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老人の生き甲斐だって

娘から自動車の名義変更をしようと連絡が来た。免許返納を考えてると言ったら、即交換してと言われ、車の交換したままだ。ディーラーで名義の交換は良いのではと言われ、そのままになっていたものだ。こちらで進めてくれと言うが、面倒でそのままになっている。

今月は車検がある。来年は免許更新に当たる。来年には廃車にするので、特に書き換えなどする事はない。

以前から免許返納とか廃車は言っていたのに、いざ実行に移そうとすると、老人の中にはもったいないとか、生き甲斐がなくなるとか言う者も居る。免許証や自動車がなくなるのは確かにもったいないし、日々の生活で不便さを感じる。事故のリスクと不便さを比較して、時間だけは充分にあるので、不便さを楽しもうと思えばそれも良い。


「生き甲斐は・・・」と言われると、有る訳ないだろう。残り時間の消化だけだ。ハーランド・デイヴィッド・サンダーズという人、ケンタッキーフライドチキンの創業者は、10歳のときから様々な職業を経験し、40代で幹線道沿いにレストランを開業し、大成功してケンタッキー州から名誉称号「ケンタッキー・コロネル」を贈られ、通称「カーネル」という称号を付けて呼ばれるようになった。レストランとガソリンスタンドは大成功したが、世界恐慌と道路が移転する事になり、ついに倒産をした。評判だったフライドチキンのチェーン展開を考えたのが70歳の時で、1009回営業してもダメで1010回目で初めてチェーン店契約が出来た、などという伝説もある。70歳から起業して、100歳で亡くなるまで最先端を走り続け、見事に現在のKFCコーポレーションの基礎を築いた。

60歳で自営を辞める前に、生き甲斐がないと言ったら、このカーネル・サンダースの話を聞かされた。確かに立派な人物だとは思うが、真似をしろと言われても、じゃあお前は同じ事が出来るのかと返したい。

義母のパチンコ依存症の尻ぬぐいで、何度も借り入れを行い、不況時には自死を考えるほど追い込まれた経験もある。もう自営も限界まで努力をして、必ず恩返しをしますと言っていた妻の介護もして疲れた。せめてパチンコ依存症で大勢に迷惑を掛け、自由気ままに勝手な生き方、タバコと騒音の中だけに生き甲斐を感じて、今はヘラヘラとボケて特養ホームで暮らしてる義母よりも少し長く生きて、最期の苦しむ姿を見たいと思っていた。何となくそれも面倒になった。

緊張感の続いた数十年間、真剣に生きてきたが生き甲斐など感じた事はない。義母のパチンコ代に消えた金額を子供達のために使えば、今よりは充分に恵まれていただろう。


生き甲斐などないが今まで生きて来られたのは、祖父から古神道、菩提寺の住職から仏教の教えを受けたからかもしれない。就学前から小学校高学年まで、休日には父の実家に通って多くの事を学んだ。今の生きる基礎は、幼い頃に二人から受けた教えだけだ。

わずかな時間が出来ると、少しずつ教えられた事を思い出しては調べて確認してきた。生き甲斐などないが、この作業はこれからも続け、生きる糧にもなっている。

二人の教えがなかったら、今日までの努力は無かっただろう。あの義母では即離婚したし、自営も直ぐに辞めたろうし、子供達の教育などにも興味が無かっただろう。二人との出逢いは、良かったのか悪かったのか。この歳になると、少なくとも頭の中だけは充実してる。


免許返納から話題がずれたが、二人の教えからいえば、多くの出逢いや出来事から成長は出来た。毎日の食事は、週に1回の食材の宅配を受け始めた。子供達の弁当や、朝夕の食事作りで調理の腕は鍛えられた。とりあえず何かの食材があれば料理は出来る。掛かり付け医に行くにも、5分も歩けばバスが使える。

ほとんどの書籍類は処分してしまったが、パソコンが百科事典の替わりになる。確認は図書館や、地方の資料館に行くのも気分転換になる。温泉の勉強もしたが、温泉地に行くのも別の気分転換になる。一人暮らしの利点、時間の自由を充分に使えば、生き甲斐というよりも、最後の最期まで遊んでいられる。必要以上の付き合い、家族や親戚近所との関わりに振り回されなければ、これ以上の自由と遊びは無いだろう。

自由な独居老人となると病気や怪我・事故など、家族は心配もあるだろうが、その事に関しては「尊厳死の宣言書」と「遺言書」を書いてある。治る見込みも無い治療は苦しむだけなので、疼痛治療以外は行わない事を書いてある。認知症の発症時には家よりも施設に入り、様々な病状に関してはその対処希望も書いた。

生き甲斐など無いが、自分の最期を自分で決めると、けっこう毎日が面白くなる。周囲がうるさいのは、自分が経験してないからだろう。同じ状況になれば、同じ様な事を考えるだろう。老人がおとなしく同居してるのは、迷惑を考えてるからだろう。

高齢者は、高齢者になるまでの経験から、意外と打たれ強くなってるものなのだが。

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