氷室京介のこだわり①
【1,000分の1秒】
『PLASTIC BOMB 190.802』
『B・BLUE 165.990』
『LOVER’S DAY 111.870』
etc.
2023年は氷室京介ソロデビュー35周年のアニバーサリーイヤーである。ソロデビュー記念日である7月21日には、東京と大阪でフィルム上映イベントが開催されることも発表された。
コロナ禍で暫く集客イベントは中止または延期(氷室京介展<東京巡回展>はこのまま中止なのだろうか。ロザリオ盗難事件もありましたしね……。)となっていた中、久々のファンが集うイベントの開催。御本人は不在だけれども、そうれはもう想定内。ファンのみんなで勝手に祝わせていただきます!と、平日だけど頑張って日程を確保し、チケットも無事入手して一安心。というところで、イベントへの予習も兼ねて、7年前にWOWOWで放送された「KYOSUKE HIMURO LAST GIGS」のドキュメンタリーを今更ながら見返していた時のこと。上記の数字が画面に一瞬映った。
この数字が映ったのは、東京ドーム1日目公演を終えた氷室氏がスタッフらと残り2日のセットリストを相談する場面。
氷室氏が指さした先に「それ」――ホワイトボード一面に貼られた『曲名の隣に数字が書かれたマグネットシート』の数々――があった。(※1)
「KYOSUKE HIMURO LAST GIGS」東京最終公演のセットリストにその数字を当てはめてみよう。
お恥ずかしながら、私はさして音楽の造詣が深くもない。好きだと思った音楽をただ聴くだけの人だ。そのため、これらの数字が何を意味するかすぐにはわからなかった。気付いたのは「曲の時間でもないし……」と考えながら全ての曲名と数字をつらつらと見比べていった時のこと。「これ、BPMでは?」と。
ググってそれぞれの曲のBPMを調べたら、画面に映る数字とほぼ同じ。冒頭に紹介した曲を例に挙げると、PLASTIC BOMBが190、B・BLUEが166、LOVER’S DAYが112だそう。なので、この数字がBPMであることはほぼ間違いないのだろうが……小数点以下第3位まで指定されている、だと?
ちなみに、「DOCUMENT OF KYOSUKE HIMURO“POSTSCRIPT”」に収録されている「東日本大震災復興支援チャリティライブ KYOSUKE HIMURO GIG at TOKYO DOME "We Are Down But Never Give Up!!"」のリハーサル風景に映り込んでいた数字は、小数点以下第4位までの表記もございました。(※2)
あ、「CLOUDY HEART」が入ってる。
YOSHIKI氏がこの曲でピアノを弾いて参加する案があった(けど、『最低限のセットで最小限の照明で』というチャリティライブのコンセプトにグランドピアノを運び込む段取りがそぐわなかったからという理由で断念となった)そうだが、一応リハはやっていたのか。
独立組の布袋氏と松井氏が発したコメントの影響で(だと思う。文脈的に。氷室氏は言葉を濁していたけれど)「状況が複雑になった」ことにより、高橋氏がアンコールで叩く案がポシャったそうだが、もし当初のアイデアのとおりオファーがなされ、高橋氏がゲスト参加していたら、NO.N.Yを叩いていたのだろうか、なんて想像してみたり。まぁ、妄想だけならタダなので。
もっともこの2つのプランが実現していたら大層盛り上がっただろうけど、氷室氏が一番フォーカスしていた”被災地支援”ではなく、芸能ニュース的な焦点が当てられたであろうことは想像に難くないから、結果的にこれで良かったのかなと思う。
それはさておき、JUSTYのギターソロが「182.001」、PLASTIC BOMBが「 190.8020」、HONKY TONKY CRAZYが「102.5750」って、なんじゃあこりゃああ!
いや、PLASTIC BOMBもHONKY TONKY CRAZYも小数点以下第4位は「0」なので、実質小数点以下第3位と同じなのだが、全曲小数点以下第3位で揃えている「KYOSUKE HIMURO LAST GIGS」の場合と異なり、このチャリティライブの場合は基本表記が小数点以下第2位なわけで。それをわざわざ第4位まで表記した意味を考えてしまうと……。
正気を疑うこの数字。
確かに、御大がインタビュー等々で「○○ミリ」前とか後ろだとか度々口にしているのをよく存じ上げておりますが。でもこれ、万全の状態で挑むレコーディングならまだしも、ライブなんですよ?
驚嘆、というよりむしろ恐怖レベルの指示にしか見えないが、御本人は、自分の思っていたとおりにズレなく合わせて歌うのは得意だと常々豪語されていらっしゃった。
「3ミリセックぐらいのずれでぴったり合わせて歌うのは寝ててもできる」と簡単に仰いますがね、3ミリセックは1000分の3秒。音の速さは、大気中摂氏15度で秒速340メートルだそうで。つまり、3ミリセックのずれとは、1.02メートル先で相対する人が発した言葉が自分に到達するまでの時間のずれに等しいということ……?
そんなのわかるかー!
しかしながら彼の君は、それを「寝ててもできる」と宣う。そして氷室氏のライブをサポートしてきた面々もそれを裏づける証言をしていらっしゃる。
【サポメンの証言】
ところで上記引用記事において、「感覚が緩くなるのが嫌で、酒をやめた」と真矢氏が仰っているのですが……あれ?確か地方で行われたライブの打ち上げで真矢氏達氷室バンドのメンバーでお酒を過ごされて朝帰り、宿泊場所のホテルに辿り着いたところで、体力作りのために朝ランニングにでかけようとした氷室氏(打ち上げ不参加)とばったり出くわして気まずい思いをした、というエピソードを何度か聞いたことがあるような……。お酒はいつやめたのだろう。
果たしてこちらの朝帰り事件の真偽は如何。(笑)
まぁでも、この朝帰り事件は本田氏も話していらっしゃったことがあるので、多分本当にあったことなのだろう。氷室氏も真矢氏相手であればかなりいじる(サポメンの皆様と一緒に出演されたラジオでもいじりまくり)ため、真矢氏絡みの面白エピソードは色々伝わっている。プレイはあんなにもパワフルなのに、ドラムを叩いていないときは(ビジュアル系を標榜されているバンドメンバーに対して失礼を承知で言わせて頂くと)ゆるキャラっぽくて、大変親しみを覚えるというか和むというか。プレイだけでなく、そのキャラクターも稀有な御方。有名な客席遺影事件(というほど大袈裟なものではないが。なお、このエピソード自体はとても良い話)の時も、会場全体がしんみりした空気に包まれていた中、アンコールで呼び込まれた真矢氏が登場しただけで何となく笑いが起きたりもしていました。
ちなみに、以前真矢氏のドラムセミナーに参加された方の話によると、氷室氏からの1000分の1秒単位の指定があったにもかかわらず、ライブでうっかり間違って叩いてしまい、「どうせ気付かれないだろ」と真矢氏が内心高をくくった瞬間、氷室氏が振り返って真矢氏をガン見、ライブ終了後「今日、間違えたでしょ」との指摘があった、と真矢氏が話されていたとのこと。どうやら真矢氏はこのエピソードを彼方此方で語っている模様。……これ、ネタではなくて本当にあった話なんですね。本当にライブでも1000分の1秒を聞き分けて、それを自分にも相手にも要求するのか。(驚)
(2023/09/11 今井隼氏の証言も追記)
なお、2010年から2012年にかけて氷室氏のツアーにサポートキーボーディストとして参加した今井隼氏も、ゲスト出演したラジオ(※7)で「氷室さんのツアーどうだった?厳しい?」と問われて、同様に氷室氏の音に対する拘りを語っていた。(録音もしてなければ、話が終わってから概要のみを慌てて書き留めただけのため、一言一句正確に書き起こせてはいないがご容赦を。)
それにしても2ミリセック前とか1ミリセック前とか……。要求する方も要求する方だが、応えられる方も応えられる方ですわ。なんてシビアな現場なのだろう。
そういえばDAITA氏が氷室氏の現場に初めて呼ばれる際に提示された「サポートギタリストの条件」について、「非常にハードルが高かった」と以前ラジオで語っていたっけ。「そんなのできるギタリストいない。もしいるとしたら現役でバンドをやっている」とも。で、その条件を満たしていたのが、丁度バンドを解散したばかりのDAITA氏くらいしかいなかったと。ただDAITA氏本人はどうせ決まるわけないと思い、すぐ海外にレコーディングへ行ってしまったのだが、帰国後もまだ決まっておらずにオファーが残っていたから引き受けたとのことであった。(※6)
プロと言われる人々でも、氷室氏の要求に応えられるのはもしかしたらほんの一握りなのかも。まさにレベチ。
とはいえ、氷室氏も音楽キャリアの最初からこんな常軌を逸した細かい要求をしていたわけではない。
BOOWY時代はそもそもイヤモニすらなかった。
ではいつ頃からそうなったのか、どうしてそうするようになっていたのか、というような話は次回で。
氷室氏が一番こだわっているのは何かとか、こだわったからといって必ずしも聴き手が満足する作品が出来上がるわけではないこととか、それがわかっていてもどうしても譲れない部分があることとか、あれもこれもと色々とエピソードを入れていったら、まだ途中なのにあまりに冗長になってしまってどうしたものかと。ついでに何か全然違う話になりそうな気配も。とどのつまり、この氷室氏のこだわりが卒業宣言にも繋がってくるのだよなぁ。どこまで入れるか、どこでやめるか。
そんなわけで、軌道修正して本筋ではない枝葉の部分はばっさりカットするか、折角書いたのだからそのまま最後まで突き進んでいくかは考え中。
【出典・参考資料】
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