり、もっと言えば現在の社会との対比であるのかもしれない。子は未来であり、それを守り繋いでいくことが先人の勤めであると感じるところがあった。ゲゲゲの鬼太郎の中で、鬼太郎が「ご先祖様の霊毛でできたちゃんちゃんこ」と言っているのを何度も聞いたことがあったけれど、その成り立ちや父から受け継がれたもの、あるいは父もまた誰かから受け継いだものだったのかと知って非常に胸が熱くなった。

前述の通り、この物語に鬼太郎は最初と最後しか登場しない。けれども、作品を説明するならば、やっぱり「鬼太郎が誕生するまでの物語」なのだ。彼がどんなふうに生まれたのかを描いた作品なのだ。素晴らしいタイトルだと思う。

作品の見どころはたくさんある。あちこちに出てくる妖怪、バトルシーン、糸目の石田彰…。2回目以降はクリームソーダ、なければメロンソーダを喫しながら鑑賞したくなる。
わたしは先日2回目の入村を果たした。きっといつか配信される日が来るのだろうけれど、できることならば、たくさんの人に映画館で観てほしいと思う。

サポートありがとうございます。 頂いたサポートはひとり時間や、イチとニイのおやつに使わせて頂きます☺︎