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海外の教育大学院に行くには?③…将来 -( 思い × 経験 × スキル )= 学びたいこと

日本は急に寒くなってきて、西海岸が若干恋しいです。(1月2月はスタンフォードも割と寒いですし、毎日のように雨でしたけど。)

さて、Statement of Purposeの書き方の続きですが、前回
①「大学が求めているもの」に即して書く。
について書いたので、今日は

②思い×スキル×経験で、現在の自分のパッションと優秀さを伝える。
③大学生活中はもちろん、その後何をしたいか考えて書く。

について書いていきたいと思います。

④質問文で聞かれていることに答える。
⑤アメリカ英語圏の人の添削を受ける。

はおまけのようなものなので、①②③がしっかりしていれば後からできます。

ちなみに、実はアメリカでは、学部の選考もおおむね大学院と同じシステムで、Statement of Purposeを中心とした書類選考です。国語(英語)と数学の共通テスト的なものはありますし、「生物」「日本語」など自分で科目を選んで受けるAdvanced Placement Examsというものもありますが、Statement of Purposeをはじめ、試験以外のものも選考に必要になるという点は、大学院と同じです。
学部の合格者のエッセイを集めた本もグッズショップに売っていましたし、Stanford essay sampleとかで検索すると色々出てきます(本物かどうかは保証できませんが)。


さて、就職活動でも(本来、日本の大学受験などでも)似たようなものだと思っているのですが、新しい組織や場所に行く時に重要なのは、ざっくり言って

〇自分は組織で活躍・貢献できる。
自分は組織の価値観に合っている(あるいは、もっと組織を良くする価値観をもたらせる)。

というのをしっかり示すことだろうと思います。大学院での「活躍・貢献」を更に細分化すると、

1.在学中にしっかり学べる、授業やその他の場を活性化できる
2.卒業後活躍する

というあたりになってくるでしょう。学部時代の成績や英語力は1の目安になるという意味で重要ですが、別に、日本的な授業で成績がよくなくても、「授業を活性化できる人間である」ことを示す方法はいくらでもあります。その1つが「経験」をしっかりStatement of Purposeの中で書くことでしょう。前回書いたような「大学が求めるもの」に関する経験を積んでいることや、教育大学院を受けるなら、日本の教育についてこんなことを知っている・体験している・発信してきた、というのも、「授業を活性化できる」人間である証拠に十分なると思います。

2は大学の評判の源泉ですから、1に負けず劣らず重要です。「学びたい」「留学で世界中の多様な価値観に触れたい」という思いが留学志望の出発点である人も多いでしょうし、「学んでから将来のことを決めたい」というのも自然な考えだと自分も思うのですが、それでも、出願時点での自分のキャリアプランを描けていることはとても重要です。

書き方は「将来こんなことをしたい」「こんな世界を実現したい」ベースでもいいですし、「こんな自分になりたい」「こんな職業に就きたい」というトーンでもよいだろうと思います。大事なのは、それがなぜ自分にとって/世の中にとって重要なのか?を含めて書くことで、これは、文化も言語も前提知識も全く違う国の人に伝わるようにするためには結構なハードルがあります(だからアメリカ人に見てもらうのが必須です)。

教育で言えば、上述のように、アメリカの大学入試は日本のものほどテスト志向でないので、「子どもたちのゆとりが~~」といった話をするには、結構きちんと前提を整理する必要があるでしょう。また、日本では、義務教育の教科書は無償でもらえますが、アメリカでは、各学区や学校の判断で買ったり買わなかったりで、10年前の教科書がそのまま置いてある学校や、生徒が持って帰れないようなところも存在します。そういう「格差」問題が最も大きなイシューの一つであるところに対して、「アメリカは自由でいいと思うから、その教育を日本に持ち込みたい」みたいなことだけを言っても、説明不足でしょう。

ですが、どれだけストレスフルでも、この「なぜそうしたいか/なぜそうなりたいか」のクエスチョンは出願において必ず明確にしておく価値があります。なぜなら、そこに表れる「思い」が、「自分は組織の価値観に合っている(あるいは、もっと組織を良くする価値観をもたらせる)」ことを示すことにつながるからです。

重視されている「価値観」は、大学によってプログラムによってバラバラです。スタンフォードでまず大事なのは「自分が何をしたいか、どうありたいか」だと以前の記事で書きました。また、同じスタンフォード内でも、教育大学院のプログラム間で比べるとキャラクターはバラバラ、というのも前回書きました。

大学による違いが象徴されていると思うので紹介すると、スタンフォード教育大学院の理念は ❝Improving lives through learning❞です。

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対して、ハーバード教育大学院は❝Learn to Change the World❞

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…なんとなく、スタンフォードの方が、「あなたの人生のために学びなさい」、ハーバードの方が「世界のために学びなさい」という雰囲気、ですよね?

ハーバードの学生とそんなにたくさん話したことはないので、雰囲気以上のことは言えないのですが、とにもかくにも大学によって価値観はバラバラなので、きちんと自分側の価値観を明確にしておかないと、自分に合った大学に合格しません(ではどうやって「合っていそうな大学」を見つけるかは別途書きます)。

いずれにせよ、重要なのは、「なぜそうしたいか/なぜそうなりたいか」を含めて、「将来やりたいこと」を書くことです。これらがクリアになれば、もうあと一息。「それってあなたに本当にできるの?」という疑問にきちんと答えるだけです。「将来は国の大臣になって○○したい」と書いて出願して受かった人を実際に知っているので、本音で自分のしたいことを書けばよく、自信家になって、実現可能性を示しましょう。(「できそうなこと」に合わせてやりたいことを小さくすると、ワクワクしないものになるので、やめた方がいいです。)

そのために一つ有効なのが、自分の「スキル」を示すことです。プログラミングや教育指導法などの分かりやすいものでも、「リーダーシップ」「先を見通す力」「周りを巻き込む力」などの抽象的なものでもいいので、「この人は、将来やりたいこと、できそうだな」という要素が、Statement of Purposeの中にちりばめられているといいでしょう。自分の「経験」に裏打ちされているとなお説得力があると思います。


…さて、ここまで読んで、聡明な方なら、

「将来やりたいことがあって、そのための思いと経験とスキルが揃っているなら、なんで留学する必要があるの?」

という疑問をお持ちかと思います。

正直そのとおりです。

やりたいことを実現するために、完全に必要なものが揃っているならば、留学する「必要」はありません。日本のように、修士号の取得によって給与が上がることが少ない国ではなおさらです。英語力だけが目当てなら、海外で働く道も同時に探せばいいでしょうし、少なくとも語学学校の上級コースに行った方が圧倒的に安く、日本人の平均的英語力を超えられます。

それでも、必要性にかかわらず留学「したい」というのが、自分を含めた日本人の留学志望者の大多数の思いでしょう。自分も、その思いが無かったらどこにも受かっていない気がします。一番大事なのはそういう理由のない「学びたい」気持ちだと思います。

…ですが、留学「したい」とか「英語力を伸ばしたい」というだけなら、では大学側は、あなたを採る「必要」はない、ということになります。(前回も述べましたが、大学の方から入ってくれと頼みたくなるような、既に有名な人や、圧倒的な優秀さがある人は、このnoteのスコープ外です。あと、研究職を目指すなら、学ぶ「必要」は明確なのですけど、修士の留学だと、他の国も含めて、そうでもない人の方が多いです。)

したがって、最後の仕上げとして重要なのは、
1.留学して何が学べると考えていて、
2.それが、将来のため、今の自分にとってどう必要なのか
を一本の糸につなげること
です。

1は大学の授業情報のサイト(スタンフォードならこちら)から想像したり、Google Scholarで気になるトピックを打ち込んで、論文の著者の所属先を探したり、ニュース記事でコメントしている教授の情報を調べたり、と、ネットでも十分情報を得られる時代です。

とはいえ一番いいのは卒業生・在校生の話をきくことです。自分の場合、日本人の卒業生がいたので色々話をきいたところ、「教育経済という分野の草分け的存在が今でも授業をやっている」という話を聞くことができましたし、授業の選び方のスタイルなどを聞いて、なんとなく自分に合っているかもな、と思ったりしました。

複数大学の人の話を聞けば、大学ごとの特色もイメージがつかめるでしょうし、周りにそういう人がいなくても、ツイッター等々でつながれる時代です(事実、このnoteは、ツイッターで連絡いただいた方からの質問を踏まえながら書いています)。教授の連絡先が公開されていることも多いので、直接「こういうことが学びたいのだけど、可能ですか?」と聞くのもよいでしょう。やりたいこと、自分の思い・経験・スキルが整理されていると、なお有意義な話が聞けると思います。

なお、この「留学で学べると考えていること」は完全に正しいものである必要はありません。自分はStatement of Purposeで、

・教育の資源配分の効果を定量的に検証できるようになりたい
・「社会人の学び直し」を促進するための知見を得たい
・柔軟に授業が取れることを活かして、Learning Design and Technologyの授業でエドテックのことも学びたい

というようなことを主に書きましたが、2つめの「学び直し」に関することは正直全然学べませんでした。笑。

また、授業や教授に一切興味がないようでは、大学院に行く必要はなかなか説明できないと思いますが、キャリアアップのための人脈とか、クラスメイトとの議論から得られる知見とか、インターン経験とかも、その必要性が論理的に説明できているかぎり、立派な「学び」の一つです。「学び」は広くとらえればよいと思います。

こうして「学べると考えていること」と、将来における必要性とを繋げられたら、

②思い×スキル×経験で、現在の自分のパッションと優秀さを伝える。
③大学生活中はもちろん、その後何をしたいか考えて書く。

は完了です。これを一行で書くと、

将来 -( 思い × 経験 × スキル )= 学びたいこと


となるのかなあ、と思います。留学を検討されている方は、この式が全部埋められるか考えるとよいと思いますし、左辺の計算結果(?)がゼロなら、留学する必要はない、のかもしれません。


…これは余談になりますが、心の奥底のことや、実際に学べることは、行ってみないとわからない部分も大きいです。自分自身、以前そう書き残しています。

本当のところは行ってから予想もつかない体験が待っている…という前提で、「いま時点での自分なりのロードマップを最大限まとめたもの」が Statement of Purpose だ、と言えると思います!


次回はテクニカルな部分について少しだけ補足した上で、
・推薦状
・レジュメまたはCV(履歴書)
・TOEFL/IELTS
・GRE
・インタビュー(自分は無かったですが)
・出願先選び
などについて順次書いていきたいと思います。いつもお読みいただいてありがとうございます!

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