投資で雇用を作る

来年から大学院に来るY氏のことを念頭に、公共事業について考えてみようと思う。スタートラインはミクロなら公共財、マクロならISLMが分かりやすいだろうか。財源調達の学である財政学からすれば、公債論と雇用がポイントとなろう。マンデルフレミングをベースに考えれば、単なる公債発行と公共事業の組み合わせはΔGとして把握されるため、国民所得増と金利の上昇に帰結することになる。国民所得の増は、直接的な賃金払いのみならず産業連関の中で生産の刺激となる。もっとも、公共事業による生産性の向上は、観察が極めて難しいかもしれない。この時点で既にかなり複雑だが、金利に果たして影響があるのかどうか。民間投資が旺盛で慢性的な準備不足の場合、クラウディングアウトが起こる可能性はある。が、それが金利の上昇をもたらすかどうかは自明ではない。日銀が準備の供与をするならば、この限りではない。民間投資が減退する局面、もしくは銀行による信用創造ではない方法での資金調達が増加する局面では、銀行の準備は余る傾向が強まるのでクラウディングアウトは起こらない。事態はさらに複雑である。金利の上昇を通じて為替高が生じて純輸出が減少するというのがマンデルフレミングモデルだが、この効果はかなり怪しい。仮に米国金利より国内金利が高くなっても、単純に円高は導かれないし、円高が単純に純輸出を減らすかというとそうでもない。現実は複雑だが、どこにどんな論点があるのか把握しておくことは大切で、長い論理の連鎖の中でどこに焦点を当て、なるべく高い精度・解像度で論理を確定していくのか。それが大事。

さて、前置きが少し長くなってしまった。一番言いたかったことはこの先で、信用創造が増加する局面と減少する局面ではマクロ的効果は全く異なるものになるのではないか、という発想が背景にある。債務が一定であることが長く続いた場合(地方債の場合は20年償還が基本だったはず)、公債発行と税財源による償還とは同額になる。(ただし、地域ごとの効果は、それでもかなりの偏在が現れることになるだろう。)その場合は税財源による政府消費と基本的な効果は同じになる。もちろんそこでは単価を通じた分配面へのアクセスや、産業連関を通じた波及効果は異なってくるわけだが。いずれにせよ、租税で公債償還という一種の資金吸収オペと、公債発行が均衡するので、租税の効果と支出の効果をあたかもセットのように捉えることができよう。

しかし、信用創造が拡大する局面では、資金吸収以上の支出が実現することになる。効果はちょっと違うけれど、金を吸ってばら撒くのと同じ方向の効果(全額が投資需要となるので現金給付よりもかなり大きい)がある。これは、民間企業の活動にも当てはめることができるが、民間企業の活動を地域という区切りで見るのはかなり難しい。地場の企業もあるが、行政区画を超えた企業も数多くあるからだ。いずれにしても、税や社会保険料による政府消費よりもかなり強い雇用効果がある。そして、信用創造が縮小する局面では、あたかもら雇用吸収オペ(笑)のような効果を発揮することになる。もちろん、経済の成熟化に伴い、投資主導から消費主導になるのは、ある程度自然な流れのようにも思える。しかし、その際にかなり強く余剰雇用が発生する圧力が高まる。そして、経済全体を見渡すならば、その余った雇用がどこに流し込まれたのか、が重要となろう。小泉改革を想起されたい。この1990年代以降の日本の姿が少しクリアに見えるのではないか。

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