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永山瑛太の演技力が魅せる光と影:過去の代表作から考える

木曜22時フジテレビ系列にて、「あなたがしてくれなくても」が、放送中だ。2組のカップルを軸に、セックスレスをテーマにした大人の恋愛ドラマ。主人公の吉野みちを奈緒が演じ、その夫である吉野陽一を永山瑛太が演じる。

放送中は「#あなたがしてくれなくても」がTwitterのトレンドに入り、TVerでの見逃し配信再生数は記録を残すなど話題を集めている。特に、瑛太が演じる陽一の「そんなにしたいの?」「性欲強くない?」などの言動への注目が高いようだ。

セックスレスに向き合わないずるさと逃げが滲み、流されるように妻以外の女性と身体を重ねてしまうどうしようもなさ。それでいてどこか抗えない色気を含むずるい男性像を見事に演じている。

昨年は、フジテレビ系列「エルピス-希望、あるいは災い-」で、怪しい雑貨店の店主、「ミステリという勿れ」では、菅田将暉が演じる久能整と、不思議な縁が繋がれていく物静かで謎に包まれた青年・犬堂我路を演じた。一方で、2021年はTBS系列「リコカツ」で、古い考えを持ちながらも、徐々にパートナーシップをアップデートさせていく自衛隊隊員役をコミカルに演じている。

瑛太の芝居は、怪しくて、謎に包まれた「影」の役も、コミカルで明るく、優しい「光」の役も魅力的にしてしまう。彼のこれまでの代表作を振り返りながら、永山瑛太のこれまでと演技力について考えたい。


デビュー時期に演じたコミカルで明るい青年役

永山瑛太の名前を知ったきっかけに、2003年放送フジテレビ系列「WATER BOYS」、2004年放送TBS系列「オレンジデイズ」をあげる人が多いのではないだろうか。

男子高校生がシンクロナイズドスイミングに取り組む「WATER BOYS」では、生徒会長で優等生の田中昌俊を演じた。初めは、シンクロを馬鹿にするなど優等生で少し嫌な役として登場するも、徐々に真剣に取り組み始め、勉学とシンクロの間で悩むなど、人間らしい一面を見せるとても魅力的な役だ。近寄りがたいTHE優等生ではなく、真面目な人物だからこそのギャップが生むユーモアを表現し、憎めない愛おしいキャラクターとなっている。悩みながら成長するという人間としての魅力にも溢れ、瑛太が演じた「面白い役」の代表だ。連ドラ放送後は、瑛太が演じる田中昌俊を主人公としたスペシャルドラマが放送されていることからも、この役の人気が伺える。

大学生の青春群像劇「オレンジデイズ」では、妻夫木聡演じる主人公・櫂と柴咲コウ演じる耳が不自由なヒロイン・沙絵が出会うきっかけを作り、恋に奥手な大学生・矢嶋啓太を演じた。沙絵の友人である茜(白石美帆)に片想いし、分厚いラブレターの文面に悩み続けたり、沙絵と会話するときの大ぶりな手話など「オレンジデイズ」のユーモア部分を担う重要な役だった。愛されキャラ、いじられキャラでありながら、主人公が悩む時には、そっと手を差し伸べて、大事なアドバイスを告げる欠かせない役。この愛すべき役をさらに魅力的にしたのは、瑛太の演技力だろう。

瑛太が魅せた衝撃の意外性:アンフェア

瑛太がいわゆる「影」の役への幅ができたきっかけは、2006年放送フジテレビ系列の警察ドラマ「アンフェア」だと考える。

瑛太が演じたのは、篠原涼子演じる主人公・雪平夏見のお目付け役で部下の安藤一之。相棒として、型破りな雪平の面倒を見る温厚な性格でありながら、捜査本部の体面を気にするような捜査方針に反発するなど、熱い一面もある青年だ。徐々に築かれる雪平との信頼関係と、飾らない会話。雪平と安藤の軽快なやりとりも「アンフェア」の魅力の一つだった。

雪平と安藤の信頼関係を魅力的に描きながら、「アンフェア」の最終回を迎える。実は作中で発生した3つの事件すべての黒幕は瑛太が演じる安藤だったのだ。当時この結末に衝撃を受けた視聴者は、数多くいただろう。安藤は、雪平が過去に射殺してしまった青年の兄のような存在として育った過去があり、復讐のために雪平に近づいていた。

この事実が明らかになる最終回の瑛太の芝居は目を見張るものがあった。安藤の中で、これまで抱えてきた雪平への恨みと、雪平と出会ってから築いた関係を通して、徐々に芽生えた好意が揺れ動く。安藤は、過去に弟が亡くなった場所で、雪平に射殺されることを望み、命を引き取った。

復讐心を爆発させ、事件の真実を語りながらも、芽生えてしまった好意との間で揺れ、苦しむ瑛太の芝居。当時の私は、小学生ながら引き込まれすぎて、涙したのを今でも覚えいている。

広がっていく役の幅

瑛太はここから役の幅がグッと広がっていく。2006年には「のだめカンタービレ」では、エレキヴァイオリンを弾き、ロック好きのヴァイオリニスト・峰龍太郎を原作マンガから飛び出してきたのではないかと思うほど、見事に好演。2008年には自身初の大河ドラマ「篤姫」で、肝付尚五郎(小松帯刀)を演じた。

2008年「ラストフレンズ」では、過去のトラウマからセックス恐怖症を抱えながらも、主人公に思いを寄せる美容師、2011年「それでも、生きてゆく」では、殺人事件の被害者家族として、悲しみに包まれ、それでも前を向こうとする複雑な感情を抱える青年を演じた。

瑛太は見る人、見る時代によって代表作と感じる作品が異なる俳優だろう。「光」を放つコミカルな役も、「影」を持ち、謎に包まれた役も見事な演技力で表現し、どの役においても濃い存在感を残す。

2021年12月のインタビューでは、「すべての作品が代表作になるように全力で取り組む」、「時代ごとに俳優としてのスタンスを柔軟に変化させている」と語る。どの作品でも、自分のできることに全力で取り組むこと、固執し過ぎずに作品の雰囲気や自分の環境に合わせて柔軟にスタンスを変えていることが、各作品で爪痕を残し続けている秘訣ではないだろうか。

名監督とのタッグ作も

「あなたがしてくれなくても」後の瑛太出演の期待作は6月公開の映画「怪物」。「万引き家族」の是枝裕和監督、「花束みたいな恋をした」の脚本家坂元裕二のタッグ作で、瑛太は小学校教師を演じる。瑛太は過去にも「それでも、生きてゆく」や「最高の離婚」などで、坂元作品に出演し、どちらも話題作だ。映画「怪物」では、瑛太のために坂元が当て書きした役を演じる。過去に出演した二作品のファンは必見だ。

巧みな演技力で「光」も「影」も演じ分ける永山瑛太も40歳を迎えた。今後どんな人物を演じ、感情の揺れ動きを表現するのか、作品に深みを与えるのか。今後の活躍にもさらに期待したい。


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