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三河宇宙造船所 宇宙への軌跡 第10回「安定と不安定の往来」

1964年10月26日 月曜 陽の沈む前
トレイエット・カーマンの占い付近に到達したジェバダイア飛行士はクルーレポートを作成。
「対流圏内での姿勢制御は最悪に忙しい。ロケットに搭乗しハッチを締める前までの時間、渥美半島の海を眺め、そこに『時間だ』と通達が来たらそれまで一日分の仕事をその瞬間、数分間数時間に圧縮したような分量だ。見えない空気の濃密な壁が少し方向を変えただけで嫌がり気難しくなる。一つ機嫌を損ね、宥めると違う方で暴れ始める。機嫌をなだめるためにこっちはピッチややヨー、ロールをゆっくりしかし、素早く操作し、立体内のどちらかに傾かないよう機嫌を取りながら方向を修正しないと。そもそも空気と燃料を混ぜ、推進力に変えるのにロケットは向いていない。ここはプロペラやジェット機の世界だ。空気、風向き、地球の重力。オーケストラの世界で一人ギターか何かのアンプを最大量にし喚き散らしていても、演奏を終えると風や重力の複合にはあがなえない。カーマンの占い結果は私には判る。『こんな低い高度で飛ぶな。以上』 以上」
フォン博士はその報告書を読み「詩になりそこなった皮肉」と付け加え「百式計画へ一歩ずつ進んでいる証でもある。障害をどう乗り越えるか」とも付け加え上層部へ提出した。

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写真:KSPedia ピッチ ヨー ロール の3軸で凄く3D!

試験飛行を終え、次に向け反省と改良が繰り返される。
その中、資金調達先をジーン・カーマンが見つけてきた。

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写真:ロッコーマックス・グループ 何か芸能事務所とかで存在してそうな屋号だね。

お、何やらロケット棟でもめてるぞ。ジーン・カーマンへジェバダイア飛行士が食って掛かっている。

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写真:ゴライアス・ナショナル・プロダクツ社からの依頼。社名の最後がプロダクションだったら芸能事務所らしさが出るのに。兎に角、巨人がLV-T45エンジンのテストデータを欲しがっている。このエンジンを使って打ち上げる物好きは今のところ世界広しといえども我が社に限られている。

ー ロケット棟 オフィース 通称「反重力」 -
「だからあ!」とジェバダイア飛行士。
「でも、対流圏外だぞ」とジーン・カーマン。
「対流圏外でも空気はあるの! もっと速い速度で飛べってなら出来るよ。なんだよ200m/s~370m/sって」とジェバダイア飛行士はそう言いながらロケット棟オフィース、机上に置かれた巨人軍ことゴライアス社が指定してきた仕様書を一指し指で押さえつけながら、目はジーン・カーマンの顔へ向け、彼の顔を強く睨んだ。
「対流」と言い「ズズズゥゥ」っとヌルたくなったコーヒーをマグカップから吸う音を立て、フォン博士が対立している二名の間、向かい合う二名の机の間、四角い長方形の机に参加し鼎談と至る。
「過去最長の調査先まで飛んで、高度も、速度も指定。お前が飛んでみろ」とジェバダイア飛行士。
「じゃあ、君こそゴライアス社に『我が社はこの速度ではなく、此方の方が適切だと考えています。これで如何でしょうか?』と説明してくれるのか? こっちが飛べば支援してくれる。相手は日本のタニマチじゃないんだが。何処に居るんだそんな相手は?」と、ジーン・カーマン。
ロケット棟オフィース内は高度0m 速度0m/sで静止された室内は対立する空気の壁が二つ。
「いや、これ出来そうだと思う」とフォン博士は机上の依頼書に書かれた仕様書を読みこみながら答えた。
「ロッコー社は19,600m以上を指定しているだけで」とフォン博士。
「グレシン・カーマン上空。行ったこともない」と、ジェバダイア飛行士。
「OK じゃあ高度の問題は我々の実績では問題ない。問題は距離」と、フォン博士は一拍置いて問題を鼎談の三名、自身も含め、自身にも言い聞かせるよう口にした。
音もなく、何度も頷くジーン・カーマン。
「次はゴライアス社。うーん、こちらはエンジンテストのため色々と言ってきてるな」とフォン博士は言いながら、ゴライアス社の仕様書を手に取り、ホワイトボードへ記載していく。
・ゴライアス社
目標:LV-T45 スウィーベル 液体燃料エンジン テスト
A)高度:28,000m(28km) ~ 33,000m(33km)
B)速度:200m/s(720km/h) ~ 370m/s(1,332km/h)

「ふむ。成層圏の入り口を潜ってからオゾン層の間か。悪くない範囲。ああ、ロッコー社の要求仕様書を」とホワイトボードから振り返り、そう言うフォン博士へジーン・カーマンが要求仕様書を手渡し、再度ホワイトボードへ書き込むフォン博士。

・ロッコー社
目標:グレシン・カーマン上空のレポート報告
C)高度:19,600以上(19.6km)

「ロッコー社の指定高度は到達可能。そしてゴライアス社の要求仕様と干渉しない。つまり、目標地の距離。と」 フォン博士。
「成層圏の範囲内で収まっている。ジェット機じゃ苦しいだろう。無茶苦茶な要求でもない」
自分が引っ張て来た依頼者と依頼内容、そして実現可能さを感じ細かく頷くジーン・カーマン。
「速度は」と、ジェバダイア飛行士。
「そうだ、速度。問題は速度と距離。高さは達成可能。速度の範囲は十分な余地がありそうだが、一度加速し、機動を維持変更するのに我が社のロケットはまだまだ未発達だ。高高度で加速をしろと言うなら摩擦熱などの問題を除き、まだ容易い。只管加速。それで済む」と、フォン博士。
「ほら見ろ。ここと違って向こう(空)で地に着いた安定なんて無いんだよ」とジェバダイア飛行士はジーン・カーマンのペースになりつつあるこの場、反重力を更にひっくり返す。
「どうやって減速するんだよ。空で。起動を変えるだけで暴れ出すんだぞ。一度上がったら後は落ちてくる中で」と、頷いてばかりのジーンカーマンへ捲し立てるジェバダイア飛行士。
「そう。落ちてくるまでの間」と、フォン博士はそう言い、ホワイトボードへこの目標への達成方法起動図を書き始める。

「まずは」と言いながら下から上に線を書き「上昇」
「次に、空気の壁」と言いながら縦線へ直行する波打った横線を幾つか重ね、「この我々に必要な濃密な空気の層を突破」と言い、下から上に伸び止まった線の続きを足していく。
「一度燃焼を止め、垂直角を目標である、ええっと」と言い、片手に持ったロッコー社の仕様書を確認し、「グレシン。上空方向に角度を変更。そして最大燃焼。そしてエンジン停止」と言い、垂直線から斜めの線へ。角度を変える。
「いいか、ここまでで燃料を3/4は残すんだ。大切な燃料だ」と言い、放物線角度を緩やかに変化させ描く。
「高度 ちょう せい も かね」と言いつつ「速度調整も」と言いながら計算式を書いていくフォン博士。その背中へ「じゃあ、上空で速度を維持しながら200~370で飛べってことかよ」とジェバダイア飛行士。
「それが可能ならば」とフォン博士は描くのを止め、振り向きながら言う。
「しかし、そんな超超制御方法、そんなコンピューターなどは無い。君がそれを出来るならそうして欲しいが、我々には便利な物がある。慣性の法則と重力だ」 そうフォン博士は言うと、またホワイトボードへ向き合い続きを描く。
「いいか、濃密な空気、空気密度によって我々の空飛ぶ鉛筆は制御できなくなる」とフォン博士。
「そうだ」とジェバダイア飛行士。
「だったら上空で変えればいい。慣性の法則の運動エネルギーを利用し目的地へ向けて移動。そして高度。上空の空気が薄い高度で姿勢を変えても、慣性の法則、速度をも邪魔する空気の壁も薄い」とフォン博士。
「減速は? パラシュートで慣性の法則を包むのかよ」とジェバダイア飛行士。
描くのを止め、ホワイトボードを向いたままフォン博士はこう言った。
「燃料を残しておいて欲しい」
軌道概要図を描くのを止め、空いているスペースに方向を示す矢印を描き始める。
「これ →→→→→→→が推進力と慣性の法則を合成した画期的な発明」
「そして→→→→→→→に←←←←←←を加える」とフォン博士。
「は?」 ジェバダイア飛行士。
「正確には→→→→→→→に↖↖↖↖↖という角度になっていくと思う」とフォン博士。
「つまり?」とジーン・カーマン。
「空の上で落下が始まりだしたら向きを変える。進んでいた方向へ向いた機首を今迄飛んできた方向へ。そして落下と慣性の法則へ必要に応じてエンジンを燃焼させ、高度と速度を維持する。低高度なら無謀だが、空気も薄く、そして落下するまで余地がある『高度』がある故に可能」とフォン博士。
「ロケットは上空へ飛ぶべきならば、その上で何かを行えば理に適う」とフォン博士。
「やったな」と笑みを浮かべ一人拍手を打つジーン・カーマン。
「飛ぶの俺だぜ」 ジェバダイア飛行士。
「そうだ。貴重な燃料を大切にしろ。打ち上げには燃えっぱなしのでくのぼうRT-5とRT-10を使用する。その後は君の燃料調整が有効になるLV-T45」とフォン博士。
「安定している固体燃料と不安定に安定している液体燃料を組合す」とフォン博士。
RT-5の設計者、宗弐郎が居さえすればこの時、この計画は中止になったであろう。彼はその時、応接室で客人への応対をしていた。

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写真:三河4.1号 当時我が社最大のロケット。主翼の取り付け位置に苦労しましたよ。

三河4.1号
1)RT-5 フリー 固体燃料ブースター2基搭載
2)RT-10 ハマー 固体燃料ブースター2基搭載
3)LV-T45 スゥイーベル液体燃料エンジン 1基搭載
4)小型リアクションホイールを機首に搭載

1)~2)について
0m 0m/s 静止時から持ち上げるのにおあつらえ向き。バケツを燃やせ!
3)について
液体燃料と液体燃料エンジンの習熟を重ね、ついに固体と液体を組合すことに。これで空がまた一歩近づいた。
4)について
幾ら空気の壁が薄いと言っても、念には念を。アンチロール、姿勢制御へ向けて。

「もし何か問題があれば脱出しろ。リアクションホイールを取り付けてある」とフォン博士。
「これで飛ぶんですか?」とジェバダイア飛行士。
「そうだ、頑張れ」とフォン博士は言い、ジェバイアの被ったヘルメット頂部をトントンと叩いた。


1964年11月8日 日曜 午後2時
三河4.1号
https://www.youtube.com/watch?v=gWyt6mO8JqA


次回予告『師走の巨人』

バイクを買うぞ!