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海外の教育大学院に行くには?②…大学院に「行きたい」だけでなく、「大学が求めているもの」を考える

前回予告したとおり、海外の教育大学院の行き方・選び方などについて、自分自身の経験を中心にしながら書いていきたいと思います。

できる限り汎用性のあることを書きたいと思っていますが、前回もお伝えしたとおり、より専門的な視点から、より多くの人に当てはまるアドバイスを得たい方は、プロの留学コンサルに相談してください!

海外留学に限ったことではないですが、成果を出す近道は
 ①求められているものと
 ②水準を知って
 ③自分がそれに近づくよう動く
というステップだと思います。敵を知り己を知れば…ということわざもありますね。何も意識しなくても正しい方向性が分かる人や、世界の方から近づいてきてくれる人もいるでしょうが、そういう方はこのnoteを読まないと思うので、自分と同じような「よくいる人」を念頭に置いて書いています。

海外の大学院を目指すときは、①②③のステップは特に重要だと思っていて、なぜなら「大学院」と聞くと、日本の大学受験(共通テストを受けて、各大学でまたテストを受けて…)に近いものを連想する人が多いと思いますが、アメリカでは全く別物で、どちらかと言えば、就職活動に近いものだからです。日本の大学受験のようなマインドで(=①をよく知らずに)準備をしても、成果は出ません。これは修士もPhD課程も同じです。

具体的にどう違うのかというのは、抽象論より、出願において実際に必要となるものを見ていった方が早いと思うので、順にご紹介します。

Statement of Purpose

まず、アメリカの大学院は、基本的に書類選考です。書類を見て「この人の話をもっと聞きたい」と大学のAdmission(入学)担当が思えば、面接がセットされることもあります。MBAなどでは、ほとんどの大学で面接があると思いますが、教育大学院や公共政策大学院では、あまり面接をするという話は聞きません。自分も面接は一度もしませんでした。

書類で一番大事になると言われているのがこの Statement of Purpose(SOP)。文字通り、「私があなたの大学に入る目的」を宣言するものです。お題や長さは大学によってまちまちで、スタンフォード教育大学院の場合は以下のような設問、回答はシングルスペース(狭い行間のこと)で2枚以内でした。

Describe succinctly your reasons for applying to the proposed program, your preparation for this field of study and why our program is a good fit for you, your future career plans, and other aspects of your background as well as interests which may aid the admissions committee in evaluating your aptitude and motivation for graduate study. You may indicate potential faculty mentors as part of your study and research interests.

出願の理由、この領域を学ぶ準備、我々のプログラムがあなたに合っている理由、将来の計画、その他のバックグラウンドや、入学審査担当があなたの適性やモチベーションを評価するに当たって役立つであろう興味関心事項について簡潔に記してください。勉強や研究の興味関心の一部として、あり得る指導教官などを示すこともできます。

聞き方は大学院によって色々で、「なぜこのプログラムか」に比重が置かれていることもあれば「将来何がしたいか」が大事なこともあります。それまで培ったスキルや経験を重視するところもあります。

入る理由は人それぞれですから、どう書けば正解というものは何もありませんが、以下はどんな場合も重要ではないかと思います。

①「大学が求めているもの」に即して書く。
②思い×スキル×経験で、現在の自分のパッションと優秀さを伝える。
③大学生活中はもちろん、その後何をしたいか考えて書く。
④質問文で聞かれていることに答える。
⑤アメリカ英語圏の人の添削を受ける。

①ははじめに述べたことの繰り返しですが、これが一番難しくて、一番重要だと思います。出願の理由やバックグラウンドを書けと言われると、ついつい自分の考えていることをそのまま書きがちで、それが常に悪いわけでもないのですが、書く前にせよ後にせよ「それが相手にとって役立つものか」「出願先のプログラムの風土や内容にマッチしているか」のチェックは必ず要ります。

「役に立つか」という観点は結構つきつめる必要があります。受験より就活に近いとはじめに書いたので、「焼肉屋で働く」ことに例えてみると、「焼肉が大好きである」は、一生懸命働いてくれそうな印象を与えるものではあるし、焼肉屋によっては、そういう気持ちがないと採る気にならないという店もあるとは思います。しかし、これは「焼肉屋で役に立つ」ことの証明にはなっていません。パスタでも中華でも「料理ができる」ことの方が役に立つと思ってもらいやすいでしょう。

同じように、「学問が好き」「○○の勉強をしたい」といった切り口は、モチベーションを示すためのシグナルにはなりますが、わざわざ大学院を受ける時点でみんなそこそこ学ぶ気はありますから、特別に「役に立つ」という証明にはなりません。

では「料理ができる」人であれば焼肉屋で必ず役に立つでしょうか。これは二つの観点があって、①スキルの中身と表現次第、②仕事のニーズ次第、と言えると思います。

①スキルについては、例えば「レストランのキッチンで働いていました」では、何ができるかよくわかりません。スキルを具体化する必要があります。一方「寿司屋でお客さんに寿司を握っていました」だと、「握り方は焼肉と関係ないかな…?」と思われてしまうかもしれません。ですが「寿司屋で包丁の使い方を仕込まれたしサラダの味付けもやってました、カウンターだったので接客スキルも身に付きました」だったら汎用性がありそうです。抽象的すぎず、狭く見えず、な表現を探す必要があります。

②ニーズについては、「今どれくらいキッチンに人がいるか」「どんなスキルの人が既にいるか」「どれくらいのレベルが求められているか」といった、焼肉屋側の状況に左右されます。料理より実は在庫管理ができる人がほしい、ということもあるでしょう。

焼肉の話を続けてもしょうがないので大学院の話に戻りますが、少なくともアメリカの大学院は、プログラムによって、焼肉屋のキッチンとホールくらい、学生に対するニーズの種類が違います。「大学によって」ではなく「プログラムによって」です。もちろん大学全体としての風土、経営方針はありますが。

スタンフォード教育大学院の修士プログラムで大まかにいえばこんな感じです。

International Comparative Education / International Education Policy Analysis (ICE/IEPA)…研究者気質。定量的に教育活動の効果を測りたいとか、「まだ世の中に知られていないこと」に光を当てたいとか、そういう人が集まる気がします。みんなプレゼン大得意!とかでもなくて(それでも日本人の平均より話せると感じましたけどね…)、「客観的に、『リサーチ』という技法を通じて、新しい知恵を生み出したい」という要素がSOPでは求められるでしょう。あとは名前のとおり国際的なトピックを扱うので、クラスメイトも多国籍ですし、国際機関で働きたいという人も合っていると思います。なお、ICEとIEPAは必修に若干の差があるものの、同じクラスメイトとして過ごしますし、途中で変えられるので、違いを深く考えず「どちらを名乗ったらカッコイイかな」くらいで正直いいと思います。

なお、「リサーチ」と言うと、統計学を使って数字でバリバリ、というイメージを持つ人もいるでしょうが、ICE/IEPAには、定量的な分析だけでなく「質的研究」と呼ばれるものに取り組んでいる人も多くいます。もちろん「教育経済」という分野の第一人者がいまだに授業を持っていたりもして、リサーチの中でもどんな分野に興味があるのか明確にできると、「自分が役に立つ」「合っている」ことを示しやすいと思います。

Policy, Organization, and Leadership Studies (POLS)…「実行力」重視。名前のとおり、リーダーシップや組織の中でのふるまいなど、「自分がどうあるべきか」にフォーカスが置かれているようです。授業の選択の幅も広いですし、一番、日本人が持つスタンフォードのイメージに近いプログラムかもしれません。扱うトピックはアメリカ国内のものが中心で、POLS限定の授業にはコンドリーザライスがゲストで来たりしていました。こういうプログラムは、特定の知識やスキルというより、コホート同士で高め合えることが重要になるので、「自分はどれだけユニークな人間か」「スタンフォードのリソースを存分に使い尽くして、将来どうなりたいか」あたりがSOPでは重要だろうと思います。なお、アメリカ人が9割くらいを占めている上に、元教師などで人前で話すのが得意な人らが集まるので、よほど語学に自信がないなら、日本人は結構つらいかもしれません。

Learning, Design and Technology (LDT)…「実際にものをつくる」ことがやりたい人向け。アプリなど何かしらテクノロジーベースのものを、1年かけて開発します。これもこれで、テック重視のスタンフォードのイメージにぴったりなプログラムかもしれませんね。また、EducationではなくLearningという名前のとおり「学習」に特化している印象で、特定のスキルやマインドを育むためのアクティビティに重点が置かれていて、「不登校はいいのか悪いのか」みたいな価値観を含む問は(もちろん本人次第でしょうけど)スコープの外だった気がします。実際に役立つモノを自分で開発したい、学習効率などの分野を極めたい、みたいな人がフィットしていると思いますし、出願においては、そのためのスキルを磨いてきていることを示す必要があるでしょう。

Stanford Teacher Education Program (STEP)アメリカ国内の教員のトレーニングコース。オリエンテーションもとれる授業も、上の3つのプログラムとはすっぱり分かれていて、卒業式の日に「こんなに人いたんだ」と知ったくらいです。授業のカタログサイトを見る限り、実際に教室でどう教えるべきか、とか、カリキュラムはいかに編成すべきか、みたいなことを扱っているようですが、プログラムの人と話したことがないので詳細は不明です。

Joint MA programs…MBAや公共政策、ローなどとのダブルディグリー。教育学サイドの学びのスタンスはPOLSに一番近いと思いますが、割と自由に授業を取っている人が多かったイメージです。

このほか、Curriculum and Teacher Education (CTE)、Education Data Science (EDS)といったプログラムも新設されており、組織はめまぐるしく変わります!ICE/IEPAも定期的に名前が変わっている模様です。以下に修士課程の一覧がまとまっています。

…同じ「スタンフォード教育大学院」でも、求められるものが全然違いそう、ということが少しでも伝えられたでしょうか。

①「大学が求めているもの」に即して書く。

だけでずいぶん長くなってしまいましたが、おそらく、ここまでの趣旨をご理解いただけた方が次に思うのは、自分は「大学が求めているもの」を持っているのだろうか?という点だと思います。

これは、最終的には「その人次第」としか言えない面もあるのですが、個人的には、日本人は、普段どれだけ「自分なんて」と思う環境にいても、結構、海外の「大学が求めているもの」を持っています。教育関係は特にそうで、これまであまり日本人が海外に留学していませんから、どんな知見も貴重で価値になりますし、日本の教育レベルはまだまだ(放っておいても優位が続くと思っていませんが)高いとみなされています。教育はあらゆる社会の要素と関わるものですから、「日本的マインドセット」や経験そのものも、教育の文脈では「まだ発見されていない価値」になりえます。次回は、そんな話も含めつつ、

②思い×スキル×経験で、現在の自分のパッションと優秀さを伝える。

以降について書きたいと思います!お読みいただいてありがとうございます。

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