黄色いマーカーで線を引きたくなるような、思わず目に飛び込んでくるピカピカに光った言葉に出会うときがある。

僕は言葉フェチなので、そんなゴシック体で太字の言葉に出会う度に、「よっしゃ、捕まえた！」と、子どもがカブトムシを捕まえた時みたいに思わずガッツポーズしてしまう。

例えば、美容院で。

僕は30も過ぎ、この年になると、若い子を指名してあげたくなる。

理由は失敗してほしいからだ。実験台としてどうぞ僕を使ってくださいと思う。

自分も若い頃たくさん失敗してきた。そこで怒る人と、どんどん失敗していこうと言ってくれる人がいた。後者になりたいと思った。そのおかげで今の自分がある。

若い子の将来に一ヶ月間の髪型くらいならいくらでも懸けてやるというスタンスなので、うまくなるための失敗ならどんと来いだ。

そこである時、まだ2年目のデビューしたばかりの新人スタイリストさんを指名した。

いろいろ苦労話を聞きながら、近々、カットの大会(？)があると聞いた。毎年一つのテーマが決められていて、それに向けて今頑張って腕を磨いているらしい。


今年のテーマは何なのと聞いたら、大真面目な顔でこう言われた。

「攻めナチュラルです。」

攻めナチュラル…！！

ドクッドクッ……心臓の鼓動が早くなる。


「ち、ちなみに去年の課題は何だったの？」と聞くと、

また真剣な面持ちでこう答えた。

「アクティブショートです。」

アクティブショート…！！

毎月のように美容院へ行くけど、そんな言葉聞いたことも使ったこともない。

僕の頭の中にある"ヘンテコ言葉図鑑"に書き加えられる。ピロピロリンッ。捕まえた。

僕は言葉フェチなので、攻めナチュラルがどんな髪型なのかよりも、攻めナチュラルの対義語が気になってしまう。


攻めナチュラルの反対だから……守りファンキーとか？

守りファンキー。今生まれたにしてはいい言葉だ。

守りヤンキーでもいいね。

守りヤンキーって？

・遅刻のしないヤンキー
・一番前の席で授業を受けるヤンキー
・バッドで殴ったあとはちゃんと野球部の部室に返しにいくヤンキー

と、たくさん絵が浮かんでくる。いい言葉とはそういうものである。

また、夏祭りでのこと。僕の特技は金魚すくいで、確か最高で70匹近く掬ったことがある。

あるとき、僕が黙々とすくっていたら中学生がこんなことを言った。隣でやっていた元気で素早い"メダカすくい"のメダカよりも、金魚の方が弱っていたから出た言葉だろう。

「金魚はすくったときマグロだからすくいやすいね」

金魚はすくったときマグロ
金魚はすくったときマグロ
金魚はすくったときマグロ
金魚はすくったときマグロ
金魚はすくったときマグロ

魚を魚で例えるな

と思いつつも、ポイに乗った金魚が無表情な顔をして一切動かない絵が思わず浮かんでくる。確かに"マグロ"だ。

ピロピロリンッ。ヘンテコ言葉図鑑に書き加えられる。捕まえた。

最近、仕事中でもピカピカに光った言葉に出会った。

デートコース中、終電を逃してしまい、でもお客様は家に帰らなければならず、僕の泊まるホテルを手配してくれることになった。

「ほんとこのへんで一番安いホテルでいいですよ！僕、横になれたらそれだけで十分なので」

近所のカプセルホテルをすぐに予約してくれることになった。

「受付だけしたら私は帰るから、あとはゆっくりしていってね」

「カプセルホテルだけど……ファーストクラスとっておいたから」

カプセルホテルだけどファーストクラス
カプセルホテルだけどファーストクラス
カプセルホテルだけどファーストクラス
カプセルホテルだけどファーストクラス
カプセルホテルだけどファーストクラス




ピロピロリンッ。ヘンテコ言葉図鑑に書き加えられる音がする。

すごい、2軍のエースのような存在か。

2軍だけど圧倒的カリスマ。

学生時代はきっと帰宅部のエースだったのだろう。

「あの人、帰宅部なのに陸上部より足が早いんだよ」

痺れる。

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